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僕が少し変わった日

思いつきでいつも書いているので、前の浅倉パートの最後を少し変更しました。矛盾ばかりですが、寛容な心でご覧いただければ幸いです。



 おやおや。何だか面白いことになってきた。

 僕は苦労して何とか込みあがる笑いを抑えると、かつてない程にご機嫌な様子で歩く浅倉を横目で見ながら心の中でにたりと笑った。

 先程から人生初の友人を得たと彼女は浮足立っていたのだが、僕らがこれから通う公明高校を見た途端、更に上機嫌となりニコニコと笑みを浮かべだした。何の変哲もない学校で強いて言えば都会にあるわりには、自然が豊かということくらいが取り柄のそれの何が嬉しいのだろうか。加えて言えば友人だってそうだ。いったい何が嬉しいのだろう。友人なんて煩わしいだけの存在じゃないか。そんなものを得たくらいで喜ぶ彼女は、本当に訳が分からない。

 けれどもこの状況は僕にとって望ましいのだ。この喜びに溢れた彼女の顔を曇らせれば、彼女はどうなるのだろうか。きっとそれは、また僕に愉快な感情をもたらすに違いない。ああ、楽しみだ。


「すごい良い感じの学校だな!なんか楽しみになってきたかもしれない!」


「…うん。そうだね」


 出会う以前も出会ってからも、不機嫌な表情しかしてこなかったというのに、いきなり彼女がとびきりの笑顔を僕に向け、そのことに不意に僕の心臓が跳ね上がった。

 何だろう、これは。今までにない感覚だ。嬉しいんだろうか。それに近い感情が僕の中に湧き上がって来た。やはり、彼女は面白い。

 僕は感情に支配されたまま、浅倉に笑みを返した。すると彼女は更に更にご機嫌となり、今にも天まで上らんとするくらいに喜んだ。彼女のその様子を見ながら、僕はますます訳が分からないと思ったが、同時に悪くはないとも思った。何だか心が穏やかになる。


「ああ、着いたね。まずはどのクラスか見ないといけないね。多分あそこで見れるんじゃないかな」


 そうこうしている内に校門にたどり着いた。校門を抜けた少し離れた正面の位置にある掲示板には、大勢の人が群がっていた。おそらくあそこでクラス発表がされているのだろう。とにかくそれを見ないことには始まらないので、僕は浅倉に行こうというと彼女も頷いてその方向に歩を進めた。

 途中で何やら刺々しい幾つもの視線が浅倉に注がれていることに気付いた僕は、ああそういえばとすっかり忘れていたことを思い出した。今、僕と浅倉はいわゆる恋人繋ぎをして歩いていたんだったと。まあ、鈍感なのか周囲に興味がないのか知らないが、浅倉は一切それに気付いていないようだったけれども。

 これは面白いな。煩わしい女共も役に立つじゃないか。当初の予定通り。きっと見事に浅倉のことを理不尽にやり込めてくれることだろう。


「ごめんね浅倉さん。ちょっと知り合いがいたから声をかけてくるね」


 浅倉と僕が同じ1-Aだということを確認し、近くにあった受付で僕らは新入生が胸につける花のコサージュを貰った。その後、僕は丁度いい具合に知り合いを見つけたので、そう言って浅倉から離れた。彼女は分かったと頷きいて手持無沙汰にしていたが、すぐさま派手な格好の3人の女子が彼女を取り囲み、校舎裏へと連れ去っていった。

 予想通りの展開に僕は心の中でしたり顔をして喜び、何食わぬ顔で知り合いの男子生徒に久しぶりと声をかけた。


「てめえ!武東この野郎!騙しやがったなあ!」


 しばらくして浅倉が、物凄い勢いで僕に向かい駆けて来たのだが、思っていたように面白いものでは無かった。僕が口汚く罵る浅倉を期待をしていたにも関わらず、愉快どころか不愉快な感情を抱いてしまったのだ。そのことに僕は自分でも意外なくらいに驚いてしまった。彼女から膝に蹴りを一撃食らい、2、3歩後ろへよろめいてしまったというのに、それすら気にならなかった。普段の僕であれば、すかさず彼女にアイアンクローなり、別の技を仕掛けるなりして必ず仕返しをするというのに。涙をぽろぽろ流して泣く彼女を見て笑うはずだというのに。


「……あ、ごめん。忘れてた。友達じゃなくて親友が、だった。ごめんね」


 彼女のその様子に僕はらしくも無く、いつもは彼女を陥れる為に吐く嘘を自分の為に吐いてしまった。本当に僕らしくも無い。こんな下らないことで保身に走るだなんて。

 けれども何故だろう。彼女に嫌われたく無い。そういう思いが込み上げて来たのだ。自分でも訳が分からないまま、気が付けば口がそう動いていた。

 恐る恐る浅倉の顔を見れば、つい先ほどまで泣いていた彼女は、何だそうかとそう言い、目は真っ赤になっていたけれど再び笑顔を見せてくれた。それを見た僕の心臓は再び跳ね上がり、ああこれを失いたくないな、そう思った。

 僕はもう考えることを放棄し、感情に任せるがまま、これからは彼女に大きな嘘を吐くのは止めようと思った。そう確かに思ったのだった。

 まあ結局、浅倉の反応の面白さと僕の性格の悪さが相まり、その決意は翌日には無かったこととなってしまったのだけれども。

 何でかなあ?止めようと思った気持ちは変わらないんだけれど、面白いからかなあ。ついつい、やっちゃうんだよね。

 それが積もりに積もった約1年後の今頃。浅倉が大噴火を起こすことになるのだけれども、それはまた別の機会に話すことにしよう。

 まあ、そういう訳で僕。武東知明はこの日から、ほんの少しばかり変わったのだった。


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