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キサエルとレギオン旅立ちの日  作者: けろよん
サトラ襲来

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17/18

混沌の剣 カオスブリンガー

 明確な殺意を持った十本の剣が凄まじい速度で飛来する。ノースとゲトーは無駄と察しつつもせめて防御の体勢を取った。瞬間、その視界に淡い光が広がり輝いていった。


 十体の剣士が二人に殺到してぶつかっていき、その後で静寂が戻って来た。

 興奮から我に返ったサトラは相手を殺してしまったのではないかと畏怖を抱いた。

 サトラとしてはエイリスと仲良くしていた相手をいたぶってやって、良い気分になって帰って土産話でもしてやれればそれで良かったのだ。

 だが、殺してしまったら全く事情が違ってくる。笑い話で済まなくなる。エイリスだって本気で自分を軽蔑するはずだった。

 サトラ自身の放った十体のソードダンサーが密集して壁になっていて、状況がどうなっているのか分からない。サトラは恐る恐る糸を引こうとした。

 だが、人形が離れるその前にそれは内側から何かに弾かれるように吹き飛ばされた。十体の人形はバラバラになって地面に転がっていった。


「なに!?」


 サトラは驚愕して見上げた。現れたのは桃色に薄く輝く球状の壁だった。それがノースとゲトーを剣の直撃から守っていた。そして、その中心に見知らぬ人間が一人増えていた。


「もういいですよ、二人とも。レベルアップした力は十分に見せてもらいました。あとはわたしがやります」


 車椅子に座って宙に浮かんでいた優し気な少女はバリアを解いて地に降りてきた。その少女を前にしてサトラは本能的な恐怖を抱いていた。


「なんなのあなたは。どこから湧いて出たのよ」

「船の装置でワープして来ました」

「ワープ?」

「そんな夢のある装置が現実にあると良いですね」


 サトラは相手の感情がよく読み取れなかった。初めての体験ではなかった。地底帝国でも強い実力者はそう簡単に心を読ませてくれないし、それを察知して反撃までしてくる。目の前の相手はまぎれもなく強い。サトラは緊張に気を引き締めた。

 自分達の戦場に現れた少女を見て、ノースとゲトーは慌てていた。


「キサエル様、危険です!」

「あいつの相手は俺達に任せてください!」

「わたしの言ったことが聞こえませんでしたか? わたしがやると言ったんですけど。わたしが、やるんです」


 そうまで釘を刺されてはノースとゲトーは引き下がるしかなかった。サトラはよく掴めない一人の代わりにその二人から情報を引き出すことにした。今の二人はキサエルのことを強くイメージしている。そこから情報を辿る。


「全ての攻撃を防ぐ無敵のバリアか。やっかいな能力を持っているのね」


 サトラの呟きにノースは驚き、キサエルはただにっこりと微笑んだ。


「よく知っているんですね」


 キサエルは車椅子に座っているだけですぐに何かを仕掛ける様子はない。他の二人も同様だ。サトラは気分を落ち着けて目の前の相手に集中することにした。


「この世界に絶対無敵の物なんてあるわけがない。あなたは知っているはずよ。それを打ち砕く武器があることを。さあ、あなたが恐れるそれを強くイメージして、わたしに示してみせなさい。マインドブレイカー!」

「ん?」


 サトラの発する不気味な波にノースとゲトーは再び不愉快な感覚を味わった。キサエルは不思議そうに首を傾げただけだった。

 サトラは見抜き、その武器を手に取った。それは青い炎をまとった大きな剣だった。ゲトーとノースはその武器を見たことがなかった。


「あの剣はなんだ?」

「キサエル様?」

「あれはカオスギャラクシアン様の与えてくださった剣、カオスブリンガーです。不思議ですね。あれはあの方に認められた物にしか与えられていないはずなんですが」


 キサエルの手に青い炎が吹き上がる。そして、彼女もまた同じ剣を手に取った。相手が剣を意識したことでサトラはその性質を読み取った。


「宇宙にある物を全て食らい尽くす混沌の炎か。これならそのふざけたバリアを打ち破れるのね。自分の武器が一番強いと確信しているなんて、あなたってたいそうな己惚れやさんなのね。その己惚れが自分の身を滅ぼすなんて、あなたイメージ出来る? 出来ないなら教えてあげるわ!」


 サトラは正面から突っ込んでいってその剣を振り下ろした。戦う気のない相手に無駄なことなど考える必要は何も無かった。

 キサエルはその攻撃をただ手だけを上げて剣で受け止めた。キサエルがバリアを使わなかったことにノースは絶望の悲鳴を上げかけた。


「キサエル様……!」


 ゲトーもノースと同じ気分だった。自分達の力が足りないばかりにこのような戦いを招いてしまった結果を悔やんでいた。手助けをしようにもキサエル自身にそれを強く止められてはどうしようもなかった。

 サトラが笑う。


「さあ、そろそろイメージ出来てきたんじゃない? 自分がどうやって敗北するのかが。それをわたしに教えてよ。現実に変えてあげるから」


 だが、滅びの剣がすぐ間近に迫っているというのにキサエルは全く動揺していなかった。それどころか笑みを崩してすらいなかった。

 サトラは寒気を覚えた。相手の考えていることが分からなかった。武器が同じなら勢いと体勢で有利な自分の方が勝てるはずなのに、車椅子に座ってただ片手で剣を上げているだけの優美なお嬢様の顔色を変えさせることすら出来ない。それどころかサトラの方が逆に弾き返されてしまった。


「なぜ!? わたしの方が有利なはずなのに」

「あなたは勘違いをしているんです」

「勘違い?」

「あなたはこれをわたしの武器だと言いましたけど、間違いです。これはカオスギャラクシアン様のお力なんです」

「カオス……ギャラクシアン……?」

「あなたにはイメージ出来ますか? あの方のお力が」

「それは……」

「では、見せてあげましょう」


 サトラは一瞬キサエルが立ち上がったのかと思った。だが、そうではなかった。車椅子を離れたキサエルの体は宙に浮かび上がり、そこで剣を構えた。青い炎が勢いを増し、剣の力が強くなっていく。

 サトラはその力の秘密を何とか読み取ろうとしたが、ぐんぐんと際限なく上昇していくそれに理解が追いつかなくなりパニックになってしまった。

 剣を振りかぶり、キサエルの瞳が標的を捉える。キサエルの瞳は変わらず優しい物だったが、サトラにとっては恐怖でしかなかった。

 同じはずの武器を向けようとするがそんな物はもうただの玩具でしかなくなっていた。サトラは自分が青い炎に焼き尽くされるイメージに囚われた。他にはもう何も考えることが出来なかった。


「行きますよ。これがカオスギャラクシアン様のお力です。カオスインフェルノ!」


 剣がごく簡単に軽く振られ、青い炎が放たれる。それはただの炎ではなかった。凄まじい威力を持っている。サトラの想像を超えて理解を拒むほどの。


「潮時か」


 その時、今まで上空で黙って見物を決め込んでいたクトロアフが動いた。地上へと杖を向け、サトラの足元に次元の門を開き、哀れに震える彼女の体をそこへ落とした。

 標的を失った青い混沌の炎はなおも突き進み、星の半分近くを食らい尽くし飲み込んでいった。

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