護衛を拒む男・5
しかし、と腕を組みたいのを我慢しながらホッと息を吐く。
これだから騎士は苦手なんだよね。
ガッチガチな価値観しか持っていないから。偏見かもしれないが、そういう騎士しか会った事がない。
「イシュぅ。依頼者からのぉ仕事内容を教えるからぁ、奥へ来てぇ」
リラの相変わらずな口調を聞きながら、静かに頷く。奥。防音設備が効いた部屋といえばいいのか。外からの干渉を受けないその部屋の意味がわからない程、私はものを知らないわけじゃない。
ソレ所か、かなり信用されている。信用も信頼も、今までの実績で積み重ねてきたものだ。
「わかった」
ライちゃんの方に視線を流す。
すると、ライちゃんはにこっと笑った。
「俺はここに残るよ。いってらっしゃい」
「うん」
ライちゃんも察したらしい。
うん。でもライちゃんが残ってくれる事に安心しながら、私はギルドにある一番奥の部屋にリラと一緒に足を踏み入れる。その瞬間、部屋は一瞬で真っ黒に塗りつぶされたかのように、闇で満たされた。
テーブルの中央に置かれた蝋燭に火が灯る。
「真っ暗って……今回の依頼者はそこまで黒いの?」
呆れたような声が口から出た。
この部屋の用途は色々だ。ただ、ギルドから信頼されている私でも、ここに単独で足を踏み入れる事は不可能だったりする。
選ばれたギルド員と同時でないと、入る事が出来ない。正攻法では、という事は黙っておく。私の全てをギルドが知っているわけではない。ただ、ある程度見せた力と人格で、全てを知っているわけではないが、信用はしてくれている。全てをさらけ出さないのはお互い様だけど。
この部屋の用途は防音設備の他にも、様々な効果を発動させられる。
今回は、依頼人に対してのサーチをした、と言えばいいのか。
部屋は闇で満たされた。
これが光だったら良かったのだが、地獄の底からはいずり出てきたような闇を前に、依頼人が真実を隠しているというのは明白だ。
「黒々よぉ。ホントはねぇ、一番ランクの低い冒険者を頼んできたのよぉ」
リラのあきれ果てたような声が、静まり返った部屋に響く。
「一応2人でぇ、剣さえ握れれば良い、なんて言うのよぉ。不思議に思って知り合いに聞いたんだけどねぇ。そしたらねぇ、ラテ・ドーファはライツ・ドランツを憎んでいるみたいなのよねぇ」
個人情報は何処にいったのだろうか。
まぁ、日本を比べるのが間違いなんだけど。
そして偽りの依頼をする方が悪いのだと、開き直る。嘘はご法度だ。お互いの信用に皹をいれる行為でしかない。
頬に手をあて、困ったわぁ、なんて呟く。
「出世も実力も全てにおいて完膚なきまでに負けているからぁ、逆恨みをしているみたいなのよねぇ」
しみじみとした口調だが、何気に酷いような気もする。
つっこまないけど。
「あぁ。よくある逆恨みパターンね」
椅子に腰掛けながら、天井を仰ぐ。
「体力がなくてぇ、すごぉく弱くてぇ。弟に守ってもらってる子よぉって貴方達の事を紹介しておいたからぁ」
身も蓋もない。
確かに、カードがなければ、私はただ魔力量が多いだけの転生者だ。そうなれば、ライちゃんに守ってもらうだけだったのかもしれない。なんと言っても、ライちゃんは純粋培養液なチートだ。
私とは違う。
「年齢的にもまだ高位ランクには見えないだろうしね」
年齢や見た目で舐められているだろうし。
今までもそうだったから、ドーファ殿もリラの言葉通りに受け取ったのだろう。どうして隠された実力がわからないのか。人を見る目がないのか。騎士って人種は。
「先に持って帰るのはぁ、とあるモンスターの羽よぉ。希少種でぇ、漸く羽を1枚入手出来たのとぉ、とドランツさんは思っているわねぇ。もう1人の方はぁ、2枚も持っているのにぃ」
だから個人情報は。いや、何も言うまい。つっ込んではいけない事が、この世界には多々転がっているのだ。
それらを脳裏から追い出し、改めてリラの言葉の意味を考える。
ここまでくると、大体読めてくるよね。
私は腕を組んだまま、リラから得た情報を整理する。
ドランツ殿が帰る途中で戦死。その代わりにドーファ殿が王に2枚の羽を献上……か。ドランツ殿が死んだら、何を言われるのかわからないね。
事実を捻じ曲げて報告するんだろうけど。
つい眉間に皺を寄せて天井を仰ぐ。
面倒だなぁ、なんていうのが本音だったりするんだけどね。ギルドから任されたからには、受けないという選択肢は存在していない。
「とりあえず、ドランツ殿を守ればいいんだね」
至極簡単な結論を口にした。守れるか守れないかと言われたら、守る事は容易い。チートカード集を持つ私に、天然チートのライちゃん。
私達が守れなかったら、誰がドランツ殿を守れるのか、まで言えてしまう程の頼りになる存在。自画自賛ではなく、ただの事実だったりもする。
「ここからぁ、少し離れたらねぇ」
リラの瞳に光が宿る。
面白がるような。何処か試しているような。
「了解。ドーファ殿の動きはその都度教えてね」
「勿論よぉ」
挑発的に口角を上げて笑うリラ。ゾッとする程の整った容姿のリラの色香は半端じゃない。私達には効かないが、リラがその気になったら、この国ぐらい乗っ取れそうだなぁ。
面倒くさがってやらないだろうけど。
ただ、リラの琴線に触れてしまったドーファ殿。自業自得だから、恨むなら、浅はかな計画をたてた自分を恨んでね。決して口には出さないけど、今後の展開を考えてつい溜め息をついてしまう。
護衛というよりも、リラの望みを叶える事を最優先にしてしまいそうで、私はそれを振り払うように仕事モードに意識を移行させていく。
何はともあれ、依頼失敗はありえない。
この依頼を果たし、Jランクという何をするにも困らないランクに駆け上がるのだ。それをわかっているのか、リラがもう一度笑みを浮かべた。
全てを見抜くような微笑み。
本当に傾国の美女だよね。とは口には出さずに飲み込んだ。




