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ことしろ  作者: 無色瞳明
第一章
5/166

家と懐かしいの

宜しくお願い致します。

 「こちらの物件で最後ですね、えーと」


 いくつかの内見済ませた結果、俺は最初に見た白壁の一軒家に決めた。

 

 この国の住居事情は、基本元の世界と変わらないようだ。

 持ち家と賃貸とがあり、その大家となるのが一般人か領主かという違いはあるが。


 持ち家となる場合は領主から土地と建物を買い取る形となり、賃貸もそれと同じく賃料を支払うことで領主様から借り受ける形となる。

 基本、どの物件もどちらの契約でも可能であり、当人の資産、目的次第で選択肢が別れることになるだろう。


 簡単な賃貸契約書類にサイン等すると、思ったよりも簡単な手続きで家が借りれてしまった。


 「まぁ、これもあの商人のツテあってこそかもな。」


 「かもな。」


 偉そうに横で腕を組み胸を張る1メートル少々の青い髪の物体の頭をワシャワシャと撫でると。

 

 「ここが今日から俺たちの家だ。」


 「えっ?ここに住むのか?」


 「お前は今日半日かけて、何のためにいくつも家を見てたと思ってたんだ…。」


 「え?か…カンコー?」


 「どんな観光だよ。」


 とにかくあとは、預けておいたロバ車の積み荷を運び込んで、足りない生活用品を集めないとな。



 ――――――



 「えーと、ここ?かな?…すいませーん」

 

 表通りの商店でタオルなどの生活必需品を揃えた後、商店の店主に教えてもらった金物屋があるらしい裏通りにたどり着いたわけだけど…。

 店主から渡されたメモを見直し確認する。


 表通通りでの買い物の時点ですべての体力を消費してしまったらしいガキは、自宅で惰眠を貪っている。

 

 「多分、ここだよな…。」


 

 どちらかと言うと、小汚い工場こうばのような店とは呼べないような入り口の奥からのっそりと背の低いいかにも頑固そうなしかめっ面をした壮年の男性が顔を出す。


 「なんだ。」


 いや…客になんだはないだろうというツッコミを仕掛けた時、その又奥から声が掛かる。


 「おやっさん、お客には『いらっしゃいませ』だってもう…。

 ああ、すいません…見ての通りの頑固者でして。」


 奥からおやっさんと呼ばれた壮年の男性をフォローするように出てきた若い男がどうやら接客担当らしい。


 「いや、それよりここは金物屋さんでいいんですよね?」


 別にそんなことで喧嘩をふっかけるほど短気でもない俺は、すぐ本題へととりかかる。

 ここに来た目的である、鍋とフライパンを手に入れるために。


 店の中へと招き入れられると、確かにいくつかの鍋やヤカンらしきものが置いてあった。


 しばらくそれらを眺め、手に取ることもなく店員の男に一声かける。


 「ここにあるので全部ですか?」


 「そうですね、そちらにあるもの以外ですとオーダーメイドになってしまいますね。」


 そう言うと男はチラッと気難しそうなしかめっ面のまま、俺達の会話を横目に金槌を打ちつ受けている親父を見やる。


 「フンッ。」

 

 そんな仕事はやらんと言いたげな態度に、若い男はため息混じりに俺にペコリと頭を下げる。

 

 店においてある鍋やフライパンは、ほぼすべてが銅製の物だった。

 確かに見た目には美しく熱伝導率は高いが、手入れが難しく水気に弱く緑青に錆びるのであまり好きじゃない。

 

 別のとこを探すかと言いかけた瞬間、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。

 街中を歩いている時に、古い喫茶店からふと漂ってくる香ばしいふわっとした香り。


 「これは…珈琲?」


 香りのもとをたどると気難しい親父がポットから黒い液体をコップに注いでいた。


 チラリと俺を片目で見やると


 「お前、これを知っているのか?」


 低い声でそう言うと立ち上がりカップ片手に近づいてきた。


 渡されたコップの中を見ると、やはり黒い液体に細かな泡が浮いていた。

 香り見た目は珈琲そっくりだ。


 「いただいても?」


 俺はそう親父に断りを入れるとカップに口をつけてみた。


 『ゴクリ』


 一口で懐かしい苦味が口の中に広がった。

 多少、味が薄いが確かにブラック珈琲の味だ。


 「あのこれは?」


 「カラフェだ。

 俺達ドワーフが好んで飲む。」


 え?ドワーフって言ったか…それにカラフェ?カフェがなまったのか…。

 

 それにこのコップ…鉄製のマグカップだ。

 びっくりした表情でカップを見つめ呆けている俺に


 「珍しいやつだ。

 人間でカラフェを飲める奴など、はじめてだ。

 それに、そのカップがそんなに珍しいのか?」


 「おおお…、おやっさんが接客を覚えた。」


 プルプルと涙目で感動に打ち震えている様子の若い男を、拳一閃殴り飛ばす。

 

 「昔、そう昔飲んだことがあるんだ。

 懐かしい味だ。」


 そう言い涙ぐむ俺を、おやじは不思議そうに見上げていた。


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