依頼人・2
「ギルドから許可がおりました」
イアルに伝えると、すぐさまホッとしたような表情を浮かべられた。
「それは良かった。では、すぐに南方都市に向かってもいいだろうか?」
一刻を争うのか、安堵の表情を浮かべてはいても、何処か焦っているのが伝わってくる。
「姉さん」
けれど、ライちゃんからストップが入る。
大丈夫。分かってるよ。
「すいませんが、もう少し待ってもらえますか? 中央都市には封玉を買いに来たんです」
今日の目的は、あくまで封玉だ。それに……。
「今から行っても目的地にたどり着くのは日が暮れてからになってしまいます。夜に、そこに立ち入るのはお勧めできません」
目的地の山は、夜には立ち入り禁止になる。
性質の悪い魔物が現れるのだ。
ランクがS以上なければ、斃すのは難しい。
「そうなのですか?」
「はい。夜に関しては、ギルドランクS以上でさえ苦労します」
「……それは」
イアルは口元を押さえ、唖然と呟く。
貴族だからギルドには登録していないとは思うが、Sランクの強さは知っているらしい。話が早くて助かるなぁ。まぁ、本当はライちゃんと私のコンビは余裕で斃せちゃうんだけどね。私は生まれながらのチート能力ならぬチートカードを数多く所有している。
ライちゃんは生まれながらの天然チートだ。
「わかりました。案内は明日頼みます」
「はい。それじゃあ……」
明日、ここで待ち合わせでいいんだろうか。
そう思っていたら、イアルから予想外の言葉が紡がれた。
「私も、君たちの買い物に付き合っても良いだろうか?」
「…………いいですよ」
たっぷりと考えた後、本当は微妙な心を奥へと押し込んで、頷くように言ってみた。
中央都市は封玉の開発、販売に力をいれているから、様々な種類が集まる。色とりどりの封玉を前に、ライちゃんもイアルさんも釘付けになる。
そういう私もかなり真剣に見てたりするんだけどね。
同じ呪文でも、封玉の色が違うのは遊び要素かな。癒し系も多いなぁ。流石に封玉の癒しは指輪の材料には出来ないけど。
作られた癒しの封玉と、天然の癒しの玉では何もかもが違うのだ。
「(あぁ。でも中級クラスの癒しがある。今まではなかったよねー)」
新聞で大々的に取り上げられた事はある程の種類の増え方。中級クラスなら、持っていても損はない。値段は跳ね上がるけど。
自分用と実験用に幾つか購入し、白紙カードの中に収めておく。召喚師って本当に便利だ。重たいものはカードに収めて左手の異空間につっ込んでおけばいいのだ。
「(そうだ。カード製作用の材料も買っておこ)」
白紙のカードがないわけではないけど、そこまで余裕があるわけではない。買っておいても損はない。
イアルさんからの依頼が終わった後にでも作ろう。あ……この鉱石いいな。武器作りにいいかも。実験もしたいな。
私の場合、色々おまけ要素がある。
アクセサリーを作るのはプレイヤーとしては当たり前。
他には武器、服、防具、何でも作れる。
ゲームの中ではただの遊び要素だったらスキルだったけど、500年後の今は非常に助かるスキルだ。
まだ身につけていないスキルは多々あるが、カードの中に入っている為、いつでも身につけられる。実用的なものから、本当の趣味のものまで色々だ。
今度改めて整理してみよう。
メモリーカードの中に入っていたカードは、大体は把握しているけど、あくまでも大体だ。
魔術師も召喚師も魔法にかかわる物は、精神統一の際、精神の世界で召喚獣や使い魔と会う事が出来る。
それを使ってトコトン話し合っているが、数が多すぎてよくパニックになっている気がする。大好きな動物にも囲まれて幸せだけど。
「お久しぶりです」
少し路地裏に入った所に、お世話になっている道具屋がある。
「おう。1ヵ月ぶりぐらいか」
恰幅の良いおじさんが笑いながら出迎えてくれる。
「そうですねぇ。何か良いの入りますか?」
「そうだなぁ。封玉のいいのが幾つか。
