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coclea  作者: 国見炯
13/22

獣・2




「我思う。我願う。清き雫よ。我が手に」



 現場に到着すると同時に詠唱を始める。


 冬シリーズのクローバーとハートを先に送ったから、パッと見だけど怪我人はほぼいないように見える。



「リルク大丈夫?」



 清めの水を左腕に纏わせ、リルクの隣りに降りる。



「おー。すっげ助かった。居なかったら死人続出だったさ」



 軽く聞こえるリルクの口調だが、中身はとても重要だと思う。やっぱり防御と回復に特化した召喚獣を送っておいて良かった。けど……。



「清めの水はいらなさそうだね。でも凄い怒っているだけで、狂ってはいないみたいだし。けど瘴気が発生し始めちゃってるから、浄化しちゃってもいいかな」



 左腕を天に翳し、清めの水を解き放つ。


 こうやって戦いで血が流れると、動植物が魔物化しやすい。浄化しておいて損はないんだけど、ちょっと離れた場所で日常ペースの口調でリルクと話していたら、黒の魔獣の視線が私に向けられた。


 確かに、今ここにいる面々の中で一番の高レベルは私だ。


 そして、黒の魔獣を召喚獣として使役出来るのも、私だけ。


 黒の魔獣は清い空気を好むらしいから、浄化をした私に興味を持ったのかもしれない。



「んー。現場に13人。大怪我死人共に無し」



 くるっと辺りを見回すけど、黒の魔獣を相手にしているとは思えない程。平和な戦場だ。こうしている間も、冬シリーズのハートのお嬢さん達が色々とかけまくっている。


 魔法を。


 これでもかっていうぐらいに。防御上昇攻撃力上昇異常事態解除。上昇上昇上昇。上乗せ中。ついでに自動回復最大もかけられている。


 身代わり魔法もかけられているから、仮に防御を打ち破ったとしても死ぬ事はない。


 ひょっとして、私が来るから人数を減らしたのかな、と思う面々。黒の魔獣相手に13人は少ない。少ないけど、先鋭だ。1人1人の実力は半端ないものだ。


 顔ぐらいは知ってる。ギルドでもそれなりのランクの人たちだから。


 名前を覚えているのはリルクぐらいだけど。


 こうしている間にも、黒の魔獣と目があってしまい、逸らせないまま膠着状態が続く。そんな中、ライちゃんが私に近付いてきた。



「姉さん。繋がり元はわかったよ」



 私のお願いを終わらせたライちゃんが、障壁を貼りながら私の隣まで歩いてくる。その歩みはゆっくりでとても戦場にいるものとは思えないけど、内側でとんでもない量の魔力が練られている。


 黒の魔獣を瞬殺とまではいかないけど、1対1でやりあえる程の魔力を蓄えている。すぐに放出出来る所がライちゃんのチートな所だ。


 しかしやっぱライちゃん。仕事が早い。



「じゃー……黒の魔獣。貴方を捕獲します!」



 知能が高い黒の魔獣は、人語も理解している。


 大声で宣言すれば、尻尾を左右に動かしながら、体勢を低く保つ。いつでも飛びかかれるように、お尻をあげて目には獰猛な光が宿る。私を殺す気かもしれない。


 私の宣言を聞いて、間にいた人たちは左右に分かれて私と黒の魔獣を取り囲んだ。



《ぅぅぅぅぅう》



 低く唸る。


 自分を使役出来るならしてみろと言わんばかりに、唸り声をあげた。



「オープンゲート」



 左手の平の刻印を黒の魔獣に向かって解き放つ。


 私が勝てば黒の魔獣は刻印の中へと吸い込まれる。黒の魔獣が勝てば、私は左手を失う。黒の魔獣はリスクが高い。純粋な魔力勝負ではある。


 私の表向きなレベルは150。


 これは、カードに私のレベルを封じ込めているから150なのだ。


 イルハとアレハと相談した結果、1からレベルを上げる為に封じ込めてから十数年。他の人と同じようにレベル上げはしていての結果がこれ。


 でも、150じゃ全然足りないのだ。カードに封じ込められた召喚獣を召喚するには。その時だけはカードから魔力だけを引き出して使う。


 それを知らない黒の魔獣は、私を見ながら言葉を飛ばしてくる。



《何故、魔力勝負にした?》



 キィンと響いた。



「(何故って……私個人の力を示した方がいいでしょ。でないと、貴方を得る事を出来ないわけだし)」



《そうか。人界で見たあの馬鹿とは違うのか》



「(馬鹿? それって無謀に貴方を飼おうとしていた人間の事?)」



 3m級の黒の魔獣を飼えると思う人間は、相当の馬鹿だと思う。



《あぁ。魔族の協力を得たようだが、我の本来の姿も知らず、あの程度の繋がりで我を自分の物とした。出来たと思い込んだ相当の馬鹿の阿呆だ》



 黒の魔獣のしみじみとした言葉。


 協力した魔族のレベルは高そうだけど……。



「(そうだね。貴方は強いしね。今は私の召喚獣になってもらうけど、魔界に帰りたかったら還すから)」



《ぐっ》



 魔力を高め、いっきに勝負をかける。



《我を完全に抑えるか!! 面白い。面白いぞ人間!!!》



 最後に叫び、黒の魔獣はカードの中へと吸い込まれた。すかさず刻印の中にカードを戻し、色々と説明をリルクに頼んだ。私の刻印の中は特殊だから、説明がないと皆驚くらしい。


