邪魔者・1
ルルとリルをつれて公園へと足を伸ばす。
見た目がいかにもわんこの散歩だったので、周りの人には怪しまれる事なく人気のない方へと進んでいく。
ここの公園は、中央都市の中でも大きく、どちらかというと公園より、ちょっとした森と言ってもいいかもしれない。中央都市や北方都市は、他の都市よりも化学が発展したからなのか、自然が少ない。だからなのか、いくつもの公園を作り、緑が見れるようにしているらしい。元々科学が発展していた地球に住んでいた私としては、その気持ちはわからなくもない。
ベランダのちょっとしたスペースで植物を育てていたが、それがなければ殆ど植物に触る機会はなかっただろう。
ただ、人の目が届きにくいこの場所は、実力がなければ物騒で奥まで進めない。けれど、ならず者を退治するなら絶好の場所。それは実力が、ならず者達よりも勝っているとわかっているからだ。
「どうしよっか?」
人ごみを歩いていた時と変わらずに、一定の距離を保ちながら後をついてくるならず者達。
「僕がやるよ。姉さんはルルとリルを抱っこしてて」
ルルとリルの2匹が相手を瞬殺させる事は簡単だけど、私が召喚獣を矢面に立たせる事が苦手──というよりは嫌いだという事を知っているライちゃんは、封玉をはめ込んだスティックを取り出し、分かりやすく構える。
取り出したスティックの武器レベルは30。
見た目は伸ばすと30cmぐらいの銀の棒。そこにはめ込まれた封玉の数は5個。
武器に封玉をはめ込む時は、武器レベルが関係してくる。武器の質が悪いと、封玉を使う際その威力に耐えられずに武器が破壊されるのだ。
ライちゃんの場合は、伸ばす前の10cmぐらいのスティックを常に何本か持ち歩いている。それを腰にかけてある皮のポーチの中に入れ、状況に応じて使い分けている。
スティックの太さは1本辺り直径1cm。伸ばす前の長さが10cm。この間見た時は20本程入っていたけどどうなんだろう。
しかし見た目は貧弱に見えるが、プラティヌスという珍しい金属で、その堅さは剣を前にしても負けない強度を誇る。
しかも封玉を5個も埋め込めるという、はっきり言って凶悪な武器だ。
それに気づかず、地面と仲良しになった人の数は最早数えるのも面倒な程いる。
今まではある一定の距離を保ってきたけど、人気のない所で私たちがその歩みを止めたからなのか、後ろをついてきた男たちが堂々と姿を現す。
「賞金首に間違いねぇな」
けれど、男の1人が口にした内容に、思わず動きを止めてしまった。今、何か変な事を聞いたような……。
「あぁ。ガキ2人だ。こんなガキ相手に1000万Gか。簡単な仕事だな」
1000万G……。
元々日本で作られたcocleaのオンラインゲームは、基本的に日本と同じだ。円じゃなくGだが、物価も変わらない。
しかし1000万Gか。そのぐらいは稼いでいるけど……。
「何やったんだ?」
「まあ、別にい…」
男たちがこちらを完全に舐めきって会話を続ける中、ライちゃんが飽きたのか、話の途中で光球を投げつけた。
死ぬ程じゃないけど、暫くは歩く事すら出来ないだろう。
しかし部分指定で魔法を炸裂させる事にも慣れて、どんどん上手くなってるなぁ。
「何しやがるっっ」
こっちを舐めきっていたけど、一撃で1人が戦闘不能になったのを見て、武器を構える。人を襲おうとしているのに、何で気が抜けるのか。それがよくわからない。
「ライちゃん。1人は残しておいて。賞金首の話を聞きたいから」
私が言うと。
「わかった。それじゃあ1人以外片付けていいんだね」
あっさりと頷く。
「うん」
流石ライちゃん。その年にして、既に天才の称号を欲しいままにしている。そんなライちゃんの口から、笑い声が漏れた。
「姉さんに危害を加えようなんて──……馬鹿だなぁ」
男の数は10人。1人減って9人。そんな男達を見ながら、スティックを何本か取り出し、それを男達に向かって突き出すように構える。
ライちゃんの凄い所は、同時にいくつもの魔法を発動する事が出来る。自分で唱えてもいくつもの魔法を自在に操る事が出来るのに、魔力を注いで制御するだけの封玉に閉じ込められた魔法を使うなら、2桁の魔法を楽に行使する事出来る。
今回は封玉の魔法を中心に使うらしい。
男の数は9人。9個の魔法で瞬殺だね。
光球を30個程発生させ、その幾つかを男達に当てる。光球が弾けた時にそこから稲妻が走ったり炎が発生したりと、細工を施したらしい。
