気にしたら負け
宜しく御願い致します。
「今度の村はいっぱい兎いるか?」
パカパカパカ
「いーや、今度のはいねーな。」
パカパカパカ
「…そうかぁ、残念だぁ。」
パカパカパカ
「大体、次のは村じゃなくて街だ。」
「そうなのか!?」
パカパカパカ
「ああ。」
「それはすげぇな…。」
「ああ。」
「…街ってなんだ?」
パカパカパカ
「ああ。」
不毛な会話はエンドレスだ。
気にしたら負けだ。気にしたら。
――――――
「コイツは中々だな…。」
「すっっげぇぇぇなぁ!なんかの祭りか!?」
「…いやまぁ、祭ではないと思うぞ。」
三十メートル程だろうか、馬鹿でかい城壁を見上げる俺と、全く別の街の入口の検問の行列を見つめ口を大きくおっぴろげている子供。
「とりあえず、あそこに並ぶか。」
目と口をあんぐりと開けたまま、失神気味の小動物の後頭部をはたくと、荷ロバを引きながら検問の列へと歩いて行く。
俺がこのガキとあの村を旅だった日から数えて、もう一年以上がたっていた。
その間、いくつかの村を経由しつつ、とある村で知り合った旅商人のツテでこの街へとたどり着いたわけだが。
旅中再確認したことは、やはりこの世界は俺の知っている世界ではないということ。
まぁ、別にこれはどうでもいい…。
ここがどこだろうと、帰るすべは今のところないわけだからウダウダしてても始まらない。
変わったことといえば、このガキに名前をつけたことくらい。
あとは、最初の村から拝借した資産を元に一稼ぎできた為、懐具合はまぁまぁだった。
旅の最中、永住してもいい環境の村もいくつかあったが、何よりも個人的にでっかい街を見てみたかったというのが大きいだろう。
「父ちゃん、前」
指をさす先に視線を移すとしばらく改装していた間に、列が空いてしまったらしい。
そう、よくわからんが今でも俺はコイツに「父ちゃん」と呼ばれている、最初のうちは呼ばれるたびに訂正していたものだが、今じゃもうどうでも良くなった。
コイツにとって、俺が兄でも友人でもなく何故父という役割を振り当てたのかは興味があるが…。
今となっては、改まって聞くほどのことでもない。
コイツにとっては俺が【父ちゃん】なのは、呼び方をどう変えようがどうしようもない事実なんだろうし。
それにいちいち人と遭遇するたびに、それを説明するのに疲れた…というのもある。
あれは苦行だ…。
ま、ともかくしばらくはこの街で腰を落ち着けて過ごすつもりだ。
仕事ないけどなんとかなる…よな…?