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ことしろ  作者: 無色瞳明
第一章
89/166

異常

 「あ、あの…さ、私本当に名乗ってなかった?」


 「…はい。」


 「はぁ、っそ…。私はっ。」


 「たっだいまーー!」


 ダッダッダッと走りこんでくるコトとキツネーズ。


 「おかえり。」


 「おかえりなさいませ。コト様。」


 いや、あんたのその挨拶はなんか違う気がする。


 「おお、おきゃくか?こっちもおきゃくさんだぞっ」


 コトは真っ直ぐキッチンへと向かい牛乳をコップに注いでいる。


 「お客さん?」


 「そう!」


 「そういうのは牛乳注ぐ前に言え。」


 俺は二人に断りを入れ玄関へと向かう。

 

 玄関開けっ放しかよ…。


 外の様子を伺うが、冷たい風が頬を撫でるだけで特に誰がいるわけでもなかった。 


 「おい、コト誰も…」


 『キシャアアアアアアアアアアアアアア』


 鼓膜に突き刺さるようなビリビリと響くような奇声があがると同時に。


 『パリーン』


 『ガッシャァァァアアアンン!!』


 「きゃぁあああ!?」


 「と、とうちゃっ!?」


 次いでガラスが割れるような音と闇を引き裂く悲鳴がこだまする。


 バチバチッと火花が散りなにかが弾けるように爆風が巻き起こる。自分が先程まで座っていた場所から。  


 

 ――――――  


 「まったく…何が面白くてこんな事を定期的に開催するのかね。」


 あからさまにつまらなそうな表情を浮かべるのはいつもと違う小奇麗な正装に身を包んだアグエロ。


 「しょうがないだろ?文句は父様に言ってよ。でも僕は王都に来るのは楽しいけどね。」


 その隣で頬杖をつき同じくタルそうに様子を窺う男もアグエロと同じ服に見を包んでいた。


 「王都なんて別に面白れぇでもねぇだろ?」


 「それは兄さんが都会に住んでるからでしょ?」


 うちはとてもとてもと、手をふっておどけてみせるのは男性というよりは少年に近いあどけない表情をしていた。


 「そうか、お前はあの辺境を任されてんだったな。」


 「うん。でも正直あそこら辺が僕にはお似合いだよ。下手に重要な拠点を任されたら…。」


 チラリと前方に座っている数名を見やる。


 「まぁな。俺的にはお前にこそきちんとした街の舵取りをしてもらいたいんだがな。」


 「勘弁してよ。ただでさえ庶民の出ってことで睨まれてるのに。」


 「フンッ。あんなツルマなきゃなんも出来ないような連中はほっとけばいい。」


 わざと聞こえるように声のボリュームを上げるアグエロに、あわあわと手をばたつかせながら前方に頭を下げている。


 「エデン、お前は気を使いすぎなんだよ。」   


 「やめてくれよ、兄さん。困るのは僕なんだから。」 


 エデンと呼ばれた十五歳の少年は、栗色の髪は清潔感を失わない程度にカットされており、よく見ると目元の辺りはアグエロとよく似ている。


 ただ若獅子のようなアグエロとは対照的にどこか小動物的な可愛らしさを残すエデン。


 今この部屋にいるものを繋ぐ絆は片親の血だけ。


 すべては王の子であり、すべてが次期王候補である。


 「では以上を持ちまして定期報告会を終わります。」


 書記役の男性の声が響くとアグエロとエデン以外の王候補は散り散りに散っていく。


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