依頼人・4
「癒しの指輪というと、迷宮攻略の方がいいのかな」
プレイヤーがいた時代にこれでもかと作られた迷路。そこには未だにお宝が眠っている。というよりも、プレイヤーのいた時代の迷路は、一定時間が過ぎると宝が復活する仕組みになっていた。らしい。
攻略雑誌を軽く読んだだけだからわからないが、迷宮に潜ってみた時に実際宝があった。ただ、ゲームと違って開けたらそのまま。再びアイテムが復活する事はないのは確認済みだ。
「簡単に行く場所だともう残ってないね」
「ん……」
ライちゃんと合流後、喫茶店に入り軽く腹ごしらえを済ませる。ついでに何処の迷宮を目指すのかを決めようと、地図を机の上に広げえた。
「ギルドに相談したんだけど、いざっていう時は癒しの効果のある石でもいいって」
「……作ってくれるんだ」
「そうみたい。それだと、迷宮に行かなくてもいいよね」
「そうだね」
ライちゃんと話し合いをしていたら、イアルさんが不思議そうな表情を浮かべていた。そりゃ浮かべるよね。
「南方都市のギルドでは、材料さえ集まれば作ってくれるんです」
「作れるんですか?」
驚いたように声をあげるイアルさん。
「はい。中央でも宝玉を使って効果のあるアクセサリーを作っていますが、それと似たようなものです」
圧倒的に違う事といえば、封玉は魔力がないと発動しないが、力のある石は身につけた本人に魔力がなくても発動する。その違いが大きいが、古の技術の為に今となっては失われたものだ。私は問題なく作れるが、態々ここで言う必要はないだろう。
「この辺りかな」
私が指をさしたのは鉱山。許可を取るためにギルドに顔を出さなくてはいけないが、はずれがない場所の方が手っ取り早くていい。
「ごちそうさま。それじゃあ南に行こっか」
科学の発達した中央も楽しいけど、今は南方の素朴な方がホッとするというか寛げるというか。
中央の1割程で土地が買えるし、広い庭で動物が走り回れる。うん。幸せ。
「ゲートを繋げます」
人気の少ない場所まで移動し、さっき貰ったばかりのライトを付ける。おっちゃんのこれは、私が良く使う魔法陣が入っていて凄く便利だ。
転移の陣を写すと、そこに魔力を注ぎ込む。すると、魔法陣自体が光を放ち出した。
「魔力チャージ。座標固定」
「ツェーラさん。先に僕が入りますから、その次に入って下さい」
「……はい。けれど個人で転移の呪文を扱えるんですね」
「……姉さんは特別ですから」
「……」
「それでは行きます」
ライちゃんがイアルさんに声をかけてから魔法陣に入り、続いてイアルさんが入る。魔力の流れを感じ取りながら、私も魔法陣の中に入った。
幼い頃から使っているからこの感覚には慣れているけど、ひょっとしたらイアルさんにはちょっと苦しいかもしれない。
東方の人間にしてみたら、魔力はあるからどういうものかは解ると思うけど。
「(しかし……イアルさんの対応には困るなぁ)」
恐らくイアルさんが探しているのは、私とライちゃんで間違いない。今更何を言っているんだと思うが、私に地球での記憶があるからなのかはわからないけど、もうあの人たちを家族とは思えない私がいる。
そんな事を考えていたら、魔法陣から放たれる光の粒が私を包み込む。
瞬く間の時間で転移先に移動するが、そこにいるはずの2人の姿が見えない。
「あれ?」
思わず声が漏れた。
何処に行ったんだろう。
私も警戒しているけど、ある意味ライちゃんはそれ以上かもしれない。
「(冬将A。今何処にいるの?)」
ライちゃんの影に潜ませているトランプ冬Ver。冬将軍のAに呼びかける。
召喚者と召喚獣の間には、絆というものがある。その絆によって、お互いの居場所が解るんだけど、刻印の中で駆け回っていたルルとリルが外に出せと吠えている。
「オープンゲート」
……2匹に甘い私の場合、懇願するようにクィーンと鳴かれると、あっさりと折れてしまう。
外に出してリードを持つと、一目散に駆け出した。ルルとリルの向かった先に居るのはライちゃん。と、イアルさん。
「ライちゃん。いなくなったら吃驚しちゃうよ」
冷たい空気が漂っていたけど、気付かないフリをして空気を壊す。
「姉さん」
「何かあった?」
「……イアルさんの目的を聞いていただけだよ。
癒しの指輪は目的次第じゃ恐ろしい事になるからさ」
「それはそうだけど」
多分、聞いた事はそれだけじゃないだろうとは思うけど。
古の秘宝と名高いプレイヤーが持っていたアクセサリーは、500年後の今となっては発掘か迷宮の奥まで行かないと、基本的に入手は不可能だ。
今現在は封玉をアクセサリーに加工する事により、魔術を行う事が出来るが、古の秘宝は全く別のものになる。
ただ身に付けるだけで、自身の魔力や体力。精神力を損なわずに効果を発揮するのだ。癒しの石については、怪我であったり病であったりと様々だ。
正直、癒しの石のついたアクセサリーを売れば、一生遊んで暮らせる程の大金が手に入る。
私の中の感覚では、掃いて捨てる程手に入るのに、という感覚だけどね。
「んー。イアルさんが入手出来るのは、本当の気休め程度のものですけどね。古の秘宝レベルのものは中々見つからないでしょうし。擦り傷が治ったり、風邪をひきにくくなったりするレベルのものです。それで大丈夫ですか?」
改めて聞いてみる。ひょっとしたら癒しのアイテムを研究したいだけかもしれないが。
「勿論大丈夫です。古の秘宝が近場で見つかるなら、価値はさがっているでしょうし」
「そうですね」
私としては、今持っているアイテムで気休め程度の指輪を作って、それを押し付けて東方都市に戻ってほしいけどね。
「とりあえずギルドに向かいましょう。ここから直ぐですし」
徒歩何十秒かで着く場所に設定してあるから、ギルドまでは本当に近い。けれどギルドに戻った私たちがリラから告げられた内容に驚く事になるのだが、それはもう少し後の話だ。




