祭りの始まり
サササー
心地よい風が部屋の中を通り抜ける。
「……。」
最近、日中家の中が静かだ…。
朝は相変わらずの騒がしさだが、昼間は今までにない静寂に包まれる。
最近コトは、おとなりさんによく遊びに行くようになった。
朝食を食べ終わると。
「いってきます。」
とまるで会社に出勤するサラリーマンの如く素早く玄関へと走って行く。
「ま、特に感傷に浸る感じはしないんだが。」
ただ呆然と、静かだなぁと。
そして、俺は自堕落なニート気分を味わう。
食っちゃ寝、食っちゃ寝。
特にやらなきゃいけないこともない。
加えて俺はリアル最強職。【無職】である。
『キラーン☆』と音がなりそうなポーズを決めると、突然虚しさが胸に募る。
「やらなきゃよかった。」
うなだれる俺。
だがずっとこうしてるわけにもいかない。
せっかくうるさいのがいないんだ。
とりあえず外に行こう。
そんな旦那が出張中の主婦のような考えをしている自分にため息を付きながら。
玄関を出て行った。
――――――
「鶏肉?」
「そうだよ。今年は鶏が豊漁でね。
飼育のも含めて鶏肉と卵の価格が暴落してるのさ。
だから普段おこぼれにあやかれない一般人にも高級食材の鶏肉が安く出回ってるのさ。」
なんとなく顔を見せに来た、開店直後の定食屋のおばちゃんが新メニューの試作をしていた。
結構街はお祭り騒ぎだという。
タダ同然の価格で肉や卵が投げ売りされているらしい。
卵は庶民でも手に入るが、普段肉類にありつけない連中は、ここぞとばかりに買い漁ってるんだとか。
「そんなに買い漁っても腐らせるだけだろうにねぇ…。」
おばちゃんはヤレヤレと言った風に手をひらひらさせる。
そりゃそうだ。肉なんてあまり保存の効く食材じゃない。
干し肉は保存はきくが、元の世界のビーフジャーキーとは違って、固くなによりまずい。
「おや、食べてかないのかい?安くするよ?」
「…保存。保存かぁ。」
俺は定食屋を後にする。
試してみるか。
うろ覚えだが材料的には可能なはずだ。
「ただ、桜の木はないだろうなぁ。」
そんなことを思いながら俺は鶏肉祭りに参戦を決めたのだ。
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