侵入者
幾つもの木片がシロの頬を掠めていった。
急いで居間へ向かう。
ブワッとサウナの石に水をかけた時のような息苦しい熱風に身を包まれる。
「なっ、くそっなんなんだよ。」
徐々に視界が安定してくるとより絶望的な光景が広がっていく。
外界とこの部屋を遮っていた壁はなく、まるで巨大な鉄球でぶち抜かれたかのように大きな穴が開いている。
その割にキッチンから玄関に向かっての道筋は、様々な破片が散らばっていいるものの大して損害は見られない。
再び小さな爆発音とともに居間に開いた大きな穴が火柱に遮られるように閉じていく。
ファイヤーウォールそう呼ぶのにふさわしい業火の壁。
その業火に照らされるようにいくつかの人影が明らかになる。
「みんなっ!無事か!?」
「大丈夫じゃないのはあんたの家じゃない?」
険しい表情はそのままに軽口を叩く少女は、先程とは髪の色、そして長さが変わっていた。
未だ爆発だか水蒸気だか何の煙なのかよくわからないものがグルグルと立ち上ぼる部屋では、かろうじて存在が確認できる程度だ。
「コトっ!」
「爆風のショックで気を失っておられるだけです。シロ様は…ご無事で何よりです。」
アリエッタからコトを受け取る、まるでいつものようにスヤスヤと眠っているように見えた。
ソレが逆に何かシロの琴線に触れたのか、唇を噛みしめる。
ゆらり。
白銀の獣が立ち上がる。
穏やかな細い目はつり上がり、まるでこの後の自分の生を放棄したかのような激情を瞳に宿して。
両翼にはいつもと変わらぬ様子で顔を掻く白とピンクの幼き獣。
知らぬものが見れば、まるで場違いなこの二匹。しかしシロとコトを除いたこの場にいる誰もがこの可愛い生き物を庇うような真似はしない。
何故なら、この爆炎から全ての命を守ったのは白とピンクのプリズムの防壁。
ソレがなければ爆風は玄関を突き抜けていたかもしれない。それでもこの場の被害は甚大だ。
爆風で乱れた髪を整えながら、アリエッタは炎の壁へ向かって問いかける。
「お嬢様の折角の休日、こんな無粋な真似をする方はどなたでしょう?姿を現したらいかがです?」
ゆらめきが激しくなる、内側から手を押し出したように形どると、まるで矛盾を吐き出すかのように何かを部屋の中へとはじき出す。
『ドンッ』
と少女が回転し着地する。
「ティファ!?」
思わず声を上げ警戒レベルを下げるシロをよそ目に他の二人は無言の訪問者を睨みつける。
「……。」
睨み合うも一瞬。
すぐに全ての視線が一点へと集中する。
「あら…それ程簡単な結界じゃないはずなのに…ね。」
吹き飛んだはずのソファが新品同様にその形を復元させていた。
その上に優雅に腰を掛け脚を組んでいるのは、フードを被ったローブ姿の女性。
「モ…モザイク?」
俺は何かのTVでも見ているのか?目の前の人物の顔にモザイクが掛かって見える。
「そう見えるなら貴方の中で見てはいけない者に書けるフィルターがそれなんでしょう?
でも、モザイクってなにかしら?…。」
魔法なのか?魔法なんだろうな…。だが今はそんな違和感を気にしている場合じゃない。
今眼の前にいる奴は、次元が違う…それだけは、はっきりと分かった。
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