おもいだす
この街は、森、砂漠、山に囲まれているこの国でも珍しい場所だ。
言っても、砂漠は遭難するほど広くはないし、森もそれほど深くない。
山もさほど高いわけではなく、元の世界ならちょっとしたハイキングコースになる優しい山だ。
海に面してはいないため海の幸には縁遠いことを除けば、生活するにはかなり人気の街だ。
城壁はこの世界でも非常に高く、もしそういうことになったとしてもこの国一二を争う防衛力も魅力であり、商業、流通の発展に一役買っている。
この街で店を持てるようになれば一流というのが最近のこの国の風潮である。
そんな人気の街で、何の気なしにのんびり暮らしている二人。
昨日の宴が嘘のような午後の昼下がり、大量の洗い物を済ませた居間で大の字になる二人。
「静かだなぁ…コト。」
「ん~…。」
「とうちゃんのとうちゃんってどんなやつだった?」
「なんだ突然?ん~そうだな。頑固だったな。ただ自分の意思を曲げてでも家族を優先する優しさもあった。」
「むずかしいな…」
「コトのじぃちゃんはやさしかったか?」
「じぃちゃんはとっってもやさしい。むれでいちばんつよかった。」
いや…それじゃ動物。
「なぁ…コトのじぃちゃん達は何処に消えたんだろうな?」
この年のこどもを一人残して消えるなんて普通じゃ無い。
俺は面倒臭いことは嫌いだし、何よりコトにとって昔の事を思い出すということが辛いことなら無理にする必要なない。
それでもいつか、原因や結果を知らなければいけない時が来るかもしれない。
「じぃちゃんはいつもいってた。『いずれお前は一人になるから生きるすべを覚えろ。じぃちゃんたちはいなくなっても、遠くからお前を見てる。』って。」
きっとコトの祖父は年齢的に自分たちが先に逝くことを遠回しに伝えていたんだな。
一人になる。か
周りにはコトと同じくらいの年の子供はいなかったのか。
それどころか両親くらいの年齢の者もいなかった?
やっぱりよくわからない。
「そうか。」
コトは上半身だけむっくりと起き上がり俺を見る。
「でも、とうちゃんとであったからな!すぐひとりじゃなくなった!」
「そうだな。」
窓から吹き抜ける風がコトの蒼い髪を揺らす。
「…。」
「…。」
コトの頬に雫はつたわない、つぶらな瞳は涙で滲んでもいない。
でも俺にはコトが泣いているように見えた。
「森にいくか。」
「え?」
「コトの村までは無理だが、近所に森があったろ。あそこなら今から日帰りでいけるだろ?」
「いく!」
俺も上半身を起こし一度大きく伸びをすると外に出る準備をする。
剣持ってったほうがいいのかな?
読んで頂いてありがとうございます。




