シロという男
しばらく続いたそのシュールな睨み合いも、『ドスンッ』という音と共に終局を迎える。
国王を名乗る男は何かを諦めたように腰を落とす。
少しだけ緊張が淀みを見せて霧散したように思えた。
これは国王と名乗る男が腰を落としたことでシロと二匹のモフモフの警戒レベルが一段階下がったことに起因する。
「……何故、我が国王ではないと思う。」
「そんなもん少し考えればわかるだろ?王が何しにここに来る必要がある。何か別の用件でこの街に寄ったついでか?」
「お主に興味を持って会いに来たのかもしれんだろ。」
「それこそありえん。」
シロはそう断言する。
「紛争中ってわけじゃないが別に隣国と争いがないわけじゃないんだろ?そんな時に国王が私用で動くなどありえん。俺がもし敵ならその情報を察知した段階で、首都を攻め落とす準備を始めるわ。」
「……。」
じっと見つめる視線がひとつから二つ、三つと増えていき、その眼差しも真剣味を帯びてくる。
「王都を落とすと?落とせると思うか?」
「フン、自分とこの首都を落とせないような相手とずっと睨み合ってるのかよお前等は。そんな国さっさと滅ぼすか属国にしちまえよ。うっとうしい。」
「……。」
「確かにな。お前の言うとおりだ。だが…王やその側近は生きていることになる。これをどうする?周りの都市には軍も居る。王をほっておけば、いずれ反乱の種になる。」
「そんな先のことは知らねぇよ。それに…仮に王都を奪還されたっていいだろ。一度は敵に落ちたという事実と、これが王の勝手な行動が招いた事だと知られれば、それはいずれ不信と不安につながる。そんな未来が待ってる中、ただ首都を奪還しても、ボロボロになった首都と政治を短期間で何とか出来るとは思わないけどな。だから次で息の音を確実に止められる。士気の低い軍など雑兵にも劣るぞ。」
「…ブッフッオッふ~はははははは。イカン、耐えきれんぞ。坊。」
もうたまらないといった風に巨大な筋肉の塊が腹を抱えて揺れ動く。
「…だろ?」
アグエロは少しだけ片目をつぶり、これおもしろいだろ?とばかりにシロを見やる。
シロの方はというと面倒くさそうにフードを頭からかぶり直し不機嫌そうにグラスの飲み物に口をつけている。
「いやあ、久々だ。これほど愉快なのは。」
目に涙をため顔の筋肉をひきつらせながら、まだ笑いが止まらない様子の国王を名乗っていた男。
「で…アンタ誰なんだ?アグエロと組んでるとこを見ると軍のお偉方といったところか?」
「ふぉっ、フハハハ!坊、全バレですぞっ!フハハハハ!!いやまいったまいった。……いや、すまんな、自己紹介が遅れた。我は…。」
「おいやめとけっ」
「おさえろっ!」
「むっ無理ですぅぅぅよぅ」
今度は何だ…。もう何が出ても驚かんがこれ以上めんどくさいやつと関わり合いたくない。そんな表情がまるわかりのシロの顔を見つめるアルフィは、これからシロに起きるであろうことを予想し憂鬱気味に肘をつき項垂れるのであった。




