なんのため?
「……。」
シロは口をへの字に曲げたまま思案する。保険というならば、何も起こらなければなにもしないですむ。
だが、そううまく事が運ぶとも思えない。間違いなく面倒事に巻き込まれるだろう。
それを差し引きしても、これは悪くない条件だとシロは思う。
このままではいずれカラフェの流通は止まる可能性が高い。
というのも、国内でドワーフとの取引を一部の品目に関して取り締まる流れがあるらしい。
カラフェ豆もその一部に入っており、今後強化されればカラフェ豆は手に入りづらくなり高騰する、さらに最悪な展開は、この流れが波及すると栽培農家に影響は直撃する。
実際、栽培農家は減少の一途をたどっているそうだ。
「私達もカラフェが好きなのよ。実はここにいる中将もシロの作ったカフェラテのファンだわ。」
「お偉方が飲んでいいもんなのか?」
「そうだな。カラフェを嗜好しているという話が流れれば、問題は起こる。…だがカフェラテというものは別である。あれはカフェラテであってカラフェではないのである。」
「無理矢理なこじつけだな。まぁ…それでも嬉しい話だ。」
シロは少しだけ笑みを浮かべる。
畳み掛けるようにアルフィは衝撃の一言を発する。
「実はもう店作ってるのよ。」
「はい!?」
「うるっさ…声が大きいわよ…。だからもう軍の協力でシロの言うカフェって言うのを再現してるとこ。だからもうすでにそこの店長はシロが決定事項よ。」
「……あっそ。まぁ、受けるしかないんだろうな?」
「そうしてくれると助かるわ。シロも毎日自宅で無料配布するよりいいでしょ?」
そう、シロの家は最近必ず誰かが、昼は打ち合わせ、夜は宴会と、誰かがやって来ては飲み食いをして帰っていく為、落ち着く隙がないのだ。
コトはそれを喜んでいるし、シロ自身も賑やかなのは嫌いじゃない。
だが、こうも毎日だと静かな自分だけの時間がほしいと思うのは普通の思考だろう。
「まぁ…な。…話は分かった。条件がいくつかある。」
「いいわ。いいわよね?兄様?中将?」
「「ああ(うむ)」」
問いかけられた両者は二者二様だが、同じ意味の返答を返した。
「まず、前提として隠し事はなしだ。すべて話してもらう。」
「…。」
当然だろうという表情で三人はシロを見つめる。
「俺は学園には関わらない。基本的に俺が学園に立ち入ることはない。理由は…わかるよな?」
「…もう、面倒臭いからでしょう?」
「そういうことだ。」
「それと店だが、お前等に渡した構想図とは、少し変えて欲しいところがある。」
その後事細かに、これはこうで、あれはこうと指示を出し、それをアリエッタがメモるという作業が小一時間続いた。
「ハァ…まったくどこの外交官なのよ…アンタは。」
「まさしく…ここまで自分に有利な条件を相手に押し付けた上、全て屈服させ認めさせる技量は見事であ~る。」
「シロ…お前今すぐうちの外交官になれ。今外交官やってるクズを店長にするから。」
冗談交じりにつぶやくアグエロの表情は真剣である。
「断る。」
「それはダメよ。兄様、カラフェの店が成り立たなくなるわよ。きっと。ドワーフ達もシロだからこそ豆なんかを都合してくれているのだから。」
「まぁてんそれもそうだな。あれがなくなると朝が物足りないからなぁ。」
「そうよ!私達のカラフェの為よ!」
「……いや、お前等捕虜関係なくなってんじゃん?」
「「「……。いや、全然そんなことないよ(わ)。(あ~る)」」」
やはりこいつらは信用出来ない。と心に刻むシロだった。




