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ことしろ  作者: 無色瞳明
第一章
31/166

砕かれた心

 「さむっ。」


 翌朝、俺はパンツ一丁で毛布にくるまった状態で居間で起床した。


 …毛布。


 コトか…ありがとう。

 


 結論から言うと【さくら】の木はなかった。


 どこかにある可能性はゼロではないが、現状手に入れることが出来ないのだから同じ事だ。


 代わりに【くるみ】【りんご】【かえで】【ヒッコリー】の木を見つけた。


 いずれもこのプロジェクトの条件に適した木材だ。


 俺は燻製を作りたい。


 燻製は味が良くなる上保存期間も約一年と長い。肉だけでなく様々な食材をスモークすれば職も豊かになるというものだ。


 さっそく昨日集めた木材を削りスモークチップを作る。


 木材、水、でんぷん粉でスモークチップは出来る。


 乾燥に時間が掛かるが思っていた程手間はかからない。


 まぁスモークチップが売っていればそれに越したことはないが。


 そして燻製に大切なもう一つの要素、ソミュール液を作る。


 塩やスパイスを振るだけでも可能は可能だが、均等に味を整えるという意味ではソミュール液にまさるものはない。


 それにソミュール液とか聞くと作るのが難しそうな特殊な液に聞こえるが、単純に言えば塩水である。


 水、塩、三温糖を煮て塩分濃度を調整すれば出来上がりだ。


 後は大事なスモークボックス。


 これはおやっさんがやっつけで作ってしまったらしい。


 普段でも仕事は早いが、酒が絡むと3倍になるまるで【赤いドワーフ】だ。


 温度計はどこから引っ張ってきたのかテオが持ってきてくれた。


 そんな簡単に手に入るものではない気がするんだが…。


 まぁ、いい。


 そんなこんなで準備が整う頃には日暮れとなり、チップ乾燥も含め又翌日ということで今日は早めにお開きとなった。


 

 ――――――


 風呂から上がったおやっさん達を見送ると、ちょうど隣の家からコトとサラサさんが出てきた。


 「いつもすいません。ご迷惑じゃないですか?」


 「いいえ~、大概相手してるのは妹だし、うちは二人っきりしかいなくて寂しいから助かってるの。」


 「サラサ、あしたはアヤセにつたえとけ!あすはまけないぞ。」


 「わかったわ。」


 お前はなんの勝負を挑んでるんだ。


 そういえば昼食時もコイツ見なかったな。


 「お昼もごちそうになったみたいで。」


 「本当に気にしないで。」


 「それじゃ、ありがとうございました。」


 サラサさんなにかこう美人オーラがすごいな。


 元の世界だったら口を利くのも躊躇するかもしれない。


 コトが玄関へと駆け出すのきっかけに、「おやすみなさい。」と声を掛け合いそれぞれの家へと分かれていく。


 「あ」


 サラサが何かを思い出したように振り向いた。


 「いくら疲れてても、ちゃんとベッドで寝たほうがいいわよ?」


 それじゃと玄関の扉が閉まっていった。


 ん?…。


 …なんで知ってんだ。




 風呂場で発覚したことは


 「とうちゃんたおれたから、ふくぬがせたけど、おきなくて、たすけをよんだ!おもくてにかいはむりだったんな」


 何故、服を脱がせた…お前は。


 サラサさんにパンイチ姿を見られたという現実にポキッと心が折れる音がした。

 



今日は複数回UP出来そうです。


次は15:00に。

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