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キサエルとレギオン旅立ちの日  作者: けろよん
サトラ襲来

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12/18

古と新しい時代の神の邂逅

 遠のいていた意識に何かの音が聞こえてきた。

 戻ってきた視界にぼんやりと広がる黒い空間と石の床が見えた。

 ノースブリザードに敗れて氷に閉じ込められたはずの次元神クトロアフは気が付くと石の床の上に倒れていた。

 すでに氷はどこにもなく、辺りは暗い。あのダンジョンでの戦いからどれほどの時が経ったのか。計る物のない黒い景色だけが広がるそこからは何も窺い知ることは出来なかった。


 ふと耳にはっきりとした笛の音色が届いた。何を吹いているのかよく分からないその不可思議な音色の元へと向かって視線を動かしていくと、その先に一人の少女がいた。

 小奇麗な制服を着たまだ幼い赤毛の少女だった。床の上にある大きな石の上に腰かけて拙い指の動きでただ笛を吹いている。少女は自分の手元の指を見つめているだけでこちらに目を向けてこようとはしなかった。

 クトロアフは少女が座っているその石が以前に自分が落とした物だということに気が付いた。


「とすると、ここはまだあのダンジョンの中か」


 ダンジョンはそれを作り出したクトロアフの力が途絶えれば維持が出来ずに消えるはずだった。だが、それが残っているということはおそらく目の前の少女が何らかの力を発しているのかもしれない。 

 わずかながらも響いた声に少女の笛を吹く指がぴたりと止まった。感情の読めない静かな瞳が見上げてくる。一瞬目が合ったが少女は何かを言うこともなく、再びすぐに手元に視線を戻して笛を吹くのを再開した。

 クトロアフはむかついた。目が合った一瞬で自分が気圧されたことに。それから、自分のダンジョンに勝手に足を踏み入られていることにも気づいてその無礼さに対して腹を立てた。

 笛の音色が耳障りな物に思えてきた。大股で見知らぬ少女に近づいていく。


「貴様ここで何をしている。ここはわたしの作ったダンジョンだぞ!」


 息を荒げ、ぶつけたどなり声に少女は意思を返さない。ただ静かに笛を吹き続けている。クトロアフは自分が馬鹿にされているのだと思った。


「どいつもこいつもこの神を愚弄するつもりなら、身の程というものを教えてやる!」


 クトロアフは笛を吹く少女に掴みかかろうとした。こんな少女如きに技を使うまでもないと思った。だが、その手が届くことはなかった。

 見えない力が突如として全身にのしかかり、次元の神を自称するクトロアフはいとも容易く床へと倒され、押さえつけられてしまった。


「な、なんだこれは!」


 まるで立つことの出来ない凄まじい力。顔だけを上げて少女を見上げた。クトロアフは驚愕した。

 少女はもう笛を吹いていなかった。片手に笛を持ち、静かだった瞳は今、面白い生き物でも見るような感情を映して見下ろしてきていた。目が合うと背筋が凍り付くようで何も言えなくなってしまった。少女が口を開く。


「このあたちがありがた~い音色を聞かせてやっているというのに、静かに聞くことも出来ないのでちゅか、チミは。人の言う心を伝える物は音楽という説にわずかながらも疑問が出てくるというものでちゅね」


 少女は笛を懐にしまって石から降りて床に立った。少し歩いてから振り向いてくる。


「まあ、聞きたくないならそれもいいでしょう。今回のこの音楽はたまたまここで見かけたチミに対して聞かせるために奏でていたものなのでちゅからね。立ちなさい。許可しましょう。チミも神なのでちゅからね」


 のしかかっていた見えない力から解放されてクトロアフはふらつきながら立ち上がった。


「あの、あなたは一体……?」


 態度を変えて訊ねていた。理解出来ていた。相手も神、それも自分よりも上位で力が強い。今の宇宙にはだらけ切った情けない神ばかりだと思っていたクトロアフにとって、自分より上の神がいるという事態は気に食わない反面、新鮮な喜びでもあった。

