お店
シロは少しだけ嫌なことを思い出した自分を後悔しながらアグエロに問いかける。
「王候補ってのも暇なんだな。わざわざこんな書類を直接届けるくらいだ。」
「……。」
そう、コイツは何か別の目的があってきた。シロは確信を持ってそう思う。
「……。あくまでもこれは個人的なお願いだ。」
「それを、……は容認したっていうのか?」
「…そういうことになる。だが、否定も肯定もできん。どちらが正しいということではないんだろう。
相手にもうちにも、それなりに利益があるって判断だろう。」
「……。胸糞の悪い話だ。」
馬車はゆるやかに揺れ、いつのまにか眠りについていたコトの頭をなでシロは真剣味を帯びた表情で外の景色を眺めた。
「おはよう御座います。オーナー。」
「お、オーナー、お早う御座います。」
ここ数日でシロと作業員は、だいぶ交流を済ませた為か、顔を見るなり各所から声をかけられる。
「おはようございます。今日で作業も終わりですが、最後までよろしくお願いします。」
作業員として働いているのは軍の人間であり、上下関係には非常に厳しい世界に身をおいている者にとって、シロの態度が非常に稀有に感じたことは言うまでもない。
そのシロの丁寧な態度に、最初は恐縮していた作業員も最近は『俺達のような下っ端にもきちんと筋を通す。』と好感度がかなり上がっていた。
「じぃちゃん!!」
後ろをちょこちょこ着いてきたコトが走りだす。
「お、おい、転ぶなよ?」
「だいじょぶ~~、あっ!?」
『ズササササーーーッ』
足元の石につまずき、砂埃を上げておもいっきり、砂利にダイブするコト。
シロにとってはよくある風景。
こんなことは日常茶飯事だ。一々びっくりしていたらキリがない程に。
だが、その場に居たすべての人達は右往左往する大騒ぎだ。
いわばこの場における一番偉い人のお子さんが現場で怪我をした。
そんなことになったら職をクビどころか、実際の首が飛びかねない。
騒然とする現場の空気をもろともせず、少しだけ痛そうに擦りむいた部分を見つめるコト。
泣き出す…終わりだ。俺達は終わりだ。
そんな空気が漂い始めた…シロはゆっくりとコトの元に近寄り、擦りむいた所を覗きこむ。
血は流れているが、大したことはない。
周囲はコトの肘から、流れ出した血液を発見し、卒倒する。
悲鳴すら上げてる奴も居る…軍てどんなとこなん…。
シロはそんな連中をよそに、大きく右腕を振りかぶる。
『バコッ!!』
「いっ!!」
おもいっきり振り下ろされた拳がコトの頭上に直下した。
まるで時刻の魔法にでもかかったのように、その瞬間、誰もが固まったように動きを止め、口をポカーンと開けたまま、じっとその様子を凝視していた。
「走るなっ。ほら見ろお前のせいで皆固まってるじゃないか…。」
未だ一ミリも身動きせず目を見開いて口をポカーンと開けたままの周囲を見やるコト。
「ごっごんなっさい!」
「ごめんなさいだろ?ほら早くいけ、あんまり仕事の邪魔するんじゃないぞ。」
「あい!」
そのまま傷をぺろっとひとなめしコトはドヴァーリンの腹へと飛び込んでいった。
…それ俺にはやんなよ。
すげぇ音してたし。




