依頼人・3
何が面白いのか、先ほどからイアルさんにじぃっと見られている気がする。後頭部辺りに突き刺さるというか何と言うか。恐る恐る。けれど不自然にならないようにしながら後ろを振り向くと、気のせいじゃなくて本当に見られてた。
「どうしました?」
「……桁が違ったので、驚いて見つめてしまいました。倉庫を見ても驚きでしたけど」
「そうですか?」
東方都市にも召喚師はいると思うんだけどね。数は少ないとは思うけど。そんな意味合いを込めて言葉を返したら。イアルさんがちょっとだけ微笑んだ。
「はい。東方都市の召喚師はこんなに大量の鉱石をカードに封じる事は出来ませんから」
カードに収める事も出来ないらしく、興味深げに私が広げたカードを見ていた。真っ白のカードから、単に鉱石の絵が描かれたカードに変わっただけなんだけどね。
しかし東方都市の召喚師の質はそこまで落ちているのか。
それはそれで興味がないわけではないが、表には出さずにそうなんですか。と曖昧な言葉で済ませておく。流石元日本人。対人関係においてはなぁなぁが大好きだ。
「(ライちゃん買い物終わった?)」
「(終わったよ。ところでイアルって人……)」
「(こっちにいるよ)」
「(そうなんだ。合流する場所はいつもの所で良い?)」
「(うん。すぐに行くね)」
ライちゃんと私は特殊な双子石というものを持っている。それを加工して、通信用のアイテムとして使用している。人に見せれば太古の技術がたっぷりと詰まった値段のつけられない程高価なものだが、プレイヤーとしてのカードを所持している私にとってはたいしたものではない。
魔法でも心話は出来るが、それだとばれる。
しかしこの双子石での心話はばれない。ものすごく重宝出来るアイテムだ。
「これからライちゃんと合流しますね」
「わかりました」
すっかり大人しい人になってしまったイアルさん。さっきまでの自信満々の余裕は何処にいったのか。変わりすぎてちょっと怖いな。まぁ……ライちゃんと私の影には潜ませているから大丈夫だとは思うけど。色々と。
「そういえばヴァーナル殿。ヴァーナル殿はどちらの出身なのですか?」
歩いていると、突然そんな事を聞かれた。
「出身ですか?」
「はい」
出身は話したくないんだよね。話す義理もないけど。
「わかりません。親とは死に別れましたし、物心つく年になった時には南方都市にいましたから」
嘘は言ってない。母親とは死に別れたし、物心がつく年──一般的に──には南方都市にいた。
「そうなんですか」
申し訳なさそうな表情を浮かべるイアルさん。
「でも突然どうしたんですか?」
いきなり出身を確かめるなんて。そう意味を込めて言葉を返せば、難しそうな表情をされた。
「東に……貴方に似た人物を探しているお方がいます」
「私に似た方ですか?」
「はい。東の出身ならばと思ったのですが」
「そうなんですか。東に行った事は確かにありますが……という程度ですね」
表情1つ所か、心拍数すら変えずに言葉を並べる。観察されているのは気のせいじゃないだろう。
これは癒しの魔道具目的というより、私とライちゃんの観察なのかもしれない。私もライちゃんも正直に言って母親似だ。髪の色は違うが、目の色は完全に母と同じ。
この依頼は受けなかった方が良いかもしれない。今更手遅れだけどそう思う。
双子石でライちゃんに報告しながら、この後どうするかを相談する。私の所に来る前に、イアルさんはライちゃんにも同じ事を聞いたらしい。
聞いてきたのが、東方都市の貴族というのがものすごく嫌な予感しかしない。とりあえずアレハとイルハにも伝え、全員の意見をあわせておく。
背に突き刺さる視線はイアルさんのもの。
リルとルルを私の刻印の中に戻ってもらって良かった。あの子たちは私の感情に反応しちゃうから、イアルさんに警戒心をもった私の感情に反応し、今頃これでもかというぐらいには吠えていただろう。
「そんなに似ていますか?」
あまりにもじぃっと見られるので、苦笑しながら聞いてみた。すると少し頬を赤らめながら頷かれた。
「はい。東にはその方の母親の絵姿があって、それを元に、その方の今現在の絵姿も描かれているんです」
「そうなんですか」
それ以外に言う言葉を思いつかず、私は内心盛大に首を傾げた。多分私とライちゃんの今現在の絵姿を描いていると思うんだけど、どうしてそんな事をしたのか。全く意味がわからない。
「その方は私の婚約者なんです」
「へぇ。そうなんですか」
反射的に答えた。
完全に頬を染めて、照れくさそうに言われる。一体婚約者とは何??
「見つかればいいですね」
心とは正反対の事をさらりと言ってみる。相変わらず意味が解らない。ただの駒として私とライちゃんを探しているんだろうか。
「はい。一目惚れなので、見つかってほしいです」
「そうですね」
だからこれ以上私に何を言えというのだろうか。
しかし、よくよく考えてみればこれはチャンスだ。なんと言っても父親の情報を間接的に仕入れる事が出来た。どうしてか今更捨てた子を探している。
やっぱり駒としてなのか。家に帰ったらじっくりと検証してみよう。心底そう思いながら当たり障りのない笑みを浮かべた。