コトの行進 Ⅱ
「お~~コト。父ちゃんはどうした?」
「とうちゃんはしごと~。」
「そうか~一人で遊んでるのか、偉いな。これ持ってけ。」
話しかけたのは八百屋のおっちゃん、手渡したのは赤い果実の実だ。
「ひとりじゃないぞ。ほら!」
のそりとコトの背後から顔をのぞかせ尻尾を一振りするのは狂狐改め、天狐。
この街の誰もがこの獣を聖獣だと知っているが、誰もそれに触れようとはしない。
なんと呼んでいいかもわからに存在だったが、ある日を境に天狐の名が広まっていくこととなり、現在ではもう狂狐ではなく天狐なのだという認識率の方が高いように思える。
「おう、テンかそうかそうか!お前にもっなっ。」
赤い実を手に取りフワリと投げる。
天狐はそれを空中で身軽にキャッチし、口に加えたまま凛とした表情で礼一つせず又コトの後ろに隠れてしまう。
そんなつれない態度の天狐だが、誰にも媚びぬその姿にファンは多い。
「ん、じゃぁな~おっちゃん。」
「おにいさんなー!」
「わかった~おっちゃん。」
表通りを闊歩する数歩ごとに声をかけられ足を止める。
これがうら若き乙女ならば、ナンパ街道かと勘違いしてしまう程だ。
コトは、いつも自宅を出るときに、どこに行くかを決めてから出て行く。
何をするかは決めはしないが、場所だけは必ず決める。
とはいっても、子供の行動範囲など、たかが知れているのだが。
コトの場合、隣のアヤセ・サラサ宅、天狐のいた森、もしくはドヴァーリンの金物店だ。
それをその日の気分で、ローテーションしている。
「今日はじぃちゃんとこだ!」
「そうかい、気をつけて行ってくるんだよ。」
丸いパンをいくつか抱えたまま、コトと天狐はドヴァーリンの店まで行進を続ける。




