コト
鶏肉、卵、チーズ、魚。
手元にあるものでスモーク出来るものを全て挑戦してみた。
どれも上手くスモーク出来たと思う。しばらくしたら、おやっさん達がやってくるはずだ。
「コト、盛り付けをするぞ。」
「もりすけ?」
「盛り付けだ。この皿にそこの箱に入ってる鶏肉とチーズを盛ってこい。」
「あいあいさー!」
あいあいって…それはどこで覚えてくるんだ…。どこで…。
飲み物の用意をしなければ。
テオはいいが、おやっさんの気合の入り方から見るに恐ろしい量を飲みそうだ。
芋焼酎は限りがあるため、他の酒も用意しておかないといけない。
鶏とチーズがならワインもありだが、魚との飲み合わせは最悪だな。気をつけないと。
あとはよく定食屋など街の安い酒場で飲まれてるようなエールか。
炭酸抜きのビールみたいで俺は好きじゃない。圧倒的に爽快感が足りない。
ああ、ビール飲みたいなぁ。エイヒレとマヨネーズも。
ま、ないものねだりをしても仕方がない。
とりあえず、グラスがない。皿もない。圧倒的にたりない。
なにせ客が来ることが珍しい訳で、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
まだ時間がある、買いに行くしかないか。
「コト、ちょと出てくるからお留守番頼むぞ。」
「いっしょにいくぞ!」
こいつを食器屋に連れて行ったらなにか色々終わる気がした。
ひざまずき、コトの高さまで視線を落とし『ガシッ』っとコトの肩をつかむ。
「誰かがこの料理を守らなければいけない。」
「…。」
「この料理を狙う悪党がいないとも限らない。コレは重要な任務だ。」
『キラーン☆』
「とうちゃん、あんしんしろ!まわされた!」
「うん、コトそれはまかされただ。」
「またされた!」
うん、じゃもうそれでいい。
「じゃぁ、頼んだぞ~。」
俺はコトお留守番作戦遂行に成功しメイン通りへと足を向ける。
半分くらいの距離まで来た時だろうか
「あっ、金…。昨日の服に入れっぱなしだ。」
この距離を又帰って出てくるのか…。
萎える。
お隣の家の前まで戻ってくるとアヤセさんと出くわした。
「こんにちわ。」
「ども、こんにちわ。」
挨拶もそこそこに切り上げようとすると、
「あの…コトちゃん、どうかしたんですか?」
「は?」
なんか不思議な質問をされた気がする。
「えっと…。隣からすごい奇声となにか大きな音が。」
「……。」
まさか、マジに出たのか悪党。
『ダッ』
急ぎ足で玄関前までダッシュしドアを開ける。
『ガチャリ』
「コト!だいじょうっ…。」
『アーーーーン』
「…。」
居間に飛び入るとそこで見た光景は。
大きな口を開け卵スモークを一口で飲み込もうとする悪魔の姿。
「「……。」」
「お前…。」
「コトちゃん…。」
心配して一緒に駆けつけたアヤセと共に、まさしく現行犯という形でコトは御用となった。
「お前、十個も食ったのか…。」
「きゅ…きゅうこはしらないやつがそこからとんできて!」
『バシッ』
「あう。」
「仮にそれが本当として、そいつはどんなやつで何処へ逃げた?」
「こ、こんなかんじでとんできた!」
コトは両手を大きく広げて鳥の真似をする。
それを白い目で見つめる大人二人はかなりシュールだ。
「そいつが?」
「そ、そう!そいつがぎゅーーんときてばっとうばおうとしたから、とっさにたまごなげた!」
「投げたのか…。」
「うん。そんで、そうだ!肉はまもったぞ!あれにはてをださせなかった。こんどきたらたおす!」
「そうか。よくやったな。ところでコト。」
「なんだ!?」
もう騙せたとでも思っているのだろうか。明るいハキハキした声の反応に思わず隣にいたアヤセが吹き出しそうになっている。
「お前の服に付いている黄身の後や茶色くなった指先はどう説明する。」
「お?あ?これはなげたときばんてなって!」
『ベシッ』
「う」
『ベシッ』
頭を叩かれたコトは絶望的な表情を浮かべる。
コイツ奇声を上げてたのはアリバイ工作か…。
なんか微妙な成長を感じるな。
そんなことを考えていると
「コトちゃん。嘘はついちゃダメだよ。嘘つきはみんなに嫌われるんだよ。」
「そうだぞ。コト。悪いことをしたら謝れ。
嘘をついてまで自分を正当化するな。それは卑怯者がすることだ。」
コトは堰を切ったように泣き出す。
ワンワンと声がかれるほど声を上げて。
大人になるとこんなふうになくことはなくなるもんだな。
なんとなくコトがうらやましかった。
だが、それとコレとは話が別だ。
「コト、お前は今日のパーティなしだ。」
「えっ。……いやああああああああ。イヤダー。」
「お前は悪い子としたんだ。俺やおやっさん丹精込めて作った燻製を勝手に食った。
悪いことをすればそれを償わなきゃならない。」
「いやあああ。あやせえええええわあああああああああああ。」
膝丈下くらいのスカートにギューッと抱きつかれたアヤセは少し困ったような顔を見せるが。
「なこうが喚こうがお前は罰を受けなければならない。それが嫌ならお前はこの家を出て行け。一人で山ででも暮らせばいい。
そうすれば誰に文句を言われることもなく自由に飲み食いできて楽しいぞ。」
「グスッグスッグスッ」
「決めなさい。コトお前が罰を受けるのか、この家をでていくのか。」
《あの、厳しすぎないですか?コトちゃんも反省してるみたいですし。》
耳元でアヤセのひそひそ声が響く。
アヤセさんはまだまだ母親には向いてないな。
《大丈夫。コトならわかるはずだ。》
「ぐすっぐすっ。とうちゃんといっしょいにいる。コトはうえにいます。」
そう言うとしばらくして、何度も振り返りながら自主的にコトは上へと上がっていった。
今話は長めでした。私的には。
小さい頃ひどく親に怒られた時のことを覚えています。
理由は忘れたけど、怖かったより悲しかったなぁ。
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