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私が入学初日で高校デビューを諦めた理由

前回投稿から間があるので、浅倉さんの性格と小説の文章が変わっています。

「ああ、見えたよ。あれが光明高校だね」


 人生初の友達ゲットに浮かれ、ふわふわとした気分で歩いていると武東が左前方を指差した。

 光明高校は少し勾配が大きい坂の上に建っていた。いくら地方都市だからとはいえ、周りは住宅や店が立ち並び、少し開けた道路があるというのに、光明高校は田畑に囲まれ、裏手側には丘が見えていた。自然豊かな田舎の風景がそこにはあり、その付近だけは昔のままで残っていた。


「…すごい」


 その光景に驚き、馬鹿みたいに立ち尽くした私の口から、無意識に感嘆の言葉がこぼれた。

 小さなころから田舎のノスタルジーな風景が大好きな私には、思いがけないプレゼントだ。私は高校なんて取り敢えず、自分の能力で一番上のところに通っときゃ問題ないだろうと思い、下見もせずにこの学校を選んだのだが、判断は間違っていなかったのかもしれない。

 どうせいつもと同じように、楽しくはない学校生活が始まるのだろうが、今回は友達が一人はいるし学校の周囲は私が好きな感じだし、なんか少しは良いことがあるのかもしれない。


「すごい良い感じの学校だな!なんか楽しみになってきたかもしれない!」


 私はこれまた人生で一番かもしれない、きらっきらした笑顔で珍しく、ちょっとはしゃいで武東に話しかけた。武東はそんな私を見てまた驚いたようだったが、すぐにいつもと違う柔らかい表情で微笑み、そうだねと頷いた。

 人生初の友達のその反応が、私はもう嬉しくて嬉しくて胸の鼓動は高まり、期待に満ち溢れ、これからの生活が楽しくなるんじゃないかって、夢見たのが間違いだった…。


「あんた武東君のなんなの!馴れ馴れしいんだよ!手なんか繋いで何様のつもり!?」


 そうでした。武東は女子の王子様でした。ああ、なんで忘れていたのか私よ。武東と一緒に行動すれば、こうなることは火を見るよりも明らかじゃないか。

 今、私は3人の少女に囲まれていた。いわゆる校舎裏に呼び出しってやつだ。

 彼女達には新入生の胸元を飾る造花があるから、間違いなく同級生だろうな。なんというか私と同じ、まだ15だというのに、彼女たちの顔はケバイことケバイこと。肌がすでにボロボロになっていた。よし、見分けが正直つかないから、仮の名前はケバ1、ケバ2、ケバ3としよう。

 まあ何はともあれ、なぜこうなってしまったのか、わざとらしく説明しよう。

 あれから学校の校門をくぐり、近くにあった掲示板で自分たちのクラスを確認し、ああなんだ同じクラスだねと武東と話していたら、武東は知り合いがいたらしい。ちょっと声を掛けてくるね、と言って私の傍を離れた。


「ちょっと聞いてんのかよ!?なんとか言えよ!?」


 …ああ、もう。離れたとたんにこれだ。武東よ。お前の王子様効果は、一体どこまで強力なのかね。高校入学初日でこれですか。本当にあれですね。お前のフェロモンは、蛾もびっくりするくらい強力ですね!もちろん私もびっくりですよ!


「ふざけてんじゃねえぞ!」


 現実逃避をして何も喋らない私に、しびれを切らしたケバ1が私の左肩を突き飛ばした。正直、必殺のアイアンクローをかましてやろうかと思ったが、3対1と多勢に無勢だ。こっちの分が悪い。ここはぐっと我慢するしかあるまい。手が出そうになるのを、拳をぎゅっと握って私は堪えた。


「武東が言ったんだ。友達なら手を繋いで歩かなきゃいけないって」


 我ながら卑怯な言い逃れだなあと感心する。でも友達なら当然のことだし、これで納得してくれればいいが。


「はあ!?そんなわけねーし!なに嘘いってんの!?」


 私がそう言うとケバ達は、顔を真っ赤にして怒り同時に叫んだ。思わずその迫力に怯んでしまったが、嘘は言っていないのだからとこっちも強く出ることにした。


「嘘じゃない!武東がそう言った!なんでわざわざ、こんなことで嘘を言わなきゃならないんだ!」


「有り得ないし!男と女で友達だからって手なんか繋がねーよ!」


「はあ!?繋ぐし!武東が言ったんだもん!」


「繋がねーよ!ばっかじゃないの!?」


 再び仲良くケバ達は揃ってそう言い換えしてきた。私も段々と頭に血が上って、手を繋ぐ、繋がないと言い争っていたが、ふと我に返った。あれ?もしかして本当に繋がないんじゃねと。


「…え。ちょ、本当に!?本当に繋がないのか!?」


 私はちょうど掴みやすい右側にいたケバ2の胸倉を右手で掴むと、私より身長の高い彼女を覗き込んでメンチをきかせた。

「ちょっと止めてよ!離して!ホント意味わかんない!女同士でも繋がないし、繋いでも小学校、低学年くらいまでに決まってんじゃん!」


 ケバ2は必死に抵抗しながらそう言った。その表情からして、嘘を言っているようにはどうしても見えない。ということは、だ。


「………の野郎。騙しやがったな」


 てめえ!武東この野郎!騙しやがったなあ!

 私はケバ2の胸倉から手を放すと、そう大声で叫びながら、武東がいるであろう校門付近まで全力で走った。後ろの方でケバたちが覚えてろよ!と小物じみた発言をしていたが、そんなものは知ったこっちゃない。とにかく今、私は武東にアイアンクローをかけなきゃいけないのだから。くそ、武東め。意外に悲しくてちょっと涙が出ちゃったじゃないか!どうしてくれるんだ!

 私はぽろぽろと涙を流しながら、武東を見つけると奴の膝辺りに蹴りを一発入れた。ちょっと武東が怖くて、アイアンクローを躊躇ったわけでは決して無いからな。

 私の蹴りを食らって武東は2、3歩後ろに下がった。私はこの後てっきり武東は逆上すると思ったのに、意外なことに奴はポカンとした顔で私を見ていた。何と不気味な!


「あ、ごめん忘れてた。友達じゃなくて親友が、だった。ごめんね」


 何だよ。そうなんだ。

 見つけた武東から言われたその一言で、また私はコロッと騙されてしまうのだが、それをここで語るのは止めておこう。

 ああ。本当にらしくも無く、少しでも期待した私が馬鹿だったのだ。

 そういうわけで私、浅倉南美の高校デビューの夢は散ったのだった。

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