紅白
テーブルに並べられたのは白いスープと赤いスープの二種類の鍋だった。
四人がソファに座り、三匹が床に。
それぞれの小皿を持ちながら鍋の具材を盛っていく。
「はい。コトちゃんはこっちね。」
「シロはこっちね。」
…なんかすげぇ嫌な予感がするんだけど。
「サラサさん、なんで俺だけ赤いやつ?」
「え?それはまぁこの家の一番偉い人だから??」
何そのとってつけた感満載の言葉。
「とうちゃんはえらいのか!?」
「おとうさんはえらいよ~。」
そんなことを言いながらアヤセは白鍋を自分の小皿に盛る。
「…あの。サラサさん、それ絶対辛いですよね?」
二人の肩がビクンッと揺れた。
一瞬顔を見合わせた二人は
「そ、そんなことないですよっ。やだなぁ~。はいっ。」
じゃぁなぜ、俺のだけ赤いのさ。
「……。」
「…食べなさい?」
サラサさん怖い…。
ええい!ままよ!
ガッと皿を手に取ると恐る恐る口をつける…。
「…???…うまい。」
あれ?元の世界ではこの色は危険度マックスなんだけどな…。
少しピリッとするけどそれが逆に、そして出汁が濃厚でうまい。
白い鍋をつつきつつ「そうでしょ?」とごきげんな様子にまだなにか違和感が…。
一口、二口具材を食べるたびに身体が芯からカッカッしてくる感じ。
これは冬にはいいな。
などと冬場の居酒屋を想像していたら、三口目から急激に辛味が激しく効いてくる。
しばし耐え難い熱さが胃を焼くと次は口の中がヒリヒリしてきた。
『グッッゴゴゴゴゴ』
何かが胃の中から上がってくる
「ヒッヒィ、カ、カ、カ、カラッ!!!」
「ほら、コトちゃん白いの食べてからじゃないとあーなるからちゃんと食べようね。」
「カッカッカッはかったな!?シャ○ァァァァ!!」
赤い鍋に沈む俺はそれから暫く辛さと白鍋の口内戦闘が続き、三十分を経過した頃やっと落ち着いてきた。
その間ずっと涙を流しながら爆笑する美人姉妹は満足そうに
「紅白鍋はね、私達の故郷の祝い料理なの。
白を先に食べないと体中が燃え尽きるって言われてるんだけどね。」
「じゅ、充分燃え尽きました。」
白鍋の方は牛乳鍋のような味がしたので、所謂辛いものには牛乳がいいってあれがこの世界でも生きているのか。
確かに白鍋で辛味は和らいだが、本来先に食べて胃や喉を保護するんだそうだ。
ひどい。
白鍋を食べた後、紅鍋をつつくコトが普通の辛さリアクションなのを見れば、サラサさんの説明通り先に食べればこうはならなかったんだろう。
「ひどいですよ。二人共。」
「あっははは、ごめんごめん。」
又笑い出したし…はぁ…まだヒリヒリする。
それでもクセになりそうな旨さだ。
俺が紅鍋をつつく度爆笑する姉妹とコトを半にらみしつつ、ふとキッチンの方を見ると三匹の狐が『カァーッカァーッ』と火を吹きそうな擬音を発しながら凄いスピードで走り回っていた。
…あれ大丈夫か?
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