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キサエルとレギオン旅立ちの日  作者: けろよん
ノースと不思議なダンジョン

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11/18

パーティーの終着点

「……」

「……」

「……」

「……こほん」


 いつまでも驚愕に囚われていても仕方がない。エイリスはみんなを代表して動くことにした。近づいていくと次元の神は地面を砕いたその石の上に立ったまま見下ろしてきた。目線が合い、訊ねる。


「その、ここがそのクト……なんとか様のレベルアップ場とはどういう意味ですの?」


 戸惑うエイリスの言葉をクト何とか様は軽く鼻で笑い飛ばした。


「クトロアフだ。わたしは神! なのだぞ。礼儀を知るがよい、愚かな人間どもよ。そして、心して聞け。喜ぶのだ。このダンジョンでの戦いを通し、お前達の力も技もこの神のものとなって捧げられたのだからな」

「それってどういう……?」


 ノースも足を踏み出そうとして、不意にその足元を風が動き始めた。この力は知っている。風を操るのはエイリスの技だ。


「エイリスさん?」

「わたしじゃありませんわ」


 ノースの方を振り向いてエイリスも驚いていた。クトロアフは不敵に笑った。彼女が手に持つ白黒の杖が左右に別れ、回転し下部が繋がり、扇の形に変形していく。


「神の力を見せてやろう。そして、感謝せよ。お前達の技をこの神が振るってやることをな。くらえ、ウインドブラスト!」


 クトロアフが扇を振るとともに風が爆発となって巻き起こった。すぐ近くにいたエイリスが真っ先に巻き込まれ、残る三人もすぐに巻き込まれ吹き飛ばされる。

 ノースには覚えがあった。これは確かにエイリスが使っていた技だ。このダンジョンで多くのモンスターがこの技にやられていった。それが今自分に襲い掛かっている。風が途切れ、四人は床に叩き付けられた。

 クトロアフは扇を杖の形に戻し、岩から飛び降りて地に降り立った。そして、話を続けた。


「力を取り込むためにわたしはこの次元の狭間にダンジョンを作り出し、あらゆる次元から戦える者を呼び集めることにしたのだ。楽々レベルアップ出来ると称してな。だが、予想外だったのは今の人間の欲の無いことよ。集まったのはお前達4人だけだった。欲を無くしたのは神々だけでなく人もそうだったとはさすがにこのわたしも驚いたぞ」

「神に欲がない?」

「そうだ。かつての神々は人を支配し宇宙に君臨し、大きな野望を抱いていたものだ。だが、人間との共存を望んだ神リザラヴェストが虚無の大神ミザリオルを倒したあの戦いから時代は変わった。神々の間では人とともに生きていこうなどという腑抜けた考えが主流となり、神の力と存在はこの宇宙にあって小さな物へと弱体化していったのだ」


 クトロアフは忌々し気に杖で地を叩く。その迫力にノースは身をこわばらせてしまった。それを見て気分をよくした神は杖を横向きに構え、そこに冷気を集めていく。

 普通の氷の色とは違う白と黒の氷の粒が杖を槍の形へと変えていく。


「だが、その誤った歴史はこのわたしが変えてやる。人間どものあらゆる力をこの手にし、全ての次元の頂点に君臨し、新たな時代の新たな神としてこのわたしが全てを支配するのだ!」

「そんなの……そんなの……わたし達の楽々レベルアップに何の関係もないじゃない!」


 ノースは精一杯に言い返す。だが、それはただの負け惜しみにしかならなかった。笑う神を止めることは出来はしない。


「当然さ。これは始めからわたしの立てた計画なのだから。わたしが楽々レベルアップするために用意したことなのだ。さあ、次はお前の技を使ってやろう。神が振るうことを光栄に思い受け止めるがいい。ノースブリザード!」

「こんなところでわたしは」

「ノース! しっかりしろ!」


 ゲトーが突っ込んでくる。背後から飛んできた攻撃をクトロアフは見もせずに跳躍して避けた。そのままくるりと回転して着地する。攻撃は当たらなかったものの技を中断させることには成功した。氷が散り、元の杖に戻る。

