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僕が獲物の扱い方を覚えた日

武東視点です。

かなり武東の性格が最低です。

 僕は今、これまでの人生で嘗てない程に機嫌が良い。僕の猫を被っていない性格を熟知している家族は、どうしたのだそんなにニコニコして、もしや頭でも打ったのかと訝しむくらいだ。普段であれば家族といえども売られた喧嘩は買うのだけれども、今日はそんなことで時間を無駄にはしたくない。一刻も早く獲物、ああ間違えた。浅倉のことをおちょくる、じゃない。構いたかったので家族の失礼な発言は無視をし、さっさと浅倉の家に向かったのだ。

 折角僕が迎えに行くのに逃げられてはたまらないと思い、かなり早めに彼女の家に着いたのだが、まあ面白かった。彼女は朝から僕の期待を裏切らない。浅倉に内緒で彼女の元担任に住所と電話番号を聞いておいたのだが、それをばらした途端にあのハゲ頭、死ねと元担任を罵ったのだから。

 ああ。朝からスカッとする。いいね。それだというのに…。


「武東。お前と一緒に歩きたくないんだけど」


 浅倉のこの一言で、僕の機嫌は一気に傾いた。折角僕が上機嫌で登校していたというのに、本当に可愛くない女だ。僕だって、別に嫌われ者の浅倉と一緒にいたいわけじゃない。ただストレスが溜まりやすい僕の捌け口として、利用しているに過ぎない。けれども面と向かって、こんなふうに言われてしまうとなんだか無性に腹が立つ。まあ僕にとっては、浅倉といることでメリットがあるが、彼女にとってはデメリットしかないのだから、仕方がないことではあるのだが。

 しかし、それでは僕の気持ちが収まらない。ここはひとつ、新しい嫌がらせをしてやろう。僕は左手で浅倉の右手を取ると、いわゆる恋人繋ぎをした。さあこれで彼女は、登校初日から女子の嫉妬をかってしまうだろう。

 我ながら本当に性格が悪いと思うが、この先々のことに思いを馳せると楽しくて仕方がない。いったい浅倉の次のリアクションは、どんなものだろうか。きっとまた、それは僕を楽しませることだろう。


「ねえ。右手つないでるのなんなの?なんか意味あんの?嫌がらせ?」


 なんだ。嫌がらせと分かったのか。アホだと思っていたけれど、少しは賢いみたいだ。

 僕は少し驚いたが、すぐに次の嫌がらせを思いついた。ありえないような出鱈目を言って困らせてやろう。


「何?浅倉さん。今まで知らなかったの?男女で友人になったら、こんなふうにに移動する時は常に手を繋がなきゃいけないんだよ。中学の時にも何回か見掛けたことぐらいあるでしょ?」


 まあ、自分でもこんなことに騙される奴なんていないと思ったものの、浅倉なら引っかかるだろうという確信がどこかにあったので一つ賭けに出てみることにした。

 すると浅倉は大きな目をさらに大きくし、短い付き合いだけれど今までで一番驚いた顔をした。


「そうなんだ。知らなかった。でもさあ、私はお前といつ友達になったっけ?武東とはアイアンクローをきめられた仲ではあるけど、友達になった覚えは全然ないんだが」


 やっぱりこの子はアホだ。こんな馬鹿げたことに、すんなりと納得するなよ。そう心中で突っ込みながらも、僕は更に出鱈目を重ねてみることにした。いったい、どこまで騙せるんだろうか。ああ。なんだかこれ、すごく楽しいな。性格が捻じ曲がった僕にとって、浅倉は最高のおもちゃだ。本当に飽きることが全然ないし、次から次へと僕を楽しませてくれる。


「ええ!まさかこれも知らなかったなんて!」


 有り得ないといった感じで、僕は大げさに驚いて見せた。浅倉は最初は不安そうな顔をしていたが、僕の態度に苛立ったのだろう。すぐに物凄い勢いで睨んできたので、僕はもう可笑しくて可笑しくて仕方がなかった。今の感じから察すると、浅倉は意外とプライドが高いらしい。きっと教えて欲しいはずなのに、プライドが邪魔して素直に聞けないんだろう。まあ、素直に聞いたところで、僕は間違ったことを教えるんだけれども。次も簡単に騙せるだろう。


「ごめん。ごめん。そんなに睨まないでよ。君があまりにも常識を知らないもんだから、吃驚してしまって。あのね浅倉さん。男女の間では、アイアンクローをどちらか一方にきめることが、友達になりましたっていう証なんだよ」


「そうなんだ。私、その。友達が今まで一人もいなくて。だからそういうことも知らなかった。ごめんなさい」


 まだ騙されるのかお前は。ちょっとこの子は大丈夫だろうか。おつむが弱すぎやしないか。

 先程とは打って変わり、殊勝な態度で謝った浅倉に罪悪感を感じないわけではないが、如何せん馬鹿みたいに簡単に騙される浅倉が面白すぎた。僕はもうこの勢いを止めることが出来ず、最後まで出鱈目を貫き通すことにした。


「なんだ。そんなこと気にしないでいいよ。じゃあ、これで本当に友達だからね」


「うん!ありがとう武東。嬉しいな。人生で初めての友達だ!」


 僕の出鱈目になんの疑いも感じなかったのか、浅倉は今までに見たことがない良い笑顔を僕に向けてきた。もう止めてくれ。浅倉は僕を笑い殺す気だろうか。そんな嬉しそうに笑って僕を見ないでくれ。どこまで馬鹿なんだ君は。

 この時、僕はかなり苦労をして笑いを堪えた。こんなことで苦労をしたのは、生まれて初めてだった。なにせ短いとはいえ、今までの人生はとても退屈で仕方のないものだったので、こんなふうに純粋な笑いが込み上げて来ることなんてなかったのだから。

 やっぱり、もう逃がしてあげられないなあ。この子はこれからもずっと僕を楽しませてくれなくては。それに興味があるのだ。いったいどこまで僕に騙されてくれるのだろうか。ああ。すごく楽しみだ。

 ちなみに浅倉が僕の出鱈目に気付いたのは、一年後の春のことだったのだけれども、その話はまたの機会にしよう。

 まあ。そういった経緯で僕、武東知明は浅倉南美の遊び方、ああ間違った。扱い方を覚えたのだった。




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