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ことしろ  作者: 無色瞳明
第一章
28/166

シザース

19話【蒼炎】の前半部分を書き足しました。


 「完璧なハサミだ。」


 支点が中間にある洋鋏。元の世界では紀元前からあると言われていた。

 

 俺が住んでいた日本では江戸時代くらいかららしいが、この世界にハサミがなかったのはやはり魔法があることに付随しているのだろうか。


 技術力と魔力はよく反作用すると認識されているから、関係がないわけでもなさそうだ。


 俺の前に並ぶいくつもの試作品はおやっさんがどれだけこの仕事に情熱を傾けてくれていたのかを証明する形となった。

 

 少し照れたように


 「こんなに試作しなきゃ完成品が作れないなんて、ワシもまだまだだ。」


 とか言っていたが、この努力は凄まじいものだと思う。


 特にこの汎用ではなく俺が特別にオーダーした三種類のハサミは完璧に近い。


 すべて元々ハサミをオーダーするきっかけになった、髪をカットする用のものだ。


 刃の長さ、厚さから角度、指穴の大きさまでオーダーメイドで作られている。


 こだわりは、自分でカット出来るように通常片方にしかない指掛けを両方につけてもらった。


 二本目のセニング鋏は所謂ギザギザのあれだ。


 プロ用になると実は同じギザギザでも溝の段や数、角度が違い。細かいスキ用や仕上げ用があったりする。


 さすがにそこまでは求めていないので要求すらしなかったのだが、おやっさんは勝手に角度や段の違うセニングを試作していたようだ。


 三本目は微妙に刃先が湾曲しているハサミだ。


 カーブスライドと呼ばれているもの。バックや裏側のカットがが楽にできるように改良されたものだ。


 挟んで切るというよりは 、ハサミを移動させて切る形で使用していく。


 そうじゃないと引っかかりが出来てしまうのだ。


 何故俺がここまでハサミにこだわるのかというと、父の昔の夢が美容師だったからだ。


 あくまでも目指していただけでヘタレの父は別の家業を継いでいた。


 自分の夢を子供に託すという典型的な親でなかったのは救いだが、必然的に家には親父が趣味で集めたシザースが山ほどあった。


 中にはウン十万円という高価なものもあったほどだ。


 安いものでも三万程度の価格だったと記憶している。


 とまぁ、こんな感じでわがままなオーダーをキッチリこなした上、他にも安全を考慮した子供用、布切り用の大鋏、ノーアルなものまで。


 おやっさんの職人技には毎回感服させられる。


 おやっさん曰く


 「お前の発想力には負ける。」


 らしいが、実際考えたのは俺じゃないし。

 

 コトの青い髪の毛にハサミを入れた時、更におやっさんの技量に平服するのであった。



読んで頂いてありがとうございます。

ブクマ、評価して頂けると今後の励みになります。

宜しくお願い致します。


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