護衛を拒む男・3
「相変わらず5分前行動が好きねぇ」
こんにちわー、といつものように笑いながら言った私に、リラが苦笑しながらもしみじみといった体で言葉を紡ぐ。
5分前行動は仕方ない。これは癖なのだ。地球という星で習慣になってしまった5分前行動。それがここでも出てしまうのは仕方ない。
「そこに今回の依頼者が居てねぇ。護衛対象はその隣りにいるわぁ」
私から見えるのは背中だけでよくわからないけど、不機嫌そうなオーラを纏っているのは護衛対象だ。一体何に腹をたてているというのか。
会話を交わす前からわかるのはそれぐらい。これからは実際言葉を交わさなければわからない事だが、依頼者の方はリラの言葉を聞いていたのか、私達に向けて笑みを見せた。人懐っこい笑みだというのが第一印象だ。
「あぁ。依頼を受けて下さりありがとうございます」
何処かホッとしたような。
そんな笑みだった。依頼者は椅子から立ち上がり、私の前へと立つ。身長が高いから見上げる形になるが、依頼者を見上げながら私はそっと彼の事を観察する。
「いえ……初めまして。私はイシュリカ・ヴァーナル。召喚師です」
私の肩に乗っているエィちゃんも、“きゅる”と鳴いて挨拶をする。なんて可愛い子だろう。エィちゃんの女優っぷりは流石です。頭を下げるしかない。しかしわかっていても骨抜きにされそうな程可愛い。
「へぇ。ドラゴンの小さいのだ」
触ろうと手を伸ばしてきたから、1歩後ろへと下がる。
「この子は私と弟しか触れない魔法がかかっているんです」
すいません。と頭を下げながら、もう一度男を見つめた。
エィちゃんに警戒心を抱かせたり近付いたりしたら、モンスターペアレントがもれなく現れるんです。なんて事は言えない。依頼人を瞬殺されては困るのだ。
私の態度に、依頼人である男は首を振る。
「いやいや。突然触ろうとした俺が悪い。謝らないで下さい。俺はラテ・ドーファ。こいつはライツ・ドランツ。騎士をやっています」
どうりで身なりがいいはずだ。
依頼人であるラテの言葉に、私もライちゃんも納得がいったとばかりに微かに頷く。南方都市の王に仕えているのだろう。南方都市の王の名前はケルド・メリーディエース。会った事はないけど、変わり者だという話はよく聞く。
魔術に拘っているのは南方都市の王だけ。
私たちにとってみたら住みやすいけど。
「ドランツ殿を守ればいいんですね。ドーファ殿は?」
相変わらずドランツ殿は私達に背を向けたまま。
近付かなくても守れるから、全く問題はないんだけどね。
しかし守るのはドランツ殿だけでいいのだろうか。そう思って尋ねてみれば、困ったような表情で返された。
「俺はまだ帰れないんです。とりあえずライツに持ち帰ってもらいたいものがあるので、それらを含めての護衛を頼みたいんです。お願い出来ますか?」
ドーファ殿は心配そうに言うが、リラ──つまりはギルドが間に入って指名をしてきた依頼を、私達が断るはずがない。それはわかっているだろうが、それでも確認せずにはいられないのだろう。
ギルドが私達を指名した、という事は、持ち帰ってほしい物は相当の何かと思っても間違いない。でなければ、私たちを指名するはずがないのだ。
影のSランク。
年齢制限がある為、表のランクはBランクだけど、私の年でBランクは滅多にいない。
ドランツ殿に顔を向け、私は口を開いた。
「初めまして、ドランツ殿」
近づけなくても守れる、と言っても挨拶は重要だ。相手が挨拶する気がなさそうでも、この対応で何かしらの対策はとれる。
「今回、ドランツ殿の護衛を受けたイシュリカ・ヴァーナルと申します。召喚師をやっています」
「初めまして。ライディリカ・ヴァーナルです。魔導師をやっています」
ライちゃんも名乗るが、やはりこちらを向く気はなさそうだ。
護衛をする私達が召喚師と魔導師だから、心配なのかもしれない。世間一般的に視れば、召喚師も魔導師も紙防御だ。不安なのもわからなくもない。
しかしドランツ殿から溢れる力強い波動。
この人、そんなに弱くないから、ちょっとした魔法なんて跳ね返せそう。
とりあえずドーファ殿に視線を合わせ、どうしたらよいでしょうか?という眼差しを向けてみる。
信用はしていないが、口がまわる方が物事を聞きやすい。
「すいません。こいつは人見知りで照れ屋で恥ずかしがりやなんです。な。照れ屋」
すらすらっとドーファ殿から出た言葉に、、初めてドランツ殿が反応を示した。
「誰が照れ屋だ」
テンションは低めで、ドランツ殿がゆっくりと振り返る。眉間にしっかりと刻まれた皺。これは手ごわそうかもしれない。
「俺は召喚師や魔術師を信用していない。
碌な魔術も使えず、研究だといっては金を使いまくる。
召喚師も碌な獣と契約出来ず、雑魚モンスターしか召喚出来ないのに、口先だけだ」
ドランツ殿が始めて発した言葉を、否定する気にはなれない。
確かに、そういう召喚師や魔術師が多いのは事実だ。
世間一般的に見て、そういう反応は珍しくはない。困ったものだけど。
騎士はギルドに所属しているわけではないから、ランクはわからない。
私達の場合は、年齢がネックになっていてBランクやCランクで止まっている。でも、2人の反応を見ていると、ギルドでつけているランクの強さがわからないのだろう。
ランク毎のピンズをつけているが、それに気づいていない。
そして気付いた所で、よくわからないのだろう。
見せる見せないは本人の自由だが、それを確認しようともしない。私は腰につけているポーチにつけていて、ライちゃんの場合はベルトにつけている。
割とわかりやすい場所だと思う。
まぁ、年齢制限を止めようという話も出ていたり、私とライちゃん用にJの隠れピンズを作ろうという話も出ているとリラから聞いた。
それについては有り難いけど、ギルドのランクを全く気にしていない依頼者たちだけに、どうやって信用してもらおうか。少し頭を悩ませてしまう。




