この世界にないもの
前の世界にいた時に、思ったことがある。
あの大好きなキャラの髪型にしてみたい。
元々二次元のキャラなんてとんでもない髪型や髪の色をしているんだから、今考えて見れば似合うはずもない。
だが、あの髪型はどう維持しているのだろう。
宇宙で闘いながら宇宙戦艦で日々を過ごすあのキャラや、地球ではないどこかの世界の歌姫。
一体誰がカットし、だれがセットしているのか。
リアリティを求めれば求めるほど矛盾する。
何故ふとそんなことを考えているのかというと、この世界にきて俺は誰かに髪を切ってもらったことがない。
別に伸ばしているのではなく自分でカットしている。
この世界では鏡はとても高価なものなのだが、だいたい教会に行けばひとつふたつ大きな姿見が飾ってあるものなので、その場を借りてよく自分でカットしていた。
誰かに髪をいじられるのが好きじゃない、このワケの分からない世界でどんな髪型に荒れるのか不安だった…わけではない。
今まで田舎を巡ってきたため、床屋というものに出会わなかったのだと勝手に納得していたが。
そういう問題ではなかった。
この世界には床屋という概念がないのだ。
もちろん、美容室も理容室もそれに関するものが存在しない。
では、どうやって髪を切っているかというと大概が家族や夫婦同士で切るものだそうだ。
そこになんの疑問もおきないらしい。
まぁ小さい頃は俺もそうだったし、それでずっと育てばなんの疑問も持たないのかもしれない。
王族になると色々とあるそうだが、貴族ですらそういうものは家族で済ますのだそうだ。
片手で少し伸びすぎた前髪をつまみねじりながら、片手でコトの小さな手を引きながら。
またあのおやっさんの店に向かっている。
「ナイフでカットするのに慣れん…。」
そう、包丁を作ってもらうついでにあるものをオーダーしたのだ。
――――――
その頃、ドワーフの店の前で右往左往している若い男が一人。
イライラしている様子はなく、どちらかと言うと何か大切な何かを待ちわびているかのような顔だった。
「いいかげんにせんか!店の前でウロウロと!」
見るからに不機嫌そうなおやじの雷が落ちる。
「でも、師匠~…。これはスゴイ発明品ですよ!王都でも見たことがない!!」
「そんなことはわかっとる。だが貴様がなにかをしたわけでもあるまいっ!店の前をウロウロするな!うっとうしい。」
腕を無理やり力尽く引っ張ぱり、店の中にぶん投げる。
「いやあああ…。」
「フンッ」
そんなやりとりをいつものことと、気にする様子はない近所の商店のおばちゃんに一礼し、不機嫌そうにまた工場へと入っていく。
しばらくしてシロ達がたどり着いた頃、顔をボコボコに腫らした若い男が出迎えることになる。
まったりとショートストーリーが続きます。
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