対する男達は5人。一気に減ったね。
ライちゃんの周りをくるくると回りながら飛ぶ光球。全て、大きさと色が違う。
剣を構えてやる気満々だったのは1分程前の話だ。その男たちがライちゃんに押されるように後ろへと下がっていく。中級のレベルまでしか封玉になっていないが、その威力は個人の能力によって差が出る。30個の光球を維持出来る人間が放つ魔法は、大体の人が逃げるだろう。30もの魔法を受けるのは、私だって怖いし遠慮したい。
魔法防御が強いから、かすり傷を受けるかどうかだけど、視覚的恐怖は消えない。ライちゃんが私に攻撃するはずはないけど。
「ルルちゃん。リルちゃん。お座り」
ルルとリルをその場に座らせ、私は左手の刻印から1枚のカードを取り出した。
「ゲートオープン。召喚・“真実の鏡”」
私が召喚したのを横目で確認しながら、ライちゃんは最後の1人に逃げられないように、光球で男の足を止める。私がカードを出して召喚するまでに、1人を残して倒したらしい。30個の魔法によって、男達の悲鳴は掻き消え、残った1人はあまりの恐ろしさに既に気絶寸前だ。
話を聞く為だけに残した男。けれど、何かおかしい。
気絶寸前に見えるんだけど、瞳の奥には何故か力が宿っているように見えた。
何だろう。
「姉さん」
「うん」
ライちゃんも気付いたのか、私を守るように立つ。
「噂通りか。本当に天才なんだな」
震えていたはずの男が、口角を上げながら肩を竦めた。見るからに余裕綽々という感じだ。つまりさっきの気絶しそうな表情は演技だって事だね。
「そっちの女性も強力な獣を配下にした召喚師か」
「「……」」
どうやら、私とライちゃんの事を調べ上げているらしい。
しかし、ライちゃんの天才は分かるとしても、私もそう言われているんだ。初めて聞いたから、何か変な感じだ。
男との距離は縮めす、ライちゃんはスティックをしまうと、刻印から1枚のカードを取り出す。
そこに収められていたのは指輪。
至高の宝石をカッティングし、中に文字を掘り込んだものだ。
指輪の台座の方も、呪文が掘り込んである。
「──…指輪?」
男は、指輪を見て不思議そうな表情を浮かべたけど、それは油断しすぎだ。
ライちゃんが取り出したのは、増幅効果のある指輪だ。つけているだけで、唱える魔術が増幅される。
プレイヤー限定の入手アイテム。
私の手持ちカードの中にあったもので、今目の前にいる男は、これの存在は分からないのだろう。
500年前でもこれはレアアイテムだったけど、500年後の今は太古の遺産扱いされているアイテムだ。今もアクセサリーに何かしらの効果をつける技術は研究されているが、気休め程度のものしか開発されていない。
「誰かは知らないけど、姉さんには近付かないでほしいな」
ライちゃんは相変わらず、私の前に立って男を牽制している。
防御は心配していないけど、攻撃自体されたくないな。
「ライちゃんにも、だよ。お兄さん。用件は何?」
真実の鏡を使えば、本当の事がわかる。これもプレイヤー限定のアイテム品だ。
「賞金首の話はきになるけど、それはもういいよ」
鏡に男の姿を映した。それだけで十分。男は手鏡を取り出しただけの私を見て、意味がわからなず内心首をかしげているだろう。
既に賞金首になった理由は分かった。
目の前の男の目的もわかっているけど、出来れば本人の口から聞きたいかな。でなければ、協力する気にはなれない。
「本当の事を話さないと、協力しませんよ」
上から目線でごめんなさい。
けれど私は冒険者だから、舐められるわけにはいかない。
今後のお仕事に支障がある。だから話せとばかりに、余裕の笑みを浮かべた。ステータスを確認して男のレベル等も分かっているけど、私やライちゃんには絶対に勝てない。
「……噂通り、とんでもない2人だな」
「「とんでもない噂??」」
ライちゃんと私の声が被る。
「……まぁ、いいか。
賞金首の件は俺には関係ない。別件だ」
「ん」
私達を襲おうとしている男達を見つけ、後をついて来ただけ。
それはもうわかっている。
「依頼をしたい。
どうしても欲しい物があるんだ」
男は観念したのか、ぽつりぽつりと話し始めた。
それを聞きながら、地面と仲良しになった男達を縄で縛る事も忘れない。人型の召喚獣に頼み、憲兵へと引き渡してもらう。
それに男は気づく事無く、依頼内容を話していた。