普通じゃない
「ちょっと待ちなさいよ。」
俺はコトを連れてさっさとこの衆人環視の状況から脱出したかった。
「はい、これ。」
コトと拾い集めた果物を女の子に渡すとそそくさと雑踏の中へと消えることにした。
「ねぇちゃん!じゃぁな!うまかった!」
コトの声が響く、それが聞こえたのか何かを叫んでるような気がしたが。
俺は早くこの場から去りたい。
雑踏の中をくぐり抜け、なんとか家の近所まで辿り着く。
人生の中で二番目に危なかったな。
あんなデカイ剣振り下ろされたら、良くて真っ二つ。
最悪潰されてミンチだ。
今日はもう寝よう。
まだ夕方だけど。
「飯食って寝るぞ。」
そうコトに告げると足早に家の中へと入っていく。
――――――
「お前、何でもかんでも顔ツッコむなよ。
危うく死ぬトコだったぞ。」
「大丈夫!とうちゃんはつえーし。
鹿にだって負けない。」
「いや…。
お前、あの筋肉と鹿一緒にすんなよ。
普通じゃねぇだろ、あの筋肉。」
「大丈夫!きっと。」
「根拠の無い自信だな。」
「うん!だってとうちゃんだもん。」
「そうか。」
『ガシガシ』と頭をグシャグシャになるまでなでてやる。
俺も昔、親父は最強だと思っていた頃があったっけ…。
そんな懐かしい感覚を思い出した。
――――――
「兄貴、タイミングが悪かったな…。
まさか、あの蒼炎が帰って来てるなんて。」
「……。」
兄貴と呼ばれた男は右肩を押さえ、痛みを噛み殺すように苦い顔をする。
「兄貴、そんな気にするなよ。
相手が蒼炎なら仕方がないさ。
きっと奴らのパーティもすぐ近くにいたはずだ。
二対二なら負けねぇが、数は向こうのが上だ。」
「……ちがう。」
「ん?え?兄貴なんて?」
「だから!そういうんじゃねぇ!!少し黙ってろ!!!」
怒鳴りつけられた弟は一瞬だけ不満そうな顔をのぞかせるが、すぐに押し黙る。
腕が痛いんだろう。
そう思ったからだ。
兄貴と呼ばれた筋肉兄弟兄は、じつはもっと違うことでイラついていた。
この俺が震えてる…?だと。
確かに蒼炎の奴らは強えぇ、だがそうじゃねぇ。
あの時俺は…。
自慢のバスタードソード再び振り上げ、コロスつもりで振りぬいた。
かわされることはままある。
破壊力が自慢の両手剣だ。
命中率はピンポイントってわけにはいかねぇ。
スピード自慢のやつには分が悪い武器だ。
だが確実に当たると思った剣撃を外すほど鈍くもねぇ。
あれは間違いなく、必中の一撃だった。
だが結果はどうだ?
あっけなく蒼炎の魔法に叩き落とされた?
一番近くにいた弟でさえそう見えたんだ。
他のやつが気づくはずもねぇ。
実際は俺の剣はあの時あのフード付に直撃した。
いや、実際に当たった。そういう感覚があった。
その瞬間俺の腕は光りに包まれ腕がしびれ剣を落とした。
蒼炎の魔法は、その後だ。
しびれて動かねぇ右肩に当たっただけだ。
要するに俺は、あのフード付に必中の一撃を完全に殺された。
防御の体制も取らずにだ。
あれは絶対普通の人間じゃねぇ。
読んで頂いてありがとうございます。
評価、ブクマ有り難うございました。
続けていく励みになります。




