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ことしろ  作者: 無色瞳明
第一章
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大人の挨拶

三日後

 午後の昼下がり、メイン通りには平日にしてはまぁまぁな人並み。

 少し喧騒を外れたその先に、その店はあった。

 

 「そこにある。」


 背の低いおやっさんが相変わらずぶっきらぼうにそう言い放つ。

 今日はこの前いた若い男の店員はいないらしい。


 ジィーーーー。


 無造作に重ねて置かれていた調理具を手にとって眺める。


 形は微妙に違うけど、使いやすそうだ。


 「どうだ?」


 「はい。気に入りました。

 これでお願いします。」


 「そうか。」


 ジィーーーー。


 少し微笑んだかのように見えたのは錯覚だろうか?

 すぐさましかめっ面を取り戻し、そのまま奥の工場へと引っ込んでいった。


 金はどうすんだ…。


 おやっさんに声をかけようとした時だった。


 ジィーーーー。


 ああ、なんつーか…不思議な光景な気がする。


 子供としかめっ面のおっさん…。

 

 連れてきたのは失敗だったかと。声をかけようとする。


 「こんにちわ!」


 「……。」


 工場こうばが一種異様な空気に包まれる。

 やばい…ちょっとおもしろい。


 「これ、こうして…こうか?」


 置いていた木槌で、そのへんの地べたを叩く。

 そんな子供を睨みつけるおやっさん。


 傍から見るといつ怒られるのかとヒヤヒヤする状況だが。


 「それともこう…!?ああ」


 木槌の重さを片手では支えきれなかったのか、すぽっと後方にすっぽぬけて木槌が飛んでいった。


 テケテケと木槌を拾い帰ってくると

 

 「大人の仕事だ…。じいちゃんすげぇな!」


 真っ直ぐな目。

 そうだ、あの真っ直ぐな目はどうしようもないほどに心の奥を直撃する。


 「誰がじじいだ。わしはまだまだ現役だ。」


 ……いや…おやっさんそれガキに言ってどうする…。


 「これ、父ちゃんも飲んでるぞ!」


 コロコロ変わる展開は本当にコイツ特有だな…。

 最初の頃はあれでかなり疲れたが…。


 まだ黒い液体の残るカップを持ち上げて匂いを嗅いでいる。


 「そうか。」


 「昨日、飲んだけどな!すぐ吐いた!あははは。

 大人はすげぇな。」


 「それは、おやっさんに譲ってもらったんだ。

 すいません。まだ敬語も教えてないんで。」


 そういうと俺はガキを回収しようとするが、スルスルと手をすり抜け今度は作りたての鍋を楽しそうに見ている。


 「似てないな。お前の子供か?」


 そう問われ少し迷ったが素直に答える。


 「いえ、血はつながってませんよ。

 ま、流れ的に親子やってます。」


 少し目を見開いて、びっくりしたような顔をしたおやっさんは少し新鮮で。


 「小僧、名前はなんという?」


 「えと…。」


 小僧…て。

 俺のことだよな?

 まぁ、そんなふうに見えるのか。


 「アマクサ・シロです。」


 「あの子供は?」


 パタパタ走り回るガキの首根っこ捕まえる。


 『ギャッ』


 「おい、ちゃんと挨拶しろ。

 教えただろ?」


 

 「アマクサ・コトです。五歳です。…えと、父をよろしくお願いします。」


 『ビシッ』


 いや…なんで敬礼ポーズ。


 よろしく教えてねーし。

やっと名前が…。

長い…いや話は短いですが。

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