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キサエルとレギオン旅立ちの日  作者: けろよん
サトラ襲来

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16/18

思考の迷い道

 ノースは初めて死というものを覚悟した。あのクトロアフとの戦いでもここまでの覚悟はしなかったように思う。

 ぎゅっと目をつぶって手を握り締め、すぐに来るだろう死を受け入れようとする。

 だが、それは来なかった。

 恐々と目を開けると、命を奪いに来たはずの鉄の剣は何故か喉元のすぐ間近で止まっていた。何かで防がれたわけでも、ゲトーが止めたわけでもない。

 ゲトーもまた呆然とノースの方を見ていた。なぜ敵が動きを止めたのか彼もまた理解が出来なかった。

 辺りが静寂の沈黙に包まれる中で、サトラは両手を引いた。鉄人形の剣士は二体とも彼女の元へと戻っていった。

 敵の狙いが分からないが、ゲトーはひとまずノースの元へと駆け寄ることにした。


「ノース、大丈夫か?」

「ゲトー、わたし死ぬかと思った……死ぬかと思ったの」


 呆然と座り込んでしまったノースの目から涙がこぼれた。それはもう抑えきれずどんどん流れてきた。ゲトーの初めて見たノースの姿だった。

 静かな二人の間にサトラの高笑いが木霊した。


「あっはっはっ、ああ、何て惨めで滑稽な感情なの。気持ち良すぎてクラクラしちゃう。本当に死ぬと思った? 思ったの? 言ったじゃない。当てる気なんてない、避ける必要なんてないって。あなたって本当に人の話を聞かない駄目な子ね。だから何も出来ないんだわ!」


 サトラの挑発にノースは顔を落とした。何も言い返すことが出来なかった。彼女の言うとおりだった。

 レベルアップして強くなった気でいてもやはり駄目なのだ。敵を倒すことも出来ず、キサエルの期待に答えることも出来ない。

 ゲトーは怒りに拳を握りしめて立ち上がった。笑っているサトラを睨み付ける。サトラは高笑いを止めて嫌らしい笑みを浮かべて見つめてきた。


「あれ? 怒った? 怒ったの? だったらもっといい気分にさせてあげる」

「ほざけー!」


 ゲトーは飛び出し、サトラはそれを二体のソードダンサーで迎え撃った。

 怒りで繰り出すゲトーの拳を鉄人形は避ける。鉄人形の突き出してくる剣をゲトーも避けた。戦いはお互いに一発も当てられない膠着状態に陥っていった。

 それはサトラの望んだ光景だった。サトラは指先で人形を操りながらその景色を見つめていた。


「いいわ。その調子よ。これは戦いなんかじゃない。ダンスなんだから。もっと激しく感情を高ぶらせ、それをわたしに感じさせて!」


 ゲトーはすでにサトラの術中に囚われていた。そのことに怒りで血が上ったゲトーは気が付いていなかった。いつまでもサトラの操る二体の人形の間で楽しいダンスを繰り返していく。


 ノースもそれを見ていた。ゲトーの戦う姿を見て、自分は何をやっているんだろうと思った。ダンジョンでともに戦った仲間のことを思い出す。振り返るとエイリスとミレージアが見守ってくれているように感じられた。