後は原石だな。大から小まで選り取りみどりだな」
隅に置いてある木箱を持って来てくれる。それを除いて見ろとばかりに手招きをしてくれる。
「うわぁ。純度が高そうな……」
一見、誰もが見向きをしない屑石。
扱い方法を知らないから、というのが1つの理由。それともう1つはちゃんとした手順で道具を使って磨かないと、本来の輝きを放つ事はない。
だからくず石として、ほぼ無料で取引がされている。捨てられたりと。本当に勿体無い事に。
「これが10箱ぐらいあるぞ」
「大量ですね。全部買います」
「おう。そう言うと思ってたぞ」
「行動パターンがばれてますね」
「そうだなぁ。付き合いが長いし、流石にわかるぞ」
「後、金属系はないでしょうか?」
「どんなのだ?」
「なんでもいいですよ。ちょっと実験をしたいので、色々なのが大量に欲しいです」
大体の買い物は、ここだけで済んでしまう。付き合いが長いし、私が何を欲しいと言っても揃えてくれるのだ。ここまでの付き合いになるまでは長かった。
「そうだなぁ。俺が使う材料は渡せねぇが……。
7から10までのは全部持っていっていーぞ」
つまり、7から10までの倉庫の中のものは全部持っていっていいっていう事。それだけ売ってもらえれば十分だ。
「じゃあ全部ください。後は最近出た封玉を2セット。それと、ポーション、ハイポーション、エリクサー。そういったアイテムの詰め合わせを一通り6セット。他は……」
「こいつなんかどうだ?」
おじさんが棚の中から懐中電灯を取り出し、スイッチを入れる。
「おー」
思わず声が漏れた。見た目は長さ10cm程。幅は1cmといった筒状の棒。つまりさっき思った通り、懐中電灯。
カチッとスイッチをONにしてみたら、地面に魔方陣が浮かび上がる。
しかも、ONOFFのスイッチ以外にも1から10のダイヤルがあるって事は、10種類の魔方陣が封じ込めているかもしれない。
「便利だね」
「そうだろ。嬢ちゃんなら使えるだろ」
「うん。すごく使える」
今までは紙に書いたものを地面に転写して使っていたんだけど、それだと魔方陣を書いた紙が大量に必要になる。
これだとスイッチを入れたら投影出来るから便利だ。
「そいつはおまけだ」
「おっちゃんありがとー」
本当に助かります。
「ほかはそうだな……2千万Gぐらいか?」
「それだと安い気がするなぁ。3千万で」
「じゃ、3千万な」
「うん。おっちゃんの通帳に送金しておくから」
「あぁ。頼むな」
おっちゃんとの取引は金額の桁が違うので、いつも振り込みという手段で済ませてもらってる。
「それじゃー7から10まで貰っていくね」
「そう。鍵は開けておくからなー」
「うん。よろしくー」
「また仕入れておくから、一ヵ月後には取りに来いよ」
「うん。ありがと」
おっちゃんは本当に良い商人さんだ。
良い買い物出来たな、なんて機嫌よく歩いていたら、いつの間にか私の方に来たイアルが近付いてくる。
「終わりました?」
「これから荷物の受け取りです」
許可を貰ったので、おっちゃんは店内にいながら倉庫の鍵を開ける許可を出してくれるし、私は倉庫の中身をカードの中に収める。
重量だけでいえば、1つの倉庫には2t程の鉱石等が入ってる。白紙カードを取り出し、魔力認証をしてから扉を開けた。
私の魔力を登録してくれているのだ。その辺りは今まで築き上げた信頼かな。
「これは……」
倉庫の扉を開けてから一番に飛び込んできたのは、これでもかと詰められた鉱石の山。どうやってこの高さまで積んだのか。隙間がない程詰め込まれている。初めから私に譲ってくれる気でいたんだなと思うと嬉しくなる。
やっぱりおっちゃんは良い商人さんだ。
「収集」
白いカードをかざして、10の倉庫に入っていたものを全て1枚のカードに収める。それを7から9の倉庫でも繰り返し、左手の平の異空間へと放り込んだ。
既に慣れた作業だ。
本当に召喚師って楽だなぁ。




