決着
「どうしたシロ?」
少し遅れて木々の枝を避けながらおやっさんが顔を出す。
「…ん?。なんでぇお前らか。」
これは又不思議なことを言う…おやっさんと筋肉知り合い?いや、なんか性格合わなそうだし…なんか険悪な関係か。
早くコトを探さないといけないのに…。
俺は少しイラッとして、背中の剣の柄に手をかける。
「「おやじ!」」
ハモった!?おもわずぬかるみに足を取られコケそうになる。
「おやじっ!?」
俺はキョロキョロと筋肉とおやっさんの顔を交互に見やる。
おやっさんは別に気にした様子もなく。
「丁度いい、お前ら手伝え。コト…ああ、人の子だ。
フィルの倅がからんでる。」
「ガキ?…ああ。」
筋肉兄はチラっと俺を見やり
「あの時の子供か。」
「知ってるなら話は早い。わかったら散れ。声のする方だ。
…おい、狂狐がいるかもしれん。子供の命を優先しろよ。」
「フェローか…。三流が狂狐とはな。いくぞ。」
「わかった。」
筋肉兄弟は特に引っかかりもなくそのまますごいスピードで走っていった。
「シロ、こっちも急ぐぞ。」
「は、はいっ。」
道なき獣道を疾走する二つの肉の塊に、あれが上位の冒険者かと少し感心しながら前へと進む。
待ってろ。コト。
――――――
「中々壮観じゃな。」
目の前に広がる光景におやっさんは苦笑いし、俺は口をあんぐり開けて放心する。
有象無象が転がっている…おやっさんの視線が上へ向く、木の枝に引っかかってる奴までいる。
生きているのか定かでないものが転がる先に、先発した筋肉兄弟が剣を抜き身構えている。
一度下がった緊張を再び最大まで引き上げる。
狐…?
「狂狐か。」
おやっさんも斧を持つ手に力を入れる。
双璧の筋肉越しに見たものは、コトの前で目を閉じ鎮座する白い狐。
片目を開けチラリと俺を見るとスッとコトの後ろへと自分の身を移す。
まるでコトを持って行けとでも言うように。
「お前が守ってくれたのか…。」
よくわからない。ただそう思った。
俺は未だ構えを解かない筋肉兄弟に声をかける。
「悪い。引いてくれ。」
「…。」
少し不満げな弟と無表情の兄が剣を構えたまま後ろに下がる。
一瞬引き留めようとするおやっさんを無視し、俺がコトの前に駆け寄る。
俺は跪き横になったコトを拾い上げる。狐は少しだけ興味深そうにそれを近くで見ていた。
怖くはなかった。
俺は狐に礼を言う。伝わらないことはわかっていても言葉にしようと思った。
「ありがとう。きっとお前が守ってくれたんだな。」
頭を下げた俺を狐が、どう思って見ていたかは知らない。
ただ下げた頭にチョコンと片手をお手の要領で置かれると非常に頭を上げづらい…。
その構図は、まるで王と王に仕える騎士の図。
「プッ。ワハハハハ。」
俺は頭に手を乗せられたまま、爆笑するおやっさんを睨む。
その隣で顔面を引きつらせながら笑いを噛み殺そうと必死な筋肉。
「ハハハいや、すまん。あまりにも予想外だったもんでな。」
やっと手をどけてくれた狐を見ても狐は何も答えてくれず、ただ時折口の周りを後ろ足で掻いていた。
「お前今度うちの風呂は入れ。」
いつの間にか森は静けさを取り戻し、雨は上がっていた。
森のお話には少しだけ続きがあります。
コトが喜ぶようなお話が。




