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キサエルとレギオン旅立ちの日  作者: けろよん
送りと出迎え

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2/18

キサエルとレギオン旅立ちの日

 地球から遠く離れた星にある屋敷の部屋の中で、少女キサエルは宇宙の果てにいる混沌の星獣カオスギャラクシアンからのテレパシーを受け取っていた。


《余の配下の軍団レギオンをそちらへ送ろう。お前の手足として好きに使い、この宇宙にあって余に疑問を抱かせる何かの光を調べてくるのだ》


 そう指示を受けて交信を終える。

 キサエルは車椅子に座ったままそっと目を閉じ、彼が言っていた光について考えてみる。

 星が爆発する時の大きな光、手元で灯す小さな光、虫が発する動く光、他のいろいろな光・・・・・・

 だが、どのような光を想像しようと、それが宇宙を広く見据える混沌の星獣カオスギャラクシアンほどの者の興味をひき、足を止めさせるほどのものがあるとは思えなかった。

 やがて、屋敷の外が騒がしくなってきた。彼が送ると言っていた配下の軍団レギオンが到着したのだろう。

 車椅子の車輪を回してバルコニーへ出て外を見て、キサエルはその数にほんの少しばかり驚いた。

 屋敷の前に着陸した多くの宇宙船と、そこから降りてきて整列したレギオンと呼ばれる軍団の者達。

 それはその光の調査にカオスギャラクシアンはここまで本気なのだと伺わせるものだった。

 キサエルはみんなを早く出迎えるために、日頃はほとんど使うことのない飛翔の能力を使って、座っている車椅子ごと屋敷の前へと舞い降りた。

 その彼女の姿を前にレギオンのみんながひざまづいて控えた。


「みなさん、よく来てくださいました。心から歓迎します」


 キサエルが挨拶をする。その挨拶に先頭の男が答えた。


「このレギオンを取りまとめております将軍デュナイと申します。何なりとお申し付けください」


 筋骨のたくましい一目で戦場慣れしていると思われる隻眼の男だった。

 その男を前にして外見は場違いを感じるほどに可憐な美少女のキサエルは少し考えた。


「そうですね・・・・・・まずはみんなに自己紹介をしてもらいましょうか」

「自己紹介ですか」

「そうです。自己紹介です。みんなのことを知っておかないと手足として動かすにも不便ですから。やりたい人から前に出てきてください」

「はい!」


 手はすぐに上がった。全身重そうな鎧を着込み、大きな剣を背負った人物だった。その声から兜で顔が隠れながらもまだ若い者であろうと推測できる。

 その人物は鎧と剣の重さに歩きにくそうにしながらも、前まで出てきて跪いた。

 兜をとってその人物の顔が顕になる。灰色の髪が印象的なまだ幼いあどけなさを残す少女だった。


「ノースと申します。氷の技を得意としております。ぜひわたしにこの調査への一番乗りをお命じください」

「一番乗りだとう・・・・・・」

「我らを出し抜くつもりか・・・・・・」

「生意気な・・・・・・」


 周囲が少しざわざわとなる。


「あ、ちょっと待ってください」


 その周囲のざわめきを、キサエルはちょっと手を上げて言っただけで止めてしまった。

 彼らは主であるカオスギャラクシアンからキサエルの命令を聞くように言われてきたのだから、その言うことに素直に従うのは彼らにとっては当然の対応といえた。

 キサエルは言う。


「誰か書くものを持っていませんか? メモを取りたいので」

「これをお使いください」


 ノースはすぐにペンとノートを取り出してきた。日頃から使い込んでいるのであろうそれをキサエルはありがたく受け取った。


「ありがとう。あなたは気が利くんですね」

「これぐらいは当然です」


 ノースに悪気は無かったのだろうが、その発言は他の者は気が利かないという侮辱にもとれて聞こえた。

 すぐそばで将軍がノースの行き過ぎた自信の発言を咎めるかのように横目で視線を送っていたが、ノースはその視線には全く気がついていなかった。

 キサエルはそちらへにっこりと微笑んで話しかけた。


「いい部下を持ってるんですね、将軍」

「は・・・・・・はい! まだまだ若輩者で至らぬ部分も多々ありますが、やる気だけはあるものと思っております」

「そうですか・・・・・・」


 キサエルはノートをぱらぱらとめくっている。


「へえ、日記まで書いてるんですか。なかなか面白いです」


 その言葉にノースの顔色が変わった。


「な・・・・・・何を読んでるんですか! 使わないなら返して、ひうっ!」


 彼女のその抗議の言葉はすぐに止められた。突然の地響きによって。

 その地響きは大きな斧で地面を叩いたことによって起こされたものだった。みんなの視線がそちらへ集中する。

 地面についた斧に手をそえ、一人の影が立ち上がる。


「くだらないわね。わたし達はこんな茶番をするためにここまで来たわけではないのよ」


 立ち上がってそう声を発したのは、透き通るような金色の長い髪と全身を覆う黒い服が印象的な小柄な少女だった。その手元には彼女の体格とは明らかに不釣り合いと思えるほどの大きな斧が立てかけられている。