 あるいは彼女の持つ雰囲気がそう感じさせたのかもしれない。少女は名乗った。


「あたちはミザリオル」

「え……?」


 クトロアフは耳を疑ってしまった。ミザリオルとはまだ神々が宇宙を支配していた古の時代、支配者であった神々の頂点に立った神の上の神。人との共存を訴えた愚かな神リザラヴェストと宇宙を二分して戦った偉大なる神の名だ。再びの神による宇宙支配を目指すクトロアフにとっては遠い時代の憧れの存在だった。

 その沈黙をどう受け取ったのか、ミザリオルと名乗った少女は話を続けた。


「最近の若者には三大脅威とか破滅の使者と言った方が分かるのかもしれましぇんけどね。あたちはただ神なのでちゅが」

「滅相もないです! ミザリオル様は偉大なる神様です! でも……でも、ミザリオル様は確か歴史ではリザラヴェストとの戦いに敗れて封印されたはずでは?」

「あたちはここにいる。それだけが事実でちゅよ。チミは人は強い生き物だと思いましゅか?」


 ミザリオルは話を変えてきた。考えるまでもなかった。


「弱いです! 考えるまでもない! 人々を服従させ、宇宙は再び神が支配するべきなのです!」


 熱く断言する。

 クトロアフはミザリオルも同じ気持ちを抱いて同意してくれるものだと信じていた。だが、その答えは期待とは違っていた。


「あたちは今は思うようになっているのでちゅよ。リザラヴェストの信じた人というものにもう少し目を向けてもよかったのではないかと」

「そんな、ミザリオル様のお言葉とは思えません。リザラヴェストの糞野郎が人間なんかと慣れあって起こした結果が今の堕落した神々の姿だというのに」

「チミ如きがリザラヴェストの何を知ってその行いを語るのでちゅか」


 ミザリオルの向けた暗い静かな怒りの瞳にクトロアフは震えあがってしまった。


「申し訳ありません! 出過ぎた真似を言ってしまいました!」


 謝罪するとミザリオルはその怒りをすぐに納めてくれた。


「まあ、チミの言うことは正しいのでちゅよ。リザラヴェストは愚かな神だった。神として生まれながら人とともに生きることを望み、人として死ぬことを選んだのでちゅから。ただ、これからチミが本気で宇宙の支配者になるつもりなら、今の宇宙の姿を招いたリザラヴェストの見た人の姿というものを少しは意識してはどうかとあたちは思っているのでちゅよ」

「はい、ご教授ありがとうございます」

「あたちはチミのようにやる気のある元気で礼儀正しい若者は好きでちゅよ。これからも励みなしゃい」

「はい!」


 そう言い残し、ミザリオルは踵を返して暗い空間の中を飛び去って行った。クトロアフはそれを見送り、次の行動を開始した。


「ミザリオル様はこのわたしのことを応援してくださっている。わたしが……このわたしこそが新たな時代の神として宇宙に君臨する支配者となることを望んでおられるのだ!」


 やる気の溢れるままに次元の狭間のダンジョンから抜け出し、灰色の星の大地へと降り立った。そこは前にダンジョンの受付をしていた場所だ。だが、場所などはどうでもいい。

 ミザリオルの言っていた人の姿を知るということ。それを意識する。人を知るには人だ。それも強い人間がいい。クトロアフは前にダンジョンに招き入れた者達が言っていた名前を思い出す。奴らをも恐れさせる人間。それを呼び出すことにする。


「いでよ! ヤウグ、サトラ! この神の呼びかけに答え、姿を現すのだ!」


 杖を目の前の大地へと向け、二つの次元の門を開いて召喚を開始する。

 次元を超える力を発動する。これこそがクトロアフが最も得意とする能力であり、彼女が次元の神を自称する所以である。

 門が光に輝き、力と意思が遠くの世界へと伝わっていく。


 宇宙のある場所でヤウグはその呼びかけを感じ取った。だが、それをすぐに断った。次元の門の一つはいともあっさりと砕け散って消滅した。クトロアフは驚いていた。


「我が呼びかけを断るばかりか、次元の門まで破ってくるとは。さすがは強者だということなのか……まあいい、次元の門はもう一つある。お前の方は答えてもらうぞ、サトラ!」


 意識を一つの世界に集中する。そして、呼びかけを行った。

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