 戦わなければいけない。


「いつか再会した時に良い話が出来るように頑張ろうって約束したから!」


 ノースは立ち上がって氷の槍を構えた。



 いつ果てるともなく続けられると思われたダンスをノースの放ったブリザードが破っていく。駆け抜ける冷気がゲトーと二体のソードダンサーに吹き付けられていく。

 ゲトーは慌ててその場から飛び下がり、ノースのそばへと降り立った。


「お前! また俺を巻き添えかよ!」


 ゲトーは前にダンジョンでも同じようなことがあったことを思い出して言った。ノースは敵から目を離さなかった。


「手加減はしたわ。だから敵も倒せてない!」


 サトラは不愉快を顔にして手の糸を動かした。二体の人形にかかっていた氷はいともあっさりと剥がれ落ちていった。ゲトーはノースの方を見た。


「ノース、お前大丈夫なのか」

「なんか泣いたらすっきりしちゃった」

「そうか、だったらこれからはかっこいいところを見せないとな」

「うん!」


 ノースはもう迷っていなかった。戦う決意を固めていた。サトラは面白くなかった。


「なんて不愉快な感情なの。こんな気分になるためにわたしはここへ来たわけではないのよ! 恐怖させなさい! 行け、ソードダンサー!」


 向かってきた二体の人形をノースは氷の槍でゲトーは腕でそれぞれに打ち返した。

 今までのことで相手を甘く見ていたサトラはその力強い攻撃に一瞬怯みを見せたが、すぐに顔を引き締めて跳ね返されてきた二体の人形の糸を切り離して空に飛んで避けた。


「任せろ!」


 ゲトーは後を追って飛ぶ。間近に迫り振るう腕をサトラは宙返りして避け、さらにその腕を踏み台にして地面へと跳んで着地した。

 そこにノースが合わせてブリザードを放った。当たると思われたその攻撃をサトラは踊るような優雅な動作で回避した。


「くそ! なんてすばしっこい奴なんだ!」

「攻撃が当たらない!」


 驚く二人の様子にサトラは気分を良くして人差し指を唇に当ててウインクした。


「当たらないのは当然のことよ。わたしには全部見えているんだから。わたしの目からは誰も逃げられない。良い気になっても無駄だってことを、これからよおく教えてあげる!」


 周囲の空気が変わった。

 ゲトーは危険を察知した。


「気を付けろ、ノース! 何か仕掛けて来るぞ!」

「分かってる!」


 ノースも相手の出方を見ようと身構えた。どんな攻撃が来ても対処してみせるつもりだった。サトラは怪しく笑った。


「防ごうとしても無駄よ。あんた達の考えることなんて、わたしにはみ~んなお見通しなんだから。さあ、あなた達が最も恐れるその物をわたしの前にさらけ出して見せなさい! マインドブレイカー!」


 サトラの元から一瞬の空気を揺らす波のような物が周囲に向かって放たれていった。

 ノースとゲトーの予想していたようなダメージは何も無かった。だが、何か得体の知れない物が体の中を通り抜けていくような嫌な感触があった。

 それが何なのか気になったが、サトラが手にした物を見たらそう呑気なことも考えていられなくなった。


「なるほど。あんた達は揃って同じ奴が怖いのね」

「あれはヤウグの武器!」

「何であいつがあれを持っているんだ」


 それはヤウグが好んで使っている大斧だった。ノースはその圧倒的な威力を思い出す。キサエルとの決闘でその斧を振るっていた姿などはまだ記憶に新しいところだった。

 サトラはにやりと笑った。


「それがあなたのイメージなのね。良い感じだわ。わたしがあなたのその恐怖を現実に変えてあげる!」

 

 大斧を手にしたサトラは大空高くジャンプした。ノースはまさかサトラにヤウグと同じことが出来るわけがないと思った。だが、拒否しようとした思いはすぐに現実の物となって現れた。


「ギガントアックス!!」


 サトラはその斧をさらに巨大化させて振り下ろしてきた。それはまさにノースの見ていたヤウグの攻撃その物だった。ノースは絶望の思いでそれを見上げた。あんな物を受け止められる手段が自分にあるわけがなかった。あれを食らって吹き飛ばされる姿までノースにはありありと想像出来てしまった。


