慈悲深き豪腕
「じいちゃん!おみまげ~~!!」
「お~コトか!おおこれはすごい数の土産だな。」
パン、果実、野菜、焼き鳥のような串料理.etc。
これだけで今日一日の食生活をまかなえるんではなかろうかと思える数の土産物。
いつもながら、この子は皆に愛されてるのだと感じることが出来る光景だ。
ドヴァーリンはドワーフである。
かつての大戦で伝説という称号を得た、勇者を支えたもう一人の勇者達。
その存在は疑うことも無き豪腕。
一振りで幾重にも重なる命を吹き飛ばす。
慈悲深き豪腕。
ドワーフでありながら人に与したものは彼だけではない。
正確には彼を目指し、彼に憧れ、時代に流され、人の地を目指すものが流行りとなった。
ドワーフの中にも、彼に否定的な考えを持つものも少なからずいる。
だがその存在は、圧倒的にドワーフの地位を向上させた。との支持・評判が多数だ。
それでも、人の世で生きていくには、未だ異種族には厳しい時代だ。そうドヴァーリンは思う。
自分は仲間に恵まれていた。だから、今も生き続けられている。
たくさんの屍をエサにして。惨めなほどに、汚れた鎧をつけ続けたまま…。
だが時を経て、その仲間さえもひとりひとり遠ざかり、そして消え、結局は独りになった。
限界だった。
すでに守るべき者もなくなった。
すべては、闘うことで失なった。
ドヴァーリンは、そっと暗い海に身を沈めるように…闘いから身を引いた。
十年も前の話だ。
ドヴァーリンは未婚である。故に子供も居ない。
だから彼は、自分に父性などというものがあるとは思っても見なかった。
マッスルブラザーズを拾ったのもただの気まぐれだ。そうであることは本人たちも理解している。
ただ今回は何かが違った。
はじめは、面倒臭いガキとただうるさいガキだと思っていた。
初めて『じいちゃん』と呼ばれた時は、まだ耄碌は、していないとムキにもなった。
興味を持ち始めたのは、カラフェへの嗜好。そして、何よりもアイツに似た風を感じた。
背を預け共に戦った友に。
だが、全ては今となってはどうでもいい話だ。
ドヴァーリンにとってシロは友であると同時に息子に等しく、コトは最愛の孫に等しく。
それが今のドヴァーリンの生きる糧となっている。
もしも彼等に真の危険が及ぶ時、ドヴァーリンは再びその豪腕を振るうのを厭わない。
もう二度と大切なモノを失わぬために。