 ゲトーはノースの前に立った。


「お前のことはキサエル様から頼まれているんだぜ。ここは頼りになるってところを見せないとな」

「ゲトー……」

「鳥人か。お前の技もすでにわたしの物となっている。見切ることは容易だ。わたしの作り出したダンジョンで多くのモンスターを倒したこの力。お前の体で試してやろうか?」

「無駄だな。俺の技はこの大きな翼と爪が無ければ使えやしないぜ!」

「無ければ作ればよいだけだ」


 白と黒の杖が二つに別れ、それらがクトロアフの背に回り、白と黒の巨大な翼となって変形し合体する。さらに腕に鋭い鉤爪が伸びて装着される。


「あいつ! あんなことまで出来るのか!」

「何を驚くことがある。創造と進化とは元より人の物でなく神の与えた力だぞ。行くぞ!」


 突っ込んでくる鳥人となった少女の攻撃をゲトーは避ける。ゲトーはそのまま空中を飛び反対側へと回り、そこから攻撃へと打って出る。クトロアフも同じように飛翔し、二人は空中の中央で激突した。

 爪と爪が火花を散らし、押し合っていく。


「お前の力もすでにこの神の物となっている。わたしに通用などしはしないぞ!」

「それなら条件は同じだぜ。俺の力で俺は倒せないぞ!」

「どうかな? 神の力を知るがよい!」


 クトロアフは離れ、その瞳が光った。瞬間、ゲトーの体を激しい炎が包み込んだ。


「ぐあああ! なんだ!? なんだこれはあ!?」


 あまりに理不尽な攻撃にゲトーは叫びを上げる。炎が全身をかけめぐり締め付け、体を赤黒く染めていく。


「ゲトー!」


 ゲトーの耳にノースの声が届く。ゲトーははっと我に返った。炎などどこにもありはしなかった。


「幻か!」


 気づいた時には遅かった。すでにクトロアフの攻撃はすぐ間近にまで迫り、ゲトーは蹴り落とされて地に叩き付けられていった。


「ゲトーまでやられてしまうなんて……」


 その光景をノースは唖然として見ていることしか出来なかった。自分達は楽々レベルアップをするためにここへ来たのだ。それが何故こんな理不尽な仕打ちを受けるのか理解出来なかった。

 クトロアフが着地し、翼を杖へと戻してノースの方へと振り向いた。


「どれ、今度こそお前の技を使ってやるか。これで4つの力がわたしの物となった。まだまだ不足ではあるが、スタートとしてはまあこんな物でも良かろう。感謝するぞ、愚かな虫けらども! この次元神クトロアフ様の糧となれたことを光栄に思い、朽ち果てるがいい!」


 杖の周囲に白と黒の氷の粒が舞い、杖を槍の形へと変えていく。

 ノースにはこの理不尽な思いに覚えがあった。生意気で自分勝手なヤウグに言うことを聞かせられず、考えや行動を改めさせることも出来ない無力な自分だ。そう思うと目の前の相手がヤウグのようにも見えてきた。

 もう敵は神などでは無かった。相手はただ理不尽なだけの存在だ。ノースはむしゃくしゃした気分を押さえ切れずただ感情を叩きつけ叫んだ。


「もう!! いい加減にしてよーーーー!!」


 その大音響はダンジョンの大広間を震わせ、一瞬クトロアフを慌てさせた。


「なんだ!? はっ」


 そこに何かが割って入り、クトロアフの強かった視線と迫力が止んだ。氷の粒が弾け、槍が元の杖へと戻る。クトロアフは何かうろたえている様子だった。見えない何かを恐れるように後ずさり、わけの分からないことを喋りだす。


「ち、ち、ち、違うんです。リザラヴェスト様、ミザリオル様。わたしは何も他の神々の行いを馬鹿にしているわけではないのです! ただ最近の奴らがあまりにも不甲斐ないから……い、いえ、何も間違ってはいません! ひええ! 許してえ!」


