サトラ召喚
サトラのいる世界では地底を支配する帝国が人々の平和に暮らす地上を支配しようと手を伸ばし始めていた。
その地底からの侵攻に気づいた一部の地上の人間達と帝国との間で戦いが起こった。人々は帝国の刺客を退け、密かに六魔将の一人エイリスが地上に築いた前線基地を破壊し、戦いは一時中断されたかのように思えた。
その頃、不名誉な敗北を喫したエイリスに代わって地上の侵攻作戦を任された帝国六魔将の一人サトラは自分の部屋に置いたこたつに入ってぬくぬくとしていた。こたつの上には小さな籠にみかんを入れて乗せてある。
「はあ、幸せ~。こたつにみかん。これが地上の人間の考える最高の贅沢なのね~」
サトラは最年少で六魔将になった可愛らしい少女だ。思わず頭をなでて飴玉をあげたくなる印象を与える彼女だが、その内面がそんな可愛いらしい物でないことは帝国の人間なら誰だって知っていた。
部屋の入り口の横で控えた兵士は恐る恐る彼女に話しかけた。
「サトラ様よろしいのですか、地上の侵略を始めなくて」
「あなたは馬鹿ね。いいえ、あなただけじゃない。兵力で押すだけが侵略だと思っているからエイリスも馬鹿なのよ。わたしはすでに手を打っているのよ」
「と言われますと?」
「その部屋の隅にある物がなんだか分かる?」
兵士はそちらに目を向けた。そこにはたくさんの積まれた何かの箱があった。
「これは何ですか?」
「これはね。わたしが地上の店から買い占めてきた今人気絶頂のマシーン、プレイステーション4よ!」
「プレイステーション4!」
その強そうな名前の響きに兵士は驚きの声を上げた。そして、その興奮の冷めやらぬまま訊ねた。
「して、それは一体いかなる兵器なのでしょうか」
その質問にサトラはこたつに入ったまま答えた。
「これは兵器なんかじゃないわ。娯楽の商品よ。今地上の人間達はこれをとてもとて~も欲しがっているの。でも、どこにもないのよ。わたしがぜ~んぶ買っちゃったからね。ああ、欲しい欲しいと望む物が手に入らず悔しがる人間達の姿、その感情がここまで伝わってくるようでわたしは楽しくて楽しくてたまらないわ~」
サトラはうっとりとしたように呟き、みかんを手に取ってむき始めた。その指先にも彼女の上機嫌な様子がよく表れていた。
「やがてわたしのところに地上の人間達が来てプレイステーション4を譲ってくれと頼みに来ることにもなるでしょうね。でも、わたしはいくらお金を積まれても譲ってあげないの。すごすごと残念がって肩を落として帰っていく奴らの姿を想像したら楽しくて楽しくてみかんが剥けちゃう~」
「サトラ様が楽しそうで何よりです。ところでサトラ様はこの娯楽商品で遊ばれないのですか?」
「わたしはこんな物に興味はないの。人間どもの困った感情を味わうのがわたしには一番の娯楽なんだからね。やがて楽しみを奪われた人間どもの心は腐りはて、お互いにののしり傷つけあい、地上は滅びることになるのよ」
「さすがはサトラ様。なんて恐ろしい人なんだ」
「まあ見てなさい。絶対にわたしの言った通りになるから。すっぱ。ん?」
サトラがみかんのすっぱさに顔をしかめていると、天井に光の門が開いた。そして、そこから声が響いた。
「異世界の強き人間サトラよ。わたしは神である。我が声を聞き、次元を超えて我が元へと来るのだ」
「サトラ様、これはいったい」
兵士は取り乱していた。サトラは平然とした挑戦的な目つきで光の門を見上げた。
「エイリスが別の次元へ行って良い気分になって帰ってきたらしいわ。おそらくはそれと同じ類の物でしょうね」
「まさか行かれるのですか? 暇をされているエイリス様と違って、今サトラ様は地上の侵略を任されているんですよ。持ち場を離れるのはまずいのでは?」
「地上の侵略なんていつでも出来るのよ。わたしはせっかくだからこの誘いに乗って、自分だけが知らない場所に行ったといい気になってるエイリスの鼻をまたへこませてやる。別の次元ってどんな場所なのかしら。フフッ、楽しみだわ」
「サトラ様~!」
そして、サトラの姿はその世界から消えた。




