獣・1
イアルさんの視線を振り切り、転送陣に足を踏み入れた。陣がひかれた場所はテントの中。予想通り安全地帯への転送だった。
辺り一帯には結界を張っているのだろう。魔物の声は一切聞こえない。
「んー。結構距離があるね」
リルクに送った召喚獣の気配を辿ると、10km程離れている。
予想以上の距離がある。つまり、余程の魔物が出てきたのかもしれない。中型ぐらいなら、1Km程はなれた場所に結界を張る。
「どのぐらい?」
「10Kmぐらいかな」
「離れているね」
ライちゃんが机の上に置いてあった書類を手に取る。後続隊が来た時の為に、ある程度の書類はテントの中に置いてある場合が多い。
今回は私の召喚獣をリルクの影に潜ませたから、そこから探る事も可能だったけど…。
「うん。魔物はどんなの?」
書類を手に取っているライちゃんに聞いてみる。
「黒の魔獣だって。大型」
「へぇ。大型なんだ。黒の魔獣って魔界でも稀少なんじゃなかったっけか」
人界に出てくる魔物は、種類を問わずに退治しても良い事になっているけど、黒の魔獣は稀少過ぎる。
強いし、捕獲は難しいから退治をするという選択を選ぶ冒険者が多い。とは思うんだけどね。
「召喚獣にすれば役立つんだろうけど」
「まぁ、大型のわんこだしね」
ルルとリルは聖獣の部類に属する。
大きさは随分と違うけど、純粋な強さだけでいうとルルとリルの方が強い。レベルの差もあるだろうけど。
「カードにも余裕があるから、なるべくなら生け捕りにしたいね」
「うん」
ライちゃんの言葉に頷く。
魔獣にとって、人界は毒素が強いらしく、稀に狂う事があるのだ。魔界で人界に行く事は禁止されているけど、その辺りは一部の人間や魔族によって、度々やぶられる。
珍しくはないのだ。
珍しい獣は、ペットとして飼われる事もある。
そういう場合は狂わないように檻に結界を張り、毒素が入り込まないように細心の注意が払われる──らしい。そして魔獣と、人界に存在する魔物は全くの別物になる。
魔獣は魔界に属し、魔物は人界で生まれる。毒素が溜まり、形を成すか、動物が変異するか。
何パターンもの魔物がいるが、その殆どは毒素が命を持って形を成した魔物が多い。
魔とついていても、それは魔界の生物ではないのだ。
魔獣の魔物化は、ペットとして飼われていた魔獣が捨てられたり狂ったりする。今回の黒の魔獣は、ペットとして人界に持ち込まれた可能性が高い。
元々魔獣は知識が高く、魔物化してしまった場合は退治するのに苦労する。召喚師が使役してしまえば、召喚師との繋がりにより、狂う事はない。仮に狂っていても、浄化されて理性を取り戻す。
ただ、魔獣のレベルにもよるが、黒の魔獣クラスを使役出来る召喚師の数は減っているため、やはりギルドの総意で退治される事の方が多い。
「ライちゃん。繋がりがあった場合、どこからか読んでもらってもいい?」
ペットとして魔獣を飼う事は基本禁止されている。
それをやぶってペットとして飼っているなら、ただの違法者だ。飼う、という事が許可されるといえば、やはり召喚師になるか、召喚師を雇うか。それか国の許可を取るというパターンしかない。国の許可を取れれば、魔獣と契約を結ばせてくれるらしい。
とは言っても、魔獣にも心を寄せてもらわなくてはいけないので、その許可がおりたという話は聞いた事がない。
魔獣の方が人間よりも魔力が高く、優れている為、弱い人間に飼われる事を嫌がるのだ。
「わかった。探ってみるよ」
「うん。お願いね」
仮に今回の魔獣が飼われていた場合、他の魔獣を飼っている可能性が高い。繋がりはただの気休め程度ではっきりは見えないけど、ライちゃんならどんなに細く切れそうな繋がりでも読んで、進入して元を辿る事が出来る。
チートなライちゃん万歳だ。
「結構多きいね」
「どのぐらい?」
「3mぐらいかな」
「ふぅん……大きいんだね。違法の可能性の方が高いかな」
「そうだと思う」
黒の魔獣は知能が高く、縄張りを魔界と決めているのか人界には出てこない。しかも今回の大きさは3m。黒の魔獣なら生まれてから100年は経っているんじゃないだろうか。
「自尊心を傷つけられているっぽいね」
先に送った召喚獣と瞳を共有し、現場の様子を探る。こんなに強い黒の魔獣を捕まえられるという事は、魔界でもそれなりの存在が関わっているのかもしれない。
大問題に発展しそう……。
出来れば穏便に済むように。
そう思わずにはいられない。