 急にぺこぺことしだした神を前にして、ノースは激しく吠え立てた剣幕を止めてぽかんとしてしまった。


「やっと幻術が効いた。あなたが隙を作ってくれたおかげ。ありがとう」


 その声に振り向くと、手をクトロアフの方に向けて立っているミレージアがいた。ノースは事情を理解した。だが、嬉し気だったミレージアの顔はすぐに気難しそうに変わった。


「でも、長続きはしないみたい。もう破られる」

「はっ」


 クトロアフは我に返った。自分を見つめる二人の目にすぐに事情を理解し、その顔を屈辱に震わせた。


「お、お、お前達。神をペテンにかけたなああああああ!!」


 叫ぶクトロアフの足元を風が流れ込んで取り囲んでいく。それは神の側の術ではなかった。クトロアフはそれに気づき、足元を見下ろして表情を強張らせた。


「え」

「何がペテンですか。最初に騙したのはあなたでしょう!!」

「うぎゃああああああ!!」


 直後、風は吹き上がる嵐となってクトロアフを吹っ飛ばし、彼女の体は天井高く舞い上げられてから、竜巻となって勢いよく顔から地面へと叩き付けられていった。

 

「ぐへえええええええ!!」


 その衝撃に石の床がめくれていく。


「何が楽々レベルアップですか。馬鹿馬鹿しい」


 エイリスは口元に広げた扇を当てて呟いた。


「エイリスさん!」


 ノースが喜びの声を上げると、エイリスは片目をパチリとさせて返事をした。


「あなた達が時間を稼いでくれたおかげで体勢を立て直せましたわ。さあ、あのような神は早く倒してしまいましょう」

「神を愚弄するなああーーーー!」


 クトロアフは擦りむいて赤くなった顔を上げて勢いよく飛び立った。翼を広げ、空中から見下ろしてくる。


「お前達は決定的な過ちを犯した。それはこの神を怒らせたということだ!!」


 冷静さを失った彼女は気づいていなかった。自分の他に飛べる者がいたという存在に。その存在の爪が背後から彼女の体を掴み、クトロアフは顔をひきつらせ背筋を震わせた。


「ひうっ!」

「過ちを犯したのはお前だぜ。俺達を怒らせたんだからな!!」

「びやあああああああ!!」


 クトロアフは空中でぶんぶんと振り回され、手を離された彼女の体はその勢いのままに横の壁に激突し、めりこんだ。翼が杖に戻ってころりと落ち、彼女の体も壁を離れて地面にどさりと落ちていった。


「や、やりすぎたか?」


 敵とはいえ相手は普通の少女の姿をしている。ゲトーは若干の気おくれを感じながら、仲間の側へと着地した。

 クトロアフは足をふらつかせながらも立ち上がった。そして、叫んだ。


「お、おのれえー! 神の力を知れえーー!」


 それはもうすでにただの駄々っ子のような叫びだった。ノースは氷の槍を作り出して構えた。


「わたしだって!」

「フッ、愚かめ。この神も同じ技を持つことを忘れるなー!」

 

 クトロアフも同じように槍を作り出す。

 加勢に出ようとするエイリスをゲトーは止めた。そして、ノースに向かって言った。


「やれ! ノース! お前の力を見せてやれ!!」

「「ノースブリザード!!」」


 合わさるように二つの氷雪の嵐が激突した。勝負は拮抗すらしなかった。ノースの放った純粋な吹雪が、クトロアフの放った白と黒に染まった吹雪をただ一方的に飲み込んでいく。


「な、何故だ。何故この神の技だけが。ま、まさか本当に楽々レベルアップしたとでもいうのか。そ、そんなことが……」


 ノースはただ一心にブリザードを繰り出していく。

 氷雪がクトロアフの体を取り囲み、世界を氷で閉ざしていく。クトロアフは寒さで唇を震わせながら懇願した。


「ま、待って。待ってお願い……うひゃああああ!!」


 一瞬世界が白く光ったように思えた。

 吹雪は止み、ダンジョンは元の静けさを取り戻していた。

 技を打ち切った緊張と疲労に座り込むノースの前には、情けない恰好で氷に閉ざされて凍り付いたクトロアフの姿があった。

 ノースの頭にぽんとゲトーの手が置かれた。


「よくやったな、ノース。お前レベルアップしたぞ」

「わたしがレベルアップを?」

「ええ、楽々とはいきませんでしたけどね。この経験はきっとわたし達のこれからの戦いにも役に立ちますわ」

「うん!」


 エイリスが微笑み、ノースも心からの純粋な笑顔で答えた。

 だが、問題は残っている。ここからどうやって帰るかだ。この地を構成していた神の力が凍り付いて途絶えたことによって、ダンジョンは徐々に遠くから消滅を始めていた。このままでは遠からず次元の狭間に取り残されてしまうだろう。