「危ない! ノース!」


 飛びかかって来たゲトーがノースの体を突き飛ばした。地面に叩き付けられる斧が跳ね上げる石がゲトーの背を叩いていく。


「ゲトー、どうして?」

「ぼやっとしている場合じゃないぜ。かっこいいところを見せるんだろ」

「うん……」


 舞い上がる土煙の中からサトラが姿を現した。


「必死になって避けちゃって。殺さないって言ってるのに、分からない人達だわ。あんた達ってどこまでわたしを良い気分にさせてくれるのかしら」

「それはここまでだぜ。俺がお前を倒す!」


 ゲトーは飛びかかっていく。サトラは不気味に笑ったまま斧を構えた。


「分かっているでしょう? あなたの力は強くても、これには勝てないんだってことが」

「確かにヤウグなら俺の力でも簡単に跳ね返してしまうだろうな。だが、お前はヤウグじゃねえ!」

「フッ、だから無理なのよ! あなたも良いイメージしてるわ!」


 サトラは斧を振るってゲトーの攻撃を正面から打ち返してきた。

 それはまさにゲトーの思い描いたヤウグの攻撃その物だった。ゲトーは勢いよく弾き飛ばされるが何とか着地した。認めるしかなかった。相手がヤウグと同等の能力を持っていることを。


「あなた達にもう希望なんてない。もっと感じるでしょう? イメージ出来ちゃうでしょう? 最悪の事態ってやつを考えちまうでしょう?」

「わたしはもう迷わない! 勝つって決めたから!」

「強気に出ても無駄なことよ。誰だって強い奴の前では悪い結果というものを考えてしまうものなのよ」


 サトラはヤウグが使っているはずのその大斧を持ち上げて見せた。


「これが怖いでしょう? 強いって思うでしょう? あなた、これに自分が勝ってる姿なんてイメージ出来るの? 出来ないでしょ?」


 確かにサトラの言う通りだった。どう頑張っても自分はヤウグに負ける姿しか想像出来なかった。


「だから、あなたはわたしに屈するしかないのよ!」


 サトラが大斧を構えて突撃してくる。ノースの思い描いたそのままの姿で。あれを食らったら自分は防御することも出来ず吹き飛ばされるしかないだろう。その光景がありありと思い描けてしまう。だが……


 ノースは槍を振り上げた。そして、その斧の攻撃を防御した。体が沈みかけるが何とか耐えられる。いい気になって笑っていたサトラはその顔を驚きへと変えた。


「何を防げる気になっているのよ。もっと良いイメージをしなさいよ!」

「以前のわたしなら負けていた。でも、今のわたしはレベルアップをしている!」

「くっ」


 ノースは槍を跳ね上げ、斧を弾き返した。サトラはその勢いのまま後方へ飛ばされた。そこへゲトーが突撃した。


「そうだな。これはその成果を見せるための戦いだ!」


 ゲトーの拳をサトラは斧で防御した。


 サトラは歯噛みした。

 彼女のマインドブレイカーは相手の不安に思う気持ちを現実化する能力だ。その攻撃もその結果もそのイメージの通りになる。だが、今の相手は勝利のイメージしか抱いていなかった。

 その強いイメージに今度はサトラ自身が縛られ、能力を切って回避に出るのが遅れてしまった。ゲトーの拳がサトラの斧を吹っ飛ばす。


「くうっ!」


 すっぽ抜けて飛んでいった大斧は空中で四散して消えていった。後退したサトラはわずかに震える腕に顔をしかめた。


「一気に勝負をかけるぞ!」

「うん!」


 良い気になって近づいてくる二人をサトラは睨みつける。今の二人は最高に良い気分だった。サトラにとっては最低の不愉快だった。サトラは悔しさと怒りに燃えた。

 

「ふざけるな! 良い気になるのはわたしだ!」


 十本の指でソードダンサーを召喚する。二体だけではない。剣を持つ腕だけを糸で接続し、十体を召喚し、それを発射した。その攻撃をノースとゲトーは全く予期していなかった。


「お前達が死ねえ!!」


 本気になったサトラの剣の速度は不殺を貫いていた時の比ではなかった。凄まじい速度で奇襲する十本の剣を避ける術はどこにも無かった。

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