謎の大男
ターニが出て行ってから2時間くらい経ったろうか。
ただでさえ薄暗い外が、より一層暗くなっている。
コトリは暗いところでは圧倒的に捕獲能力が落ちる。
いわゆる"鳥目"というやつなのだろうか。
多分、ターニはそれを知ってるから深夜に帰ってくる。
配給の匂いを振りまきながら、町から帰ってくるのはとっても危険な事なのも僕はよく知ってる。
ターニも余り体が強くなくて、この辺の大人達と一緒にコトリ討伐には出かけなかった。
そんなターニが、もし途中でコトリ達の群れにでも遭遇してしまったらどうしよう。
そもそも、"現段階で"家のないターニが、町でそのまま生活してしまったらどうしよう。
コトリを呼び寄せる"光"を排除したこの集落は、もう真っ暗だ。
ピクリとも動かない父さんと二人きりだと、不安と恐怖で頭がおかしくなりそうになる。
「父さん、ターニは帰ってきてくれるかな・・・?」
返事が返ってくるはずもないのに、僕はベッドを見つめ続けていた。
---- ザッ・・・ザッ・・・
「・・・・・・!?」
遠くから何かが歩いてくる物音がした。
ターニがもう帰ってきたのか!?
でも、足音は町とは反対の方から近付いてくる。
じゃあ、コトリ!?
いや、奴らは夜は行動しないはず、鳥目だから。
たまに町へ向かう人たちがこの辺の近くを通るけど、一人で歩く人なんていないはず。
「誰だ・・・誰だ・・・!?」
恐怖で頭がおかしくなりそうだ。
父さんのベッドにしがみついたまま動けなくなった。
足音は明らかに近づいている。
新種のコトリだったら・・・僕と父さんは捕食されてしまう。
----「おーい!生きてるか!?誰もいないなら少し家借りるぞ!」
外から聞こえたのは、乱暴な男の声。
よかった、人間だ・・・と少し安心したが、コトリが堕ちてきてから秩序なんてどこか消えてしまったこの世界で、この男がただの旅人である可能性は低い。
「どっ・・・どなた様ですか・・・?」
必要以上に丁寧に、僕はドアの外に向かって尋ねてみた。
----「なんだ、こんなところに誰か住んでいるのか!」
声の感じからして、悪い人ではなさそうだけど、良い人でもなさそうだ。
---- ドンッ!!!
乱暴に扉が開くと、身長の大きなターニと同じ年くらいの男がズカズカと入ってきた。
「おう、今晩泊めてくれねーか?俺の家はここら辺のはずなんだが、どうも見当たらねえんだ。明るくなるまで少し寝かせてくれ!」
なんとも図々しい態度で、男は床に寝そべった。
「えっ、あなたは誰なんですか!?」
「俺はフクシムって名前だ。そこに寝てるのはボウズの親父さんか?」
「あっ、そうですけど・・・。」
「親父さん!お休み中申し訳ないけど、今晩泊めてもらうから!日が昇ったらすぐに帰るから勘弁してくれ!じゃあ、おやすみ!」
謎の大男はそう投げかけると、あっという間にイビキをたてて眠り始めた。
僕は状況が全然呑み込めなくて、フクシムというその男の姿を観察していた。
ボロボロのマントに身を包み、頭は少し薄くなってる。
でも、すごい体してるのは暗闇でもわかる。
武器は持っていなさそうだけど、コトリにも勝てそうな風貌だ。
何が何だか分からないけど、ターニ以外の人と話をしたのは何年振りだろう。
なにより、このフクシムが本当に害のない人間であれば、ターニが帰ってくるまで一人で父さんを見守らなくて済む。
体に見合わずイビキも控えめだ。