無敵の盾に挑む少女
「あらゆる攻撃を・・・・・・防ぐ?」
ヤウグは警戒と緊張に身構えながら、キサエルの周囲に展開されるその半透明の桃色の壁を見つめた。キサエルは車椅子に座ったまま相変わらずののんびりとした緊張感のない声で答える。
「そうです。わたしのマテリアルシールドは全ての攻撃を防ぐ無敵のバリアーなんです」
「それはわたしの攻撃も、という意味だと受け取っていいのかしら?」
「もちろんそうです」
「じゃあ、わたしがそれを破ったらわたしの勝ちってことでいいよね?」
「いいですよ」
「分かった・・・・・・砕け散れえええええええ!!」
ヤウグはただ力任せに踏み込み、斧をシールドに叩きつける。一発だけでは終わらず、手首を返し腕を振り上げて、何発も何発も繰り返して叩き込む。
だが、その壁は微動だに揺るがない。
「なるほど、正面からは無理か。なら!」
ヤウグは後方へ大きく飛び下がり距離をとる。再び加速して向かっていくその体が、途中で開いた黒い穴の中へと消えていく。
ディメンションポータル。次元の穴を開き短距離のワープを行うヤウグの得意技だ。
直後、キサエルの頭上に出現したヤウグはそこから加速した勢いをそのままに力任せに斧でシールドを叩いた。だが、それはびくともしない。
「くっ!」
同様の行為を繰り返し、ヤウグは全方位からの攻撃を行っていく。
だが、そのシールドは破れるどころか、衝撃に揺らぐことすらしなかった。
ヤウグは攻撃の手を止め、キサエルの正面に着地した。
「なるほど。言うだけのことはあるようね」
「優しいんですね」
「え・・・・・・?」
突然のその言葉にヤウグはきょとんとした目をしてキサエルを見つめてしまう。
「わたしを殺さないように手加減してくれてるのが、シールドを通して伝わってきます。でも、そんな覚悟ではわたしのシールドを破ることは出来ませんよ」
「殺す気でやれってこと?」
「あなたの本気を見たいんです」
「分かった。それがお望みなら少し本気を出すわ」
「少しですか・・・・・・」
ヤウグの気配が変わった。獲物を狙う目でキサエルを睨みつけ、上空へ飛んだ。
「キサエル様!」
ノースが叫ぶ。ヤウグのやろうとしていることが分かったからだ。心配するノースにキサエルはただ穏やかに答えた。
「大丈夫ですよ。あなたは離れててください」
「は・・・・・・はい」
そう言われては、ノースにはただ下がって見ていることしか出来なかった。
上空に飛んだヤウグはそこで斧をまっすぐ頭上に振りかぶった。
ヤウグの体から黒い闘気が立ち上り、それが斧を黒く包み込んでいき、その大きさを膨れ上がらせていく。
そして、その斧はノースが離れた場所から見上げただけでも畏怖を感じるような巨大な斧と化した。
ヤウグは空に体を浮かべながら、地上で変わらない表情で自分を見上げている桃色のバリアに包まれた少女の姿を見下ろす。
ひと呼吸して覚悟を決めた後、ヤウグはその斧とともに空から降りてきた。
「ギガントアックス!! 潰れろおおおおお!!!」
落下のスピードも合わせてその巨大な斧をただ真っ直ぐにシールドに叩きつける。
シールドの範囲だけに収まらなかったその落下した巨大なエネルギーが、周囲に風を巻き起こし、大地に亀裂を起こしていく。
「ちょっと、ヤウグ! やりすぎよー!」
離れた場所で強い風にあおられる髪とスカートを手で抑えながら、ノースは抗議の悲鳴を上げた。
せめぎ合いの末に砕けたのは、ヤウグの斧をまとっていた闘気の方だった。
元の大きさとなった斧を手にし、ヤウグは身を翻して着地した。
「なるほど。その盾が頑丈なのはよく分かったわ。仕方ないか・・・・・・」
そして、ヤウグは小さい次元穴を作り、そこに斧をしまった。