 そうだね。一般的な召喚師の場合、カードにすいこまれたりはしない。


 カードにお互いの血を垂らし契約する事によって、道が繋がるのだ。


 でも私の場合は直接カードに吸い込まれる。


 本当は一般的な召喚師の通りにした方がいいんだろうけど、何故か私には出来なかったのだ。血をたらしても、カードに吸い込まれるし……。



「黒の魔獣。貴方はシュリ。よろしくね」



 最後に名前をつけ、私との繋がりをより強固なものにする。


 しかし疲れた。


 本当に疲れた。


 主に東の都市から来た人といる事が、ガジガジと精神を削り取ったんだと思うけど。



「流石イシュ。俺らの出る幕全くなしだな」



 説明を終えたリルクがお疲れ様とばかりに、私の頭を撫でる。ちょっと強いから痛いんだけどね。幾ら言ってもやめないからもう癖になっているというか。



「ううん。ここに足止め出来たのが凄いよ。ありがとう。アレだけ怒ってたら、村の幾つかは消滅していても不思議じゃないし」



 私1人じゃ、ここまでもっていくのも大変だったと思う。だからさり気なく腕を遠ざけながら、頭を下げる。ギルドランクは高いけど、私がまだ若輩者である事には変わりないし、協力があったからこそ1対1で勝負が出来たと思うし。



「そっか。それなら良かった」



 リルクがホッとしたように笑みを浮かべる。


 肩の力が抜けそうになるぐらい、気の抜けたリルクの笑み。これで戦場から日常へと精神を切り替えられる、という人が続出なぐらい、ほっとする笑顔。



「うん。そろそろ後処理かな。それじゃあ怪我人がいたら治しますよー」



 ハートの召喚獣達が傷を治したり、瘴気を浄化していてくれているんだけど、思いの他手間取っていらしい。シュリのレベルが高かったし、呼び寄せられた瘴気がいつもよりも濃いのかもしれない。


 瘴気に汚染されたかな。


 さっきの清めじゃ全然足りなかったらしく、所々に禍々しい靄が漂う。


 私は魔術師兼召喚師だから、神職系の呪文にはちょっと弱い。今のレベル150の私はだけど。


 とりあえず今のレベルで行くと、浄化系は多少は使える、という実力だ。



「オープンゲート。清めの乙女よ」



 召喚獣である浄化に強い女性を呼び出し、辺り一帯の浄化を頼む。



「かしこまりました。お任せください。マスター」



「うん。よろしくね」



 清き乙女は、呪いも浄化出来る。この程度だったら、然程時間はかからずに浄化が出来るだろう。


 本当に助かるなぁ。私の苦手分野をフォローする所か、正直頭が上がらない程助かってる。


 私が居なくても、魔力さえ補給していれば、遠く離れた土地にだって召喚獣を送る事が出来る。今回もそうだったけど。


召喚獣って呼んでいるけど、本当は様付けをしたいぐらいだ。



「(少し魔力の回復をしたいなぁ)」



 まだ空にはなっていないけど、半分程消費した。


 刻印の中から1枚のカードを取り出し、MP回復用のチョコを3粒程具現させた。このチョコは優れもので、食べればMPを300程回復できる。


 私のMPは2000。現在は1000。


 3個食べれば、大体は回復出来る。それにHPMP自動回復の装飾品も身につけてる。100ぐらいなら、1時間もしないうちに回復出来るだろう。



「(よし。これでOK。他には……ん?)」



 アレはなんだろう。


 地面から少し出ている石のような物。


 魔力を帯びているので、埋まっていてもわかる。



「(何だろう)」



 魔力で膜を作り、手に纏わせる。


 それを掘り出してみると、出てきたのは黒のクリスタルだった。それに彫りこまれていたのは魔法陣。



「(シュリの魔力がついているという事は、元居た場所からここに転送された……という事かな)」



 計画的犯行なのかもしれない。


 一応クリスタルが埋まっていた場所を写真に写し、いつでも具現出来るように詳細を写しこむ。


 これもギルドで調べてもらおう。ひょっとしたら、他の都市に仕組まれた事かもしれないし。


 東西南北と中央は仲が良いという事ではない。常に領土は狙われている。気になった所を全て写真に撮り、現場の土も一緒に保管しておく。


 ギルドに戻ったら提出しないとなぁ。


 面倒ごとになりそうだとため息が漏れそうになるけど、それを抑えながらギルドが用意した魔法陣でギルドへと戻る。この提出だけで済めばいいんだけど。


 そんな希望を脳裏に浮かべながら、魔法陣の流れに身を任せた。






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