それぞれの帰還
星の形が変わった。
変わらない宇宙を背景にしたその星の光景をノースは飛び立った宇宙船の窓から見つめていた。
あの星でノースが見たキサエルの姿は立派だった。あんな強敵を前にして全く動じることもなく堂々としていた。
ノースは自分に与えられたメイド服を見て思い出す。
キサエルからいつか堂々と人前に立てるようになった時、自分の真の力を発揮出来ると言ってもらえたことを。
もしかしたらキサエルはそんな態度を見せようと危険な戦いを自ら買ってでたのかもしれない。ノースはそう思った。
だとしたら期待には答えないといけない。ノースはもう二度と自分は動じたりして惨めな姿をさらさないことを決意した。
キサエルは自分の部屋で一人で空中に浮かべた画面を見つめていた。その画面には録画したノースとゲトーが敵と戦う映像が映し出されている。
ゲトーが鉄人形に立ち向かい、ノースが狙われて殺されかけ、二人で敵の攻撃を弾いて反撃に向かっていく。キサエルの瞳は揺らがない。
たいして興味を持った感情も見せず、キサエルはその映像を止めた。
「楽々レベルアップした力、思ったほどたいした物ではありませんでしたね。次の戦いの折には、やはりやっちを呼んでおきますか」
そして、静かな指先の動きでそのファイルをゴミ箱へと捨てた。
サトラを元の世界に返し、クトロアフは腑に落ちない思いで宇宙を飛んでいた。
「人間の強さとはあんな物なのか」
確かに奴らは強かった。特にキサエルというものの力は神である自分をも軽く凌駕するものだった。だが、それだけだった。
強さだけなら人でなく獣やモンスターだっていい。自然現象だってもっと大きな力を発揮することが出来るだろう。そして、クトロアフの目指す神というものはそれらよりももっと強大に君臨する存在なのだ。人が持つ物があるならば神として捧げさせ奪うだけでいいはずだ。
そこでなぜ人の姿を見る必要があるのか。ミザリオルやリザラヴェストのような偉大な祖先の神々がなぜその営みに気を留めたのか。
理解出来なかった。だが、理解出来ないのは仕方がない。自分はまだそのような偉大な神ではないのだから。
「次は別の次元に行ってみるか」
次元の穴を開いてクトロアフは飛ぶ。場合によっては別の世界の神にあってもいいと思っていた。
自分の世界に帰ってきて、サトラは散々な気分で地底帝国の城の廊下を歩いていた。
まず勝手に連絡も取れない知らない場所に外出したことを怒られた。
地上を侵攻する作戦の指揮権を他に回されようとしていたところを何とかお願いして止めてもらった。
娯楽に経費は降りないとプレイステーション4を買った代金を全額自分で支払えと言われたのが一番困った。サトラは真っ青になって上に懇願した。必死に泣きついて何とか経費として認められた時にはもう日が暮れていた。困った可愛い後輩を見るような周囲の視線が痛かった。
「サトラ」
とぼとぼと廊下を歩いていると声を掛けられた。目を上げて見るとそこにいたのはエイリスだった。サトラはきまずい思いで目をそらした。
エイリスはそんなサトラの肩に手を置いて勝手に話を始めた。
「わたしは勘違いをしていましたわ。自分が役目を取られたことばかり気にして、あなたを嫌な奴だと決めつけていた。でも、同じ目標を持つ仲間なんですものね。辛いことがあったら何でも言ってください。先輩として手助けしますわ」
サトラは目を上げた。その瞳に涙が込み上げてきた。
優しい笑みを浮かべるエイリスの気持ちは暖かった。それが悔しかった。
「わたしに同情なんて……同情なんていらないのよーーーー!」
廊下を駆け出し、自分の部屋に飛び込む。
「こうなったらわたしが……わたしが地上の娯楽を遊んでやるーーー!」
だが、その隅にたくさん積み上げていたはずの箱はどこにも無かった。サトラは部屋から出て、近くの廊下を歩いていた二人の兵士に問いただした。
「あれならサトラ様が遊ばれないと仰られたので、兵士のみんなで配りましたよ」
「町民は喜んでいました。地上の娯楽を提供してくださるなんて、みんなサトラ様に感謝していましたよ」
サトラは自分の部屋に戻った。そして、床に伏せって泣いた。




