あくび
「やった!!とったぞっ!!」
興奮気味に男が叫ぶ。
遠巻きにだが、狂狐の白い体毛に全ての矢が確実に突き刺さるのを見た。
少なくとも相当な傷を追って瀕死のはずだ。
やった。やった。と小言を呟きながらターゲットへと近づいてゆく男達。
そのどれもがどこか狂気に満ちた表情だった。
徐々に近づく獲物に少し警戒し速度を落とす。
五メートル前まで近づきやっと男達は歓喜の雄叫びを上げる。
「ほ、ほんとうに捕った!…うおおおおおおおおおおおおとったぞぉおおおおおお!!」
男六人の眼にはっきりと映るのは、白い狐に無数に突き刺さった弓矢。
イチ、ニ、サン…。
放った弓矢の半分以上が命中していた。
「英雄だ…コレで俺達は英雄。」
うわ言のように繰り返す。
「こいつ結構大きいな…。」
何気なしの一言が一人の男を冷静にさせる。
もちろんこの計画を発案した男だ。
あの狐はそれほど大きくなかったはずだ。
ヘタしたら犬よりも…。
だが目の前にいる白い塊は、まるで小さなドラム缶にとぐろ状に毛皮を巻きつけたオブジェのように座していた。
「なぁ…あのガキはどこだ?」
そうだ。あのガキがいない。
慌ててキョロキョロ見回すが人の子の姿は見当たらず。更にもうひとりがひとつの異常に気づく。
「なんで、血が出てないんだ。」
確かに矢は無数に突き刺さっている。
だが刺さっている白い体毛は綺麗なまま血液は一滴も流れていない。
誰もが気づかないふりでその場を取り繕う。
「きっと、狂狐は血が、流れてないんだ。」
「そ、そうだ。」
うんうんと頷く男達の顔のどれもがひきつっていた。
『くるん』
とぐろ状に巻きつけられた毛皮がとれると同時に無数の弓がその場に『カランカラン』と落ちていく。
背筋に伝う汗は冷たく、先程までの男達の歓喜をまるであざ笑うかのように狐が体毛についた雨粒をぶるんぶるん飛ばしカーミングシグナルを送る。
狂狐が細長くなり巻き付いていたのは気を失っているコト。
男達はその事実に驚愕しながら徐々に自分たちに迫っている危険に気付き始める。
狂狐は小さくあくびをした。
まるで稚拙な攻撃をしてきた人間をあざ笑うかのように。
少し真面目なストーリーが続いていますがもうすぐ決着です。
狐ってなんか好きです。特にキタキツネ。
意外と鋭い牙もたまりません。




