蒼炎
前半部分を書き足しました。
『ボゥッー。』
とある宿の一室。
暗闇の中、火が灯る。
チリチリとろうそくの紐が燃えている。
その光を時々遮るように、人影がゆらゆら揺れる。
ガラスのグラスの中のワインをくゆらせながら、頭にかけていたベールを取り払う。
「…あの光。」
そうつぶやき、グラスに口をつける。
薄く艶やかな口唇はほんのり薄紅色に色づき、幼さの中にも充分な色香を感じさせる。
【蒼炎】そう呼ばれているパーティーメンバーの一人。
「隠り世の理り…。」
「リオン…気付いた?」
ツーーッとグラスの縁を細いしなやかな指で撫でると
「無理…。リオン感覚だけで闘う…。」
グラスの中の液体を飲み干すと両手を組んでまるで神にでも祈るかのように跪き、両手を重ねる。
――――――
なにか香の香りと、中東ヨーロッパ風のレース状のカーテンに間切りされた空間に
三人掛けの真っ赤なソファーが二つ、3対1の構図で向かい合う。
双方の目の前のテーブルには、かなり大量の料理と酒が置かれている。
「どうした、リオン。元気が無いじゃないか。」
「アグエロか、ちょっと昔の事を思い出して…な。」
「久しぶりに街に戻ってきたかと思えば、しけた面しやがって。」
化粧の濃いケバい女性を両脇に抱え、偉そうにふんぞり返るガラの悪そうな男。
「アグエロ。君は相変わらずだね。」
「俺は俺だ。そう簡単に変わんねぇよ。」
ニコリと笑みを浮かべるリオンは素直に目の前の男を羨ましいと思った。
呆れるように右眉を少し吊り上げアグエロはこう続けた。
「お前は、悪い意味でそのまんまだ。
またお師匠様のことでも考えてたんだろ?あんなババァのことなんて忘れろ。
俺達をいじめ倒すだけいじめ倒して、勝手に死んじまう奴のことなんてな。」
悪態をつくアグエロに対し、リオンは困ったような顔で。
「あまり故人を悪く言うもんじゃないよ。」
『フンッ』と更にソファーにふんぞり返る。
「おら、お前らリオンにも酒を注げ。
そうだ。リオンどっちでも好きな方を部屋に連れて行けよ。」
ひらめいたっとでも言いたそうに身を乗り出し隣にいる女性二人をリオンに薦めだす。
「…アグエロ。それは彼女達にも失礼だよ。」
「あん?こいつらだってあの蒼炎に抱かれるんだ。自慢にはなれど、嫌がるようなやつはプロにはいねぇよ。」
なぁ?とアグエロは女達に同意を求める。
「「もちろんですわ。あの蒼炎のリオン様のお相手なら喜んで。」」
「なぁ?。お前はいい男なんだ。それにいつまでも独身を通せるわけじゃねぇ。今のうち俺みたいに遊んどけ。」
「アグエロ、君は遊びすぎだろ?君の傍に女性がいない所を見たことがないよ。」
注がれた酒に一度口をつけると。
「それに、僕と君とじゃ立場が違うじゃないか。仮にも…。」
と言いかけてリオンは、少し辺りをうかがうように見やる。
「ああ?大丈夫だ。この店は買い取ってあるからな。」
やれやれといった顔でリオンは続ける。
「仮にも君は、王族だろ?次期国王候補がこんなとこにいていいのかい?」
「国王なんてやらねぇよ。俺があの重鎮共に嫌われてるのは知ってるだろ?
俺が国王なんかになったら、卒倒しちゃうぞ。あいつら。」
そんな話をしながら頭の中では、何故か師匠の顔が浮かんでは消え、浮かんでは消え。
久しぶりだな。
こんなに師匠とのことを思い出すのは。やはりあの少年のせいだろうか。
何故、あの少年が気になるのかはわからない。
何故、あの少年から師匠と同じ香りがしたのだろう。
読んで頂いてありがとうございます。
私のもう一つの小説【パラダイス ロスト】も、ことしろ同様よろしくお願いします。
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