あくま
差し出した手の平にキスをするように鼻をつけ燻製の肉を咥えた。
「たべた!!」
初めて自分の手から餌を食べた感動にうち震えるコトを遠距離から狙う矢が五本。
男の合図を持ってすぐに放てる状態で待機する。
息苦しいほどの緊張感の中、その時は訪れる。
一匹と一人が射軸に入る。
男の一本立てた指先が倒されると同時に矢は放たれた。
『ギリッッィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ』
まず五本の屋が山なりに放たれる。
続いて無数の矢と共に怒号ともとれる叫び声と刀を抜くかすれた金属音が響いた。
「撃て!!撃て!!」
連続で放たれる矢が今度は直線上にとらえたコトと狂狐を目指し唸りを上げる。
「えっ!?」
コトの後方から聞こえる声に、はじめて異変に気づく。
そこでコトが見たのは、雨粒の如く上から降り注ぐ弓矢と木々の間から顔を出す汚らわしい笑みを浮かべた男達。
「あくま…」
くるりんとしっぽを丸めコトの前で鎮座する狂狐。
つぶった片目を後足で犬のように『カッカッカ』と掻くと、まるで「めんどくさいな」とでも言いたそうな表情で『フン』と鼻でため息をついた。
――――――
右の肩に片手斧二本を担いだドワーフと背に不似合いな剣を背負った二人が無言で突き進む。
「コト…。」
嫌な確信に心がざわめく。
今此処にコトがいる。
毎朝ゴソゴソと台所を漁り、森へ出かけていくコトを見て見ぬふりをした。
心の何処かで、元々森の中で育った子供だからという考えがあったのかもしれない。
だがこの森はコトが産まれ育った森とは違う。
ここは森という名の狩場だ。
元の世界でだって猟の流れ弾があたり亡くなる人はいた。
この世界でだって十分考えられる、…いや、猟や狩りというものに密接しているこの世界のほうがより危険度が高いはずだ。
俺が顔にかかる雫に感触を感じなくなった頃、遠くで何かが聞こえた。
焦って速度をあげようとする俺に
「シロ、落ち着け。」
「…。」
「相手は複数だ。お前にまで勝手にちょこまかと動かれたら助かるもんも助からんぞ。」
そうだ、俺に複数を相手に立ち回れる力はない。
それどころか、一人とまともに打ち合えるのかすら微妙だ。
「いいか、お前はコトを見つけることを最優先だ。見つけたらすぐに離脱しろ。」
「おやっさんは。」
「ワシはあの程度のガキ共に遅れを取るほど耄碌はしておらんよ。
それにな…。まぁいい、とにかくそういうことだ。わかったな。」
…コクリと頷くと、更に騒々しくなった場所へと急ぎ歩を進めた。
少し体調が回復してきました。
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