威圧
思わず耳をふさぎたくなるような、ビリビリと身体中が痺れるような、馬鹿みたいな大声で名乗りを上げたオヤジを、どれが苗字でどれが名前なんだよと、冷めた目で見つめながら、シロは特に微動だにせず言い放つ。
「なんだ…裸の王様か。アルフィ、こんなやつさっさと国王からおろしちまえ。お前が女王にでもなったほうがいくらかマシだ。」
その明らかな挑発に、ピクリと引きつる頬と、ガチャリと武器を構えたかのような音が隣の部屋から聞こえる。
「ほう、我を国王と知っても更に悪態をつくかよ。……確かに隣の部屋には、護衛が待機しておる。我の護衛は我が国の精鋭ぞ?もはや貴様、無事にここから出られるとでも思っておるわけでもあるまい?」
ぴくぴくと筋肉を引くつかせる国王を名乗る男。
立ち上がるとその大きさがより際立って見える。
ニメートル近い身長に筋骨隆々のその体は、まるでマッスルブラザーズの親玉みたいだ…とシロは思う。
横を見ると素知らぬ顔でチーズをつついているアルフィ。
相変わらず肉を頬張り続けるアグエロ。
これが混沌とせずになんと呼ぼうか。
「忠告ではなく警告だといったはずだ。ハゲ。聞いてなかったのか?ハゲ。それともその耳は飾りか?ハゲ。」
『ピクッ』
フードの中で真っ白いやつが反応する。
コイツが反応するなら魔法だな…シロは馬鹿馬鹿しいこの芝居をさっさと終わらせようとすぐさまそれを口にする。
「魔法か?」
『ザワッ』
「俺を知ってるからここにいるんだろう?お前等でなんとかなるとでも思ってるのか?おめでたいやつだな。いっそこの店ごと消し去るか?」
シロが少しの怒気を含めニヘラと口角を上げる。
今まで感じたことのない威圧感が部屋中にビリビリと伝わってくる。
その迫力に、アグエロまでもが肉を持つ手を止め吃驚する。
アルフィに至っては、あの魔女との邂逅を思い出していた。
伝説と称される一人。魔女【ディアンジェラ】シロの家で出くわした、あの恐怖と何もできなかった悔しさが思い出され、複雑な表情とともにシロがそれだけの威圧を発揮できることに驚いていた。
「撃ってみろよ…魔法でも矢でもなんでもいい。壁をぶちぬいて、狙える程度の腕はあるんだろう?」
「それともアンタがやるか?国王とやら。剣ぐらい持ってきてるんだろう?なら渡してやれ。そこの嘘つきなハゲに。」
「……。」
更に睨み合いが続く…それはまるで、互いの背に竜虎が浮かぶようではあるが…。
実際は、上半身裸の筋肉ハゲと、パーカーのフードの隙間からチラチラと外を伺う、ちびキツネと少年という非常にシュールな光景であった。




