護衛を拒む男・7
制裁を。
そう思う事に戸惑いのない程度には、この世界に馴染んでいる。それを感じ取ったのはいつ頃からなのか。Jランクの称号を得る為の最後のクエスト。その程度の認識だったけど、腹をたてているリラは誰に制裁を任せるつもりなのかどうなのか。私が役立たずだという言葉を鵜呑みにして、その眼差しを向けてきたドーファ殿。なんとなく、私にさせるかもしれない。それがきっと、Jランクの最初の依頼になるだろうと何処かで感じながら、改めてというかなんとなく、ドランツ殿を見ていた。
アプサラスを召喚してからというもの、私を役立たずだという眼差しで見る所か、とんでもない召喚師だという多少警戒の色を含んだ瞳で見てくるのはどうなのか。
警戒する事を悪い事だとは思わない。今は味方だけど、敵に回れば私やライちゃんは、この上なく厄介な敵になる事は間違いない。年齢に誤魔化されて実力を侮って、勘違いしたまま屠る方が楽といえば楽だけど、出来れば敵に回す人間は少ない方がいい。私の目的はあくまで、ライちゃんと幸せに暮らすという事なのだ。
その為に必要な事はするし、今持っている力を使う事に戸惑いなんてない。
「どうしました?」
意外と、というか、片手間作業で済んでしまった偽装。私たちじゃ気付かない問題でもあったのかと、少し心配になって、首を傾げながら聞いてみれば、ドランツ殿は何も答えずに押し黙るだけ。何かまずかっただろうか。
「……?」
うーん。でも何か意味を含んだ眼差しのような気がして、気になったというのもあるけど、そのままドランツ殿を見たまま固まるようにして視線を合わす。
だから男の人は苦手なんだって。
そんな本音は奥へと閉じ込め、ドランツ殿が口を開くのをひたすら待つ。
一瞬なような気もするし、長い時間だったような気もする。
ライちゃんが何も言わないから、たいした時間ではないのだろうと思うけど、それでも体感時間は長く感じるのはきっと、大人の男の人が苦手だから。
「貴方は、何者ですか? こんな事が出来る召喚師を見た事がない」
突然敬語になったドランツ殿。
なんだろう。一体何の意図があるのか。疑り深くなったなと思うが、それは仕方ない。
「ちょっと特殊なだけです」
ちょっと、特殊、なだけで済むのかどうか。言っている本人からしても甚だ疑問だけど、それをわざわざ丁寧に教えるわけもない。
「それよりドーファ殿をどうやって見張りますか?」
私自身城に戻って全てを話して、ドーファ殿が何をやっているか。何を企てたか。それを実際見せた方が早いと思うんだけど、そこまで目立ちたくない。リラもそこまでは私に求めていないだろうと思うし。
答えられないまま口を堅く閉じたドランツ殿に背を向け、城までのルートに何が仕掛けられているかを確認する為に、召喚獣を何人か呼んで見にいってもらう。何体とか数えるみたいだけど、私は何人って数え方の方がしっくりくるんだよね。やっぱり。
しかし何も答えられないドランツ殿 。ドーファ殿が何かをやっている。自分の死を望んでいる。そこまでわかっていても、断ち切れないものがあるのかどうか。それは、私が口を出す領分ではないし、依頼者であるドランツ殿は守り通すから別にいいんだけど。
しかしアプサラス以外にも、高位の召喚獣を召喚すれば、余計な詮索が入りそうだし。飛竜でも駄目か。竜との契約は相当難しい部類に属するし。ちょっと面倒になってきたな。
何もかも制限されると。ばれたくないから、勝手にこっちが制限されているだけなんだけどさ。
一度受けた依頼を断ると──というより、リラが直接言ってきた依頼だから、断ってはイケナイ。そういえば、家を出る前に指輪を受け取ったなぁ。別人に見える変装アイテムは、予備を合わせて3つ。アレハは先見が出来るんじゃないだろうかという疑惑を持ちながら、ライちゃんとドランツ殿に指輪を手渡した。
「これは……?」
ライちゃんは慣れているけど、ドランツ殿は慣れていないであろう指輪。こう使うんです、と言って右手の薬指に指輪をつけた。その瞬間、そこに居たのは私であって私ではない姿の私が立っていた。
「変装用のアイテムです。依頼の間だけ、おかしします」
特に目立たない茶色の髪と瞳。この世界は茶色の髪や瞳の人が多い。
服も一般の人がよく着るようなスカート。水色の襟には軽くレースがあしらってある、女の子らしい服だ。ライちゃんの髪の色も茶色で、シャツにパンツ。ベストというシンプルさ。
最後まで渋っていたドランツ殿の髪は薄めの茶色へと変わり、服装もシャツの下に首元を隠すタートルネックを着込んでいて、マントを羽織った時にそこだけが見えている。
さっきまでが騎士の鎧だっただけに、全く違う人に見えてしまう。全身が写る鏡を取り出し、それぞれ自分で最終確認をしてもらう。どうやらこれで大丈夫だったらしく、2人から了承をもらう。
見た目を変えた次は、名前かな。
ちなみに、ライちゃんと私の偽名は既にある。
「ドランツ殿。私のこれは、イシュで通してますので、イシュって呼んで下さいね」
「俺はイディで通してますよ」
やはり何処か棘のあるライちゃん。態々言わないけど。
既に決まっている私とライちゃんの自己紹介は、困る事がない。姉弟って設定だけは変わらないけどね。
「俺は……ライツでいい」
ドランツ殿もあっさりと決めた。ここまであっさりだと、元々偽名があったのかもしれない。
「それじゃあ兄弟設定で。ライツさんがお兄ちゃん。私とイディは、ライツさんの弟と妹です。それに伴い、呼び方も変えさせてもらいますね。ライツお兄ちゃんでお願いします」
おぉ。偽名とはいえ、お兄ちゃん呼び。
ちょっと緊張するなぁ。
「わかった」
ドランツ殿も同じなのか、少し照れくさそうに答えてくれた。
頭は色々とパニック状態だろうけど、ここは押し切らせてもらうつもりなんだけどね。
「ライツお兄ちゃん。今から、これだけは絶対にしたくないって事があったら、今のうちに言っておいて下さいね」
いざって時出来ないと困るからね。
そんな事を思いながら、設定を取り決めていく。
小さな子供だけが正しい道を歩める。
その意味は、まだわかっていない。