「ヤウグ・・・・・・! お前、失礼なことを・・・・・・!」


 将軍が小声で注意しようとするが、ヤウグと呼ばれた少女もキサエルもその言葉に耳を傾けてはいなかった。

 ヤウグの一匹狼を思わせる視線がキサエルをまっすぐに見る。キサエルもその視線をまっすぐに見返し、そしてにっこりと微笑んだ。

 ヤウグは舌打ちをして目をそらせた。


「光を見つけてくればいいんでしょ? ならさっさとそこら辺の星にいる奴らを片っ端から吹っ飛ばして、在り処を吐かせればいいだけでしょ」

「そうですね。いい考えです」

「な・・・・・・」


 自分の意見が受け入れられるとは思っていなかったのだろう。ヤウグはきょとんとした顔をしてキサエルを見つめかえし、そしてそれを恥じたかのように表情を歪めて身をひるがえした。


「小型宇宙艇を一機もらっていくわ。わたしは先に行かせてもらう」


 ヤウグの姿が消える。直後、一つの宇宙船から一機の小型艇が飛び立っていった。


「あの子はどんな子なんですか?」


 それを見送り、キサエルはあわあわと声を失っている将軍ではなく、ノースに訊いた。


「ヤウグレステイス。力による物理攻撃とディメンションポータルという次元穴を開いての短距離ワープを得意としています。実力はなかなかですが性格が不真面目でわたしはあいつのことが・・・・・・嫌いです。キサエル様も気にされる必要はないと思います」

「申し訳ありません! 我々の統率された軍団にあのような者がいることを恥と思います!」


 ノースの言葉に続いて将軍が謝罪する。キサエルは別に怒ってはいなかった。落ち着いた態度でメモを取る。 


「そうですか。メモメモ」

「って、わたしのノートにあんな奴のことを書かないでくださいー!」

「あはは。さて」


 ノースの抗議を聞き流し、キサエルは書いていたノートを閉じて、周囲を見渡した。


「そうはいっても、これだけの人数に一度に自己紹介させるのも大変ですね。デュナイ将軍」

「はっ!」

「宇宙中にみんなを送り込んで、そこら辺にいる人達を片っ端から吹っ飛ばして、光の在り処を吐かせてきてください。自己紹介は後で一人づつ訪問して聞くことにします」

「りょ、了解しました!」


 その命令がヤウグの言ったことと同じであることに僅かに戸惑いを見せながらも、将軍は部下を引き連れて立ち去ろうとする。

 ノースは慌てて立ち上がった。


「待ってください、キサエル様! ヤウグの言うことなんて間に受けるんですか!?」

「では、他に何か魅力的な提案があるんですか?」

「そ・・・・・・それは・・・・・・」

「無いならノースはわたしとここに残ってください。あなたにはみんなとは別にやって欲しいことがあります」

「は・・・・・・? はい・・・・・・」


 釈然としないものを感じながら、ノースは言われた通りにその場に残った。

 レギオンの宇宙船が飛び立っていく。


「ついてきてください」


 キサエルは車椅子の車輪を回し、屋敷へ戻っていく。


「あ、お押しします」

「ありがとうございます」


 ノースは鎧をがちゃがちゃと鳴らし、そこへ駆け寄っていった。



 薄暗い人気のない廊下を、キサエルの指示に従って車椅子を押しながらノースは進んでいく。

 目の前の椅子に座る少女の金色の髪を見下ろして、ノースは思い切って話しかけた。


「あの・・・・・・ずっと気になってたんですけど、聞いてもいいでしょうか?」

「何でも聞いてください」

「この屋敷・・・・・・というか、この星って誰も住んでませんよね? みんなどこへ行ったんですか?」

「みんな死にましたよ」

「え」


 あまりにもあっさりと答えられたので、ノースは一瞬、自分が何かを聞き間違えたのかと思ってしまった。

 戸惑いながらも問い返す。


「それってどういう意味なんでしょうか?」

「そのままの意味ですよ。みんな死んだんです。わたしは無敵のバリアーが使えたので大丈夫でした」

「そ・・・・・・そうなんですか」

「見たいですか? わたしのバリアー」

「い・・・・・・いえ!」

「そうですか。残念です」

「あの・・・・・・ごめんなさい」

「いいんですよ。そのうち見せる機会もあると思います」

「・・・・・・」


 ノースは別にバリアーのことを謝罪したつもりではなかった。

 ただ、このキサエルという少女に何か得体の知れないものを感じていた。



「つきました。ここです」


 しばらく進んでキサエルが示したそこは屋敷の一室だった。入ってみるとそこは壁際に大きなタンスやクローゼットがたくさん並んでいる静かな部屋だった。

 キサエルはその中の一つに近づいていった。


「あの、それでわたしにやって欲しいことって」

「これです」


 キサエルはタンスを開けた。そこにはたくさんの質素でありながらも、白いひらひらもたくさん付いた服があった。


「手に持って、自分の体の前に当ててください」

「はい」 


 ノースは疑問に思いながらも言われた通りに、その服を手にとって自分の体の前に当てて見せた。


「これでいいですか?」

「思った通りです。あなたにはこのメイド服がよく似合います」

「はあ・・・・・・ありがとうございます」

「では、その鎧を脱いでこの服に着替えてください」

「へ・・・・・・」


 ノースはしばらく沈黙する。そして我に返って抗議した。


「あの、お忘れなら言いますけど、わたしはカオスギャラクシアン様のレギオンの一員なんですよ。これから戦いもしなくてはいけないんです。このような服が戦闘の役に立つとは思えないんですけど」

