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私がストーカーに騙されるようになった切っ掛け

浅倉視点です。

浅倉さんの馬鹿さ加減が半端なく、ストッパーとなる人物もいないので有り得ない感じに話が進みます。



「武東。お前と一緒に歩きたくないんだけど」


 今、私は入学式に出るために家から学校まで、十五分の道を歩いて登校している。それはこれから毎日のように繰り返すことなので別にどうということじゃない。ただ横にいる男が気にいらない。なんで武東がいる。こいつと一緒にいると碌でもないことが起こりそうでなんか嫌だ。こいつは見た目と外面だけは良いので、騙された女子にどんな嫌がらせをされるか分かったもんじゃない。いくら私が他人から嫌われ慣れてるからといっても、入学してすぐにわざわざ自分から敵を作ろうだなんて思わない。私はMじゃない。苦しいこと辛いことは、絶対にごめんだ。

 これからの高校生活をこいつに壊されてたまるものか。そう思い横に並んで歩いている武東を私はしかめっ面で見た。相も変わらず武東はニコニコと笑みを浮かべていたが、こいつの本性を知った後では好印象を感じるわけもなく、ただただ胡散臭いと思うばかりだ。そんな私の視線に気づいた武東は、私のほうに顔を向けると人の悪い笑顔へと表情を切り替え、そしてなぜだが私の右手をギュッと握った。シェイクハンドじゃなくて、私の指の間に奴の指の間を合わせるようなガッチリした握り方だ。

 ちょっと止めてくれないか武東よ。指の間の血管がキュッとなって地味に痛いんですけど。あれですね?これは新たなる嫌がらせなんですね?分かります。きっと一ヶ月前にやってしまった卒業証書アタックをまだ根に持っているんだ。この男は。本当に尻の穴の小さい男だな。

 私はそんな思いでちらっと武東を見ると、奴はものすごく楽しそうな顔をしていた。なんだかすごくイラッとくる顔だ。そこの先にある電柱にぶつかって、ちょっと一時的に潰れてしまわないかな。イケメンが鼻血を垂らして女子にドン引きされるがいい。


「ねえ。右手つないでるのなんなの?なんか意味あんの?嫌がらせ?」


 私の問いかけに武東は一瞬、え、というような顔をしたが、すぐに笑顔になると私の今までの常識が覆ることを言い放った。


「何?浅倉さん。今まで知らなかったの?男女で友人になったら、こんなふうにに移動する時は常に手を繋がなきゃいけないんだよ。中学の時にも何回か見掛けたことぐらいあるでしょ?」


 武東の言葉は私にとって目から鱗だった。知らなかった。中学時代に男女で手を繋いでいる奴らを見たことはあった。ただそれの意味するところがなんなのか分からず、変わった人間もいたもんだと思っていたのだ。あれにそんな意味があっただなんて。本当に驚きだ。

 確かに武東はいけ好かない奴ではあるが、成績だけは優秀であるから私よりも博識であるし、なにより私に嘘をついてこいつになにかメリットがあるとも思えない。ということは、これは本当のことなんだろう。


「そうなんだ。知らなかった。でもさあ、私はお前といつ友達になったっけ?武東とはアイアンクローをきめられた仲ではあるけど、友達になった覚えは全然ないんだが」


 あれは本当に痛かった。一ヶ月も前のことだけど、思い出すとまだこめかみというか頬骨というか。とにかく、そのあたりがズキズキしてしまうくらい痛かった。今度、こいつの隙を見て仕返ししてやろう。私の渾身の力を込めたアイアンクローを味わうといい。中学時代に学年女子一の握力を誇った私をなめるなよ。


「ええ!まさかこれも知らなかったなんて!」


 武東はさっきよりも大きく驚くと立ち止まり、信じられないといった顔でこっちを見てきた。なんだその可哀想な生き物を見る目は。私は全然、可哀想なんかじゃないからな!ちょっと周りの誰からも嫌われてるだけで、友達も今まで一人もいなくて…。顔も残念だから彼氏もいないし…。さ、寂しくなんてないし!か、可哀想じゃないんだからな!今、目の横からちょっとでちゃったのは、涙じゃないんだから!汗なんだからな!?

 いろいろ考えてしまって悲しくなってしまったが、それをごまかすように私は顔を少し上げて武東を睨んだ。くそ。なんで私より身長が高いんだお前。拳一つ分でも許しがたい。


「ごめん。ごめん。そんなに睨まないでよ。君があまりにも常識を知らないもんだから、吃驚してしまって。あのね浅倉さん。男女の間では、アイアンクローをどちらか一方にきめることが、友達になりましたっていう証なんだよ」


 ついさっき覆った私の中の常識は、数分も経たずに再度大きく覆ることとなった。なんだそのアイアンクローをきめると友達になれるって。私はそんなこと今まで全然知らなかったぞ!なんだじゃあ、あれか武東。お前は一ヶ月も前に私と友達になっていたというのか。しかもあんなに強い力でやったということは、よっぽど私と友達になりたかったんだな…。

 なんだよお前。良い奴だったんじゃないか。ちょっと気持ち悪いところとか、ムカつくところとかあるけど、それは性格の悪い私のほうがもっといっぱいあるだろうし。そんな武東を嫌な奴だと思っていた私が、一番嫌な奴だったんだ。

「そうなんだ。私、その。友達が今まで一人もいなくて。だからそういうことも知らなかった。ごめんなさい」

 私は武東と合わせていた目を伏せて、自分の常識のなさと性格の悪さを恥じた。常々、自分の性悪さは自覚していたが、私の本性を知りそれでも友達になりたいなんて言ってくれていた人に失礼な態度をとっていた自分が本当に情けない。すまない武東よ許してくれ。


「なんだ。そんなこと気にしないでいいよ。じゃあ、これで本当に友達だからね」


 私の謝罪に武東は快く許してくれた。さっきは尻の穴の小さい男といって本当にすまなかった。お前は器のデカい男だよ。お前のその浮かべている胡散臭い笑みも、私にはそう見えるだけでやっぱり良い奴だったんだよ。疑った自分が恥ずかしい。


「うん!ありがとう武東。嬉しいな。人生で初めての友達だ!」


 そう言った武東に私はとびきりの笑顔を向けた。私はその時の奴がどれだけ必死に笑いを堪えていたのかを知らず、本当に馬鹿みたいにヘラヘラと笑っていた。よくよく見れば奴の肩は上下に細かく揺れ、口元はひくひくと動いていたというのに。人生初の友達ゲットに浮かれていた私は、それに気付かなかった。本当に馬鹿だ。自分で自分を殴ってやりたい。

 驚くことにそんな私が武東の嘘に気付いたのは、約一年後の春のことだった。まあ、その話はまた別の時にしよう。

 とにかく、これが切っ掛けで私。浅倉南美は武東知明のとんでもない嘘に騙されるようになったのだった。




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