戦いの決着
武器を収めたヤウグを見て、ノースは戦いが終わったと思った。ノースの知る限りにおいてあのギガントアックスはヤウグの最大の技だったはずだからだ。
だが、続く彼女の冷徹な言葉を聞いて、ノースはそれが誤りであると悟った。
「本当に・・・・・・殺すつもりでやってもいいのね?」
「はい。今度は少しの本気ではなく、全ての本気を。あなたの全部を見せてください」
「お見通しってわけか。分かった。これからわたしはあんたを全力で殺すわ。死んでも恨まないでよね。ノースさん!!」
「はい!!」
いきなり話を振られて、ノースはびっくりして姿勢を正して返事をした。
「わたしがこいつを殺しても仕方なかったんだって、みんなに説明する証人になってよね」
「そ・・・・・・そんな・・・・・・」
そのあんまりな言葉にノースはただあわあわと困惑するしかなかった。
「大丈夫ですよ。ノースは分かってます。それにわたしも死にませんから」
「たいした自信だね。じゃあ、やるか」
そして、ヤウグは静かに腰を落とし、拳を構えた。その瞳孔が獲物をしとめる野獣のように見開かれる。
「わたしの一番の武器はこの拳! 今までこれに砕けなかったものはない!」
「わたしのマテリアルシールドは全ての攻撃を防ぎます」
一瞬の静寂。そして、ヤウグの踏み込みが周囲に爆発となって轟いた。
「死ねえええええええ!!」
ヤウグの必殺と信じる拳がシールドと激突する。
だが、その全てを粉砕するはずの拳を前に、キサエルのシールドはまるで揺らぐということすらしない。
力を、もっと力をとヤウグは願う。だが、立ちはだかるその壁はまるで微動だにしない。
圧倒的なその存在を前に、ヤウグの顔が苦しげに歪む。
「こんな・・・・・・こんなことが・・・・・・くっ!」
腕に激痛が走る。これ以上は拳が耐えられない。
腕を犠牲にしてでもこの場を押し切るか、それとも退くか。ヤウグの判断は一瞬だった。
こんな戦いに腕をかけるほどの意味なんてない。
どこかで感じていたそんな思いが、ヤウグに拳を退かせていた。
その耳にキサエルの声が届く。
「退がりましたね」
その言葉はヤウグの全身を冷たい衝撃となって走り抜け、彼女の体を硬直させてしまった。
ヤウグを見つめるキサエルの表情は最初から変わらない優しげなものだった。
だが、変わらないからこそ、全ての力を出し尽くして退いてしまったヤウグの目にはどうしようもない恐怖として映ってしまった。
今まで戦いの中で動かされもしなかったキサエルの右手がゆっくりと持ち上げられていく。
「では、今度はこちらからあなたを殺すつもりでいきますね。全力を見せてくれたお返しというやつです」
「ひっ、ま・・・・・・待って・・・・・・」
圧倒的な強者の前では、弱者はただ震え、助けを乞うことしか出来ない。それが自分の力だけを信じて進んできたヤウグの今の姿だった。
今まで微動だにも出来なかったシールドが震え、その色を桃色から灰色へと変えていく。キサエルの瞳はあくまでも優しげにヤウグを見る。
「わたしのマテリアルシールドは全ての攻撃を防ぎ吸収する無敵の盾。そしてこのリフレクターはその吸収した全ての攻撃力を相手へ返します」
「そ・・・・・・それって・・・・・・」
おびえて離れようとして足をもつれさせて倒れこむヤウグに、キサエルは優しく微笑みかけた。
「あなたの攻撃力は素晴らしかったです。きっと良い威力が期待できると思います。では死になさい。マテリアルリフレクター!!」
「ひゃあああああ!」
その攻撃を前に、ヤウグは頭を抱えて、地面に伏せることしか出来なかった。
凄まじい攻撃力を持った強いエネルギーの波がヤウグの頭上を越えていき、天へと昇って、その先にあった一つの星を爆発の輝きの渦へと包み込んでいった。
「なかなか良い光ですが、カオスギャラクシアン様にご報告するほどのものではありませんね」
キサエルは天空に輝く光を見つめ、地上でうずくまって震えている少女へと目を下ろす。そして、車椅子の車輪を回して近づいていった。
「勝負はわたしの勝ちでいいですね」
「は・・・・・・はい。どうかお許しください、キサエル様」
「そうおびえなくてもいいですよ。勝負はもう終わったのですから」
キサエルは震えるヤウグの頭を優しくなでてやった。その暖かさを感じる手に、ヤウグは少し緊張を和らげて顔を上げた。
その泣き顔を見て、キサエルはにっこりと微笑んだ。
「では、勝者としてあなたに一つ命令をしましょうか」
「はい」
「あなたをわたしの妹にします。これからはわたしのことをお姉様と呼んでください」
「え・・・・・・? キサエル様・・・・・・?」
「違います。お姉様です」
「お・・・・・・お姉様・・・・・・?」
「そうです。わたしはあなたのお姉様です」
「お姉様!」
ヤウグは瞳を輝かせてキサエルの膝下にすがりついた。
機嫌の良さそうな猫のようになったその少女の頭をキサエルは優しくなでまわしてやった。
そうして、ヤウグはキサエルの妹になった。
「・・・・・・って、どうしてですか? どうしてこんな奴を!? キサエル様にはもっと真面目でふさわしい子がいると思います!」
そう不満を爆発させたのは戦いが終わったとみて駆け寄ってきたノースだった。キサエルは笑って振り返る。
「だって、かわいいじゃないですか。それにどことなくわたしに似てますし、わたしは一目見た時からこの子を妹に欲しいと思ってましたよ」
「そんな・・・・・・そんな・・・・・・キサエル様ーーー!」
静かな荒野の星にノースの叫びが木霊した。




