依頼人・5
「おかえりぃ。待ってたわぁ」
いつもはカウンターの内側に座っているリラに、態々出入り口で出迎えられ、私もライちゃんも分かりやすく、予想外な事に固まってしまう。
依頼の内容は伝えてあるが、リラが出入り口まで歩いてきて、出迎えてくれるのはおかしい。
「「……どうしたの??」」
ライちゃんと言葉がかぶったけど、仕方ない。
「あらぁ、失礼ねぇ。アタシだってたまぁ~には出迎えるぐらいするわよぉ」
「「……」」
嘘をつけ。
そんな眼差しをつい向けてしまった。
「もぉ。可愛くないわぁ」
いじけるように唇を突き出し、頬を膨らませる。
顔はとても可愛いリラだから、似合わないわけじゃない。わけじゃないが……。
「で、本題は?」
恐ろしいことには関わりあいになりたくないから、さっさと本題に入ってもらう。
「今回の依頼の件で許可を取りにきたんだけどね。どうする?」
私とライちゃんから容赦なく言われ、リラは難しそうに口を閉じた。どうやら頬を膨らませるのは止めたらしい。
「癒しの指輪だったわよねぇ。それはギルドで出すわぁ」
リラの言葉に、今度はイアルさんが難しい表情を浮かべる。
ん? これは確かにイアルさんにとってみたら予想外でも、嬉しい事でもある内容だろうと思う。癒しの指輪だけが目的なら、の話だけど。
でも、目的は癒しの指輪だと公言してしまったイアルさん。
今更訂正はきかない。
「依頼の指輪ですけどぉ、今回は無料で依頼主に渡すわぁ。こちらの用事で、2人はこれからクエストに入ってもらうのでぇ」
クエストに入る?
全くの初耳だが、口を挟まないでおく。
リラの真意を少しでも探ろうと集中する。とは言っても、表には出さないけど。
「いえ。こちらこそ無料だなんて……目的は指輪ですので、それが手に入るなら支払います」
「その辺りは気にせずにどぉぞぉ」
有無を言わせぬ表情で、リラは指輪をイアルさんに押し付ける。
「イアルさん、すいません。受けた依頼を放棄する形になってしまいました」
頭を下げながら、もう一度すいませんと繰り返す。
「本当にお気になさらずに。それよりもどうかしたのですか?」
慌しく動くギルド従業員と冒険者たち。
これを見れば、何かがあったとしか思えないだろう。
「ちょっとだけぇ、厄介な魔物が出ただけですわぁ。イシュちゃんとライちゃんは、直ぐに現場に向かってくれるかしらぁ」
「わかった。地図は?」
てっきり、ギルドが私とライちゃんの実力を隠しておきたいだけかと思ったんだけど、それだけではないらしい。それもあり、と同時に厄介な魔物が同時に発生したのだろうと思う。
しかも私とライちゃんが同時に向かう程の魔物。
南方都市の冒険者達は、他の国に比べて全体的にレベルが高いし、魔物にも慣れている。魔法を扱える者も多いし、貴重な石を保持して冒険者の数だって、他国とは比べ物にならない。
その中でもイレギュラーな私とライちゃん。
「入り口に置いてあるからぁ、それを見てちょうだいねぇ」
「わかった」
相当の急ぎらしく、既に魔法陣を展開してあるらしい。
「先に行った人は?」
「えぇ。いるわぁ。とりあえずリルクもいるわぁ」
「そう。リルクね。先に送ったほうがいい?」
転移の魔法陣の出入り口は、安全な場所に展開してあるだろう。そうすると、合流までにはほんの少しだけ時間がかかるかもしれない。
「お願い出来るかしらぁ?」
リラはいつものおっとりとした表情も口調も崩してはいない──が、これは切羽詰ってる。
「ん」
軽く頷き、リルクの魔力を探りながらそこに陣を繋げる。
これは条件をクリアーした相手には出来ないが、魔法陣を直接影に繋げて、遠距離でも私の召喚獣を出現させるというチート技だ。
リルクなら条件を満たしているし、何の問題もない。
「姉さん。とりあえず防御特化型の方がいいかも」
転送陣の所に置いてあった資料に目を通したのか、ライちゃんからリクエストをされた。
「わかった」
トランプの冬シリーズ。クローバーとハート達を送る為に瞳を閉じ、リルクの影に魔法陣を展開させる。AからKまでの26個の魔法陣を同時に展開。
直接戦場へと出現させた。こうすれば、私の目の変わりにもなってくれる召喚獣たち。戦況の状況を一気に把握出来る。
「回復と防御に特化した召喚獣を送ったよ。これで暫くは大丈夫だと思う」
トランプの冬シリーズは全体的に、防御に優れている。
その中でも盾役であるクローバーと、回復役であるハートたち。私が26の魔法陣を操る、というのは東方都市が他言しないトップシークレットだ。
現場には、その事を知っている冒険者しかいなかった。だからリラは頼んだんだと思う。
それに目を閉じて、ただ突っ立っていたようにしか見えない私の行動。知らない人間から見れば、何をしたかなんてわからない。魔力も多少は動くけど、今回は東方都市の貴族であるイアルさんが居たから、カードに溜めておいた魔力を使用した。
これで魔力の動きすらない、ように見える。
「それじゃあ私達も行こうか」
「うん。姉さんは無理をしないでね」
「わかってるけど、ライちゃんもだよ」
遠隔操作の魔法陣の展開による、私の疲労を心配してくれるライちゃん。このぐらいなら全然大丈夫なんだけど、相変わらず過保護だ。人の事は言えないけど。
「イアルさん、機会がありましたら、また今度」
一応だけど、イアルさんに頭をさげておく。
本音の部分としては、これで離れられてラッキーとしか思ってないけど。流石に、東の貴族とは関わり合いになりたくない。これからも。この先も一生。
「えぇ。こちらこそお願いします」
イアルさんの頬がかすかに震えた。引き攣るように。
けれど次の瞬間には穏やかな表情へと戻る。
流石貴族。
でもほんの一瞬でも頬が引き攣る程、私は表情にだしていたのだろうか。ライちゃんの方を見たら無言で頷かれた。そうか。出てたんだね。
まぁ、東の貴族に睨まれた所で怖くないからいいんだけどね。




