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キサエルとレギオン旅立ちの日  作者: けろよん
ノースと不思議なダンジョン

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8/18

ダンジョンを進む

 ダンジョンは真っ直ぐに伸びている。分かれ道は無く、ただ一本道だった。揺れる松明の炎に照らされた道を四人は足早に歩いていく。時折90度に折れ曲がった角を曲がる。

 エイリスは先頭に立ってどんどん先へ進んでいく。ノースとゲトーはその後をついていく。ゲトーは最後尾で黙ってついてくる呪術師の存在も気にしていたが、ノースはエイリスの背中しか見ていなかった。

 ノースはだんだんとただダンジョンを進むだけの沈黙の時間に耐えられなくなってきた。思い切って先頭を進む少女の背中に呼びかけた。


「あの」

「なんです? 何かこのダンジョンのことで気づいたことでもありましたか?」


 エイリスが足を止めて振り返る。進行を止めるつもりまでは無かったノースは多少面喰ったが、思い切って話をすることにした。


「エイリスさんはここへ来る前は何をされていたんですか?」


 軽い世間話のつもりだった。が、その言葉を聞いて、親しげだった相手の顔は不機嫌になった。


「関係のない話は止めなさい。先を急ぎますよ」


 さっさと踵を返して先へ進んでしまう。

 ノースは気落ちして肩を落としてしまった。


「気を落とすなよ、ノース。まだまだこれからだぜ」

「わたしは別に気を落としてなんてない……」


 それでも気分は態度に現れてしまう。ついていきながらも、とぼとぼとした足取りで進んでしまう。

 しばらく歩いたところでエイリスが立ち止まった。


「モンスターです。止まりなさい」


 見ると、ダンジョンの床の上に一匹のつぶらな瞳をしたスライムが現れていた。


「戦わないと!」


 ノースは身構えようとするが、それよりも早くエイリスがその手に優雅な動作で扇を開き、それを素早く一振りして風を吹き起こした。


「ウインドブラスト!」


 風はスライムの周囲で渦となり、巻き込まれたスライムはもみくちゃに振り回されて壁に叩き付けられてつぶれて消えた。


「先を急ぎますわよ」


 エイリスはさっさと扇を閉じて歩いていく。


「あ……はい!」


 ノースも慌ててその後を追いかけていった。


 それからも何度かモンスターが現れたが、エイリスはその度にばったばったと一人で速攻でやっつけていった。

 ノースはだんだんと自己嫌悪に陥ってきていた。


「わたし、何しにここへ来たんだろう……」


 自分がここへ来たのは決して誰かの後をついて歩くためではなかったはずだ。これでは何も変わらない。ヤウグに好き勝手な真似を許している現状と何も。

 うつむく彼女を見て、今度はゲトーが先頭を歩くエイリスを呼びとめた。


「おい、エイリス!」

「なんですか?」


 外見は恐ろしい鳥人のモンスターの姿をしているゲトーにも全く恐れを見せず、エイリスはただ冷静な顔をしたまま振り返る。逆にゲトーの方が彼女の視線に押されようとするが、耐えて言い放つ。


「お前が強いのはよく分かった。だが、俺達にも何かをやらせてくれてもいいんじゃないのか?」

「強い?」


 その言葉を聞いてエイリスは自嘲気味に笑った。


「あなたには何も分かってないんですのね。強い者が何をしにここへ訪れると?」

「え……?」


 ゲトーは言葉を飲み込んでしまう。エイリスの瞳は冷静だったが、そこには確かにノースも知る感情があった。


「わたしには力が必要なんです。あなた、わたしが元の世界で何をしていたのかと聞きましたわね?」

「あ、はい」


 ノースはいきなり話を振られてきょとんとして答えてしまった。エイリスは話し始めた。


「このわたし、地底帝国六魔将の一人エイリスは地上を侵攻するために密かに地上に建造した前線基地の長をしておりましたの。しかし、力足らずで攻め落とされてしまってね。このまま手をこまねいて待っていては後任で小生意気なサトラにわたしの地位も名誉も持っていかれてしまう。そんな時この楽々レベルアップのダンジョンのちらしを見たのです」

「俺と同じやつをか」


 ゲトーがそのちらしを見せる。エイリスはそれをちらっと見て答えた。


「そうですね。受付の地図は違うようですが。正直うさんくさいとは思ったのです。仲間もみんなそんな都合のいい話があるわけがないとすぐに気にしなくなりましたが、わたしはせっかくだから行ってみようかなと思ったのです。他にすぐに打てる有効な手も無かったですしね」

「エイリスさんにも誰か勝ちたい人がいるんですか?」


 ノースが訊く。エイリスはうなずいた。

 

「まあね。ただ、あまりわたしが誰かに負けたとか勝ちたがっているとか余計なことは吹聴しないでください。変な噂が立つと恥ずかしいですからね」

「そっか」


 ノースは冷たい他人だと思っていた彼女に親近感が湧くのを感じていた。彼女もまた勝ちたい相手がいて力を付けたくてここへ来ているのだ。


「さあ、行きますよ。一刻も早くレベルアップをしてサトラの出鼻と敵の連中をくじいてやらなければ」

「エイリスさん!」

「何です?」


 さっさと足を進めようとする彼女を呼び止める。エイリスは律儀にも立ち止まって話を聞いてくれる。


「これからはわたしも戦います。二人で戦った方がきっと早くレベルアップ出来ますよ!」


 弾む声で提案するノースをエイリスは計るように見る。そして、扇を口元に当てて答えた。


「そうですね。敵は弱いですし、ここで他の者の戦いを見ておくのも悪くはないかもしれません。ただし、無理をして足手まといにはならないでください。わたし達の目的はあくまで敵を倒すことではなく、最奥にある秘宝を手にすることなのですから」

「はい!」


 元気に返事をするノースをエイリスは口元に笑みを浮かべて見つめ、そして歩みを再開した。

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