護衛を拒む男・2
シャワーを浴びて軽く汗を流した後に衣装部屋に行くと、アレハが準備万端とばかりに控えていた。
「イシュ様。本日の衣はどうしますか?」
アレハに聞かれ、どうしようと目線を泳がせる。
今日の仕事は護衛だ。リラからの指名だから、それなりに難しい依頼内容なのかもしれない。先日、中央都市に行ったのにも関わらず、何も買えなかったのはちょっと辛いな。
出来れば封玉を買いたかったんだけど。カモフラージュにもなるし。
「動きやすい衣にしますね。それと今度は邪魔をされないように、変身用の指輪も用意しておきますね」
アレハが気を使って選んでくれた。そして変身用の指輪はありがたい。
「うん。お願い」
私も作れなくはないけど、その辺りはアレハが作ってくれた方が色々な意味で良い物が出来上がる。世話も出来るし装飾品も作れる。なんてチートなメイドさんなんだろう。
アレハが出してくれた服を着込みつつ準備を整える。
薄着でパッと見は防御力が紙だと思われそうだけど、間違いなくチート品だ。服も装飾品も。見る人が見ればわかるかもしれないけど、目くらましもしてあるから気付かないだろう。
黒のパンツにショートブーツ。上には白いシャツに緩く巻かれたベルト。小さいながらも宝石が付けられたベルトだ。それにマントを合わせる。大小の宝石が付けられた長めのネックレス。
腕輪に指輪。ピアスもつけて身体全身が映る鏡で確認する。
シンプルだ。
私の趣味に合わせて作ってくれてる。流石職人さん。オーダーメイドは半端じゃないです。ちなみに、相場は幾らぐらいだろうと考える事はとうの昔に放棄した。
考えただけで怖い金額になるからだ。
だってこの淡い水色のマントだけど、竜のブレスにだって耐えられちゃうチートマント。これを他の人に話せばどんな反応が返ってくるのか。
狙われる率が高くなるから言わないけど。
「あ。そうだ」
左手の刻印に向かって声をかける。
「ディリィエット、聞こえる?」
刻印に声をかけるだけで、相手に届くのが便利だったりする。
〈聞こえているわよ〉
「今回の仕事内容って護衛なんだけどね。エィリットも連れてく? 私の肩に乗っかる感じで」
先日、外の世界を見せたいとディリィエットが言ってたんだよね。それを思い出して声をかけてみた。
〈護衛ねぇ〉
「心配だろうから、エィリットに誰かが何かを仕掛けようとしたら、ディリィエットが召喚されるようにしておくよ」
〈それはいいわね〉
「後は絶対防御の白の風を纏わせておこうか?」
過保護なディリィエットの為に、提案をしてみる。
〈わかったわ〉
どうやらこれで許可が下りたらしい。
それに伴い、左手の平の刻印が光る。久しぶりにエィリットと会うなぁ。刻印から光を纏って現れたエィリットを見てしみじみと思う。少し大きくなってるし。
提案通りに白の風を発動させると同時に、落下防止の魔法もかけておく。
肩からは少しはみでるけど、乗せておけないサイズではないが、一応と言った所だ。
〈がうー〉
まだ子供だから心話では話せないけど、大体何を言っているかはわかるから、問題はなし。
「エィちゃん。もう1つ魔法をかけるね」
白の風に、母親であるディリィエットが召喚される魔法陣を仕込んでおく。
〈かう〉
母親が直ぐにこれる事がわかったのか、嬉しそうにきゅるきゅると喉を鳴らす。
「今日は私に肩に乗っててね」
〈かうかう! きゅるるるる。きゅる!〉
「ん。そっか。どうする?」
私が尋ねると、エィちゃんは悩むように尻尾を左右へと動かし。
〈きゅる!〉
元気よく答えた。
この先、少し空が暗くなっている。依頼人にも注意が必要。
一番小さな子供だけが正しい道を進める──とエィちゃんが言った。
特に有名な竜ではないんだけど、ディリィエットとエィリットは先が視れる。カードに書いてあった説明によると、このカードを場に出せば、相手の攻撃が何であっても防ぐ事が出来る。
それを自覚しているのか、ディリィエットは中々こちらの世界には出てこない。
単に、刻印の中の空間が、この世界よりも広く、そして色々なものがあるから、出てくる必要がないだけかもしれないけど。
そろそろエィリットに外の世界を見せて、能力を目覚めさせようとしていた。私は無条件で信頼されているから、託してくれたんだと思う。
その信頼を裏切ってはいけない。
刻印の中に住んでいる子供達が私を信用してくれてるのは、まだ失敗をしていないから。
召喚獣をまだ死なせてないというのが大きいんだと思うけど。
誰だって召喚獣を簡単に殺す召喚師とは、契約はしたくないよね。そんなのは当たり前だ。私も死なせるのは嫌。折角知り合えたし。
召喚獣が召喚師を慕うように、召喚師にとって召喚獣は家族といえる。少なくとも私はそう思っている。
「そろそろ行こうか」
依頼人を待たせても悪いし。
時間よりはちょっと早いけど。
「うん……ってエィちゃん? 珍しいね。がっちりと防御はされてるけど」
私の声に頷いたライちゃんが、肩に乗っているエィちゃんを見て驚いたように目を軽く見開いた。
「まぁね。何があっても大丈夫じゃないと、ディリィエットが着いてくると思うよ」
「それは大騒ぎになるだろうね」
「……うん」
大きさは自由に変えられたとしても、エィちゃんよりは大きいサイズで目立ってしまう。
「私から離れられないように魔法をかけてあるからね。何かに引っ張られたら直ぐに教えてね」
〈あう!〉
小さな尻尾をぶんぶんと振り回し、元気よく承諾してくれた。
私からは引き離せないけど、引っ張られる感覚は消してはいない。私の子たちを狙う連中のブラックリストは、常に更新し続けている。
手をだしたら、その事を後悔させてあげないとね。