「こいつに聞こうにも、しばらくは出てきそうにないからな」


 ゲトーは神が間抜けな恰好で凍り付いた氷の棺を叩く。


「わたしのせいで……」

「これを使えば」


 落ち込みかけるノースに答えたのはミレージアだった。その手にはダンジョンに来る時に使った鍵があった。エイリスは明るくポンと手を打った。


「なるほど。ここに来ることが出来たんですもの。帰ることも出来るはずですわね」

「でも、力を失いかけている。神の力が途絶えたから。急いだ方がいい……多分」

「お別れ……になるの?」


 ノースは呟く。短い間だったけど一緒に戦った仲間と別れるのは寂しかった。それは他のみんなも同じ気持ちだっただろう。お互いにお互いを伺ったまましばらくの沈黙が辺りを包む。

 ややあって、リーダーとしてエイリスが発言した。声を強くしてはっきりとした宣言を行う。


「パーティーはここで解散とします。ですが、わたし達の戦いが終わるわけではありません。ここを再びのスタートとし、また宇宙のどこかで出会うことがあれば、その時はお茶でもしながら良い話が出来るよう、各自それぞれに邁進いたしましょう。では、解散」


 言ってエイリスはその手に鍵を握った。ノースとミレージアとゲトーも同じように鍵を握る。みんな表情はそれぞれだったけど、ノースは精一杯笑顔になれるように頑張った。

 そして、元いた世界へと戻れるように願う。鍵は最後の光を放ち、みんなをそれぞれの世界へと運んでいった。


 ノースは元の世界へと帰ってきた。そこはダンジョンへ行く前に見た灰色の星だった。

 宇宙艇は留めた場所にそのままあったが、受付をしていたテントはもうそこにはなかった。

 手に握った鍵が最後の力を失って消えていく。手に残った物は何も無かった。だが、手に入れた物は確かにあった。


「帰るか、ノース」

「うん」


 ゲトーに促され、ノースは宇宙艇に乗り込んで飛び立った。そして、心に残る寂しさに別れを告げ、その星を後にした。



 帰ってきたノースはゲトーを置いて足早に広い宇宙船の廊下を歩いていた。帰ってきたら一言だけでもいいからヤウグに真面目に考えを改めるように言ってやろうと思っていた。いつまでもキサエルに甘えさせておくのもよくないと思っていた。


「ただいま帰りました」


 礼儀を重んじるノースにしては珍しく勢いをつけて入室してしまう。


「お帰りなさい。楽々レベルアップはどうでしたか?」


 キサエルはそんな態度の違いも気にせず、いつものように車椅子に座った姿で穏やかに出迎えた。ノースは視線だけを動かして素早くヤウグの姿を探した。

 だが、その部屋にはキサエルがいるだけで、探し求める少女の姿はどこにも無かった。

 その頃にはもうノースの高ぶった気分も大分落ち着いてきていた。困惑しながら訊ねる。


「あの、キサエル様。ヤウグはどこに……」

  

 その言葉を聞いて、キサエルは少ししょんぼりとして見せた。


「あの子は出ていってしまいました。遊びに行くんだと言って。ノース達が出ていったしばらく後でした」

「遊びに……?」 

 

 ノースは自分の耳を疑って口をパクパクとさせてしまった。ヤウグがいい加減な奴だとは思っていたけど、まさか大切な使命を置いて遊びに行くなどと言うはずがないと思った。だが、現実はここにある。


「遊びに……行くって……言ったんですか……?」

「はい、言ったんです。あの子がそう確かに」

「止めなかったんですか……?」

「わたしにはみんなの行動を止めるつもりはありませんから。ノースにもそう言いましたよね?」

「お……あ……」


 そして、ノースの感情は沸点に達した。もう抑えることなど出来るはずもなかった。場所もわきまえずに叫んでしまう。


「あいつ……あいつ……何考えてるのよーーーーーー!!」


 ノースの生活はしばらく変わりそうになかった。

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