「ノースは勘違いしています。その鎧で満足に動くことが出来ますか?」

「それは動きにくいですけど、戦いに行くんですからこれぐらいの装備は必要だと思います」

「分かってませんね。その鎧はノースの才能を大きく殺しています。ノースに似合うのはこっちのメイド服です。これを着ることでノースのレベルは飛躍的にアップするでしょう」

「そ・・・・・・そうなんですか?」


 ノースは思わず目をぱちくりとさせ、まだ半信半疑ながらも、手に持ったメイド服をまじまじと見つめた。

 そして、決心を固めた。


「わ、分かりました。そこまで言うなら着てみます」

「わたしは外で待ってますね。着替えが終わったら呼んでください」

「はい・・・・・・」


 そして、しばらく経った頃。


「あの、着替えが終わりました・・・・・・」


 ノースは扉からおずおずと顔を出して、廊下で待っていたキサエルに声をかけた。


「待ってましたよ。見せてください」

「はい・・・・・・」


 ノースは恥ずかしそうにもじもじとしながらも、ゆっくりと出てきて後ろ手に扉を閉めた。

 重そうな鎧を着ていた女戦士は、可愛らしいメイド服を着た少女にジョブチェンジしていた。

 その姿を見てキサエルはにっこりと微笑んでぽんと手のひらを打った。


「似合ってますよ、ノース」

「そうですか? ありがとうございます」


 ノースはもじもじとメイド服のスカートをいじりながら、上目遣いにキサエルを見た。


「あの、本当にこんな服が役に立つんですか? なんか体がフワフワして落ち着かないんですけど」

「それはあなたがまだ慣れていないからです。あなたがその服に慣れ、堂々と人前に立てるようになった時、あなたは自分の中に隠された真の力を発揮できるでしょう」

「真の力・・・・・・わたしにそんなものが・・・・・・」

「頑張りなさい、ノース」

「は・・・・・・はい! ありがとうございます、キサエル様!」

「では、次に行きましょう。椅子を押してください」

「はい!」



 次にキサエルが案内したのは屋敷の地下の大きな部屋だった。

 暗くて先に何があるのか、ノースの目にはぼんやりとしか見ることが出来なかった。


「今、電気を点けますね」


 そう言ってキサエルが空中に手をかざすと、そこに半透明のパネルが広がり、彼女はそこのボタンの一つを押した。

 広い部屋に明かりが灯っていく。そこにある物を見て、ノースは息を呑んだ。


「これは・・・・・・」


 そこにあったのは白い巨大な宇宙船だった。キサエルが説明を始める。


「わたしの星の人達は何も黙って滅びを待っていたわけではありませんでした。この星を脱出するための船を造っていたんです。残念ながら間に合いませんでしたが・・・・・・わたしはこれを飛ばそうと思います」

「え・・・・・・でも、今間に合わなかったって・・・・・・」

「大丈夫です。人がいなくなってもあれから機械が全部やってくれました。この船はもうわたしの指示一つでいつでも飛ばすことが出来ます。わたしがこれを飛ばしたいと思う理由、分かってくれますよね?」

「はい」


 ノースには分かる気がした。

 宇宙に出るだけなら、ノース達レギオンの乗ってきた船を使えばよかったのだ。これを飛ばすのはきっと、キサエルなりのこの星で亡くなった人達のことを思いやった手向けなのだろうと。

 だが、彼女の答えはその思いとは違っていた。


「せっかく完成したんですから飛ばしてみたいと思いますよね。使う目的が出来て嬉しいです」


 まるで面白い玩具を前にした子供のように。本当に嬉しそうに無邪気に笑ってそう言った。

 その言葉にノースは思わず絶句してしまった。


「キサエル様は・・・・・・」


 言いにくいことだったが、言うしかないと思った。


「キサエル様はこの星の人達のことをどう・・・・・・思っていたんですか?」

「どう、とは?」


 ノースを見上げるその瞳が本当に分からないことを聞いたと語っているのがありありと見えて、ノースはそれ以上その話題を続けることを止めた。

 目の前の白い宇宙船に目を向ける。


「うまく飛ぶといいですね」

「飛びますよ。そのために造ったんですから」


 その船を見るキサエルの瞳はただ純粋な喜びにきらきらと輝いていた。

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