タマゴ
木々に緑が無くなったのはいつからだろうか。
人々が外を歩かなくなったのはいつからだろうか。
地球上に「アレ」が堕ちてきてから、この世から「潤い」や「恵み」なんてものは消え去った。
触れば折れる木の枝と、ただの獣道に成り果てた川(だった場所)。
いつまでも消えることのない、深く黒ずんだ雲(そのくせ雨はほとんど降らない)。
---- ビーッ!ビーッ!
『避難警報です。D地区の方々は近くのシェルターへ移動してください。ご高齢の方や小さな・・・』
騒々しい警報にはすっかり慣れてしまった。
というか、歩いてる人なんて全く見当たらない。
「・・・父さん、ちょっと待っててね。」
今はただ、呼吸を繰り返すだけの「人形」となった父さんに話しかけて、僕は家を出た。
---- ドコーンッ!!!
雲がうねり、その切れ間から無数の「アレ」が堕ちてきている。
この家に堕ちてこないことを願い、僕は空を見つめていた。
「おう、ソーマ。外にいたら危ないよ。」
僕に話しかけてきたガリガリのおじさん。
父さんがあんな状態になってから、面倒を見てくれている。
「ターニこそ、逃げなくていいの?」
僕は少し生意気を言ってしまった。
「隠れててもやられるときはやられるよ。それにシェルターは暑苦しくて嫌いなんだ。」
ターニは怒ったことがない。
父さんからも聞いたことがない。
多分、ターニは僕が行かないからシェルターへ行かない。
父さんの代わりにずっと守ってくれている。
---- ドゴッ!!!
「おっ、近くに堕ちたね。ソーマ、家に入ろうか。」
ターニは僕の背中を家へと押し込んだ。
僕はターニと窓から顔を出し、音のした方向を見つめていた。
「・・・あの手のタイプはタチが悪いんだ。」
ターニは近くに堕ちた「アレ」を指さし、顔をしかめた。
「アレ」はカタカタと音をたて、徐々にヒビが入っていく